暗視と非接触画像温度計測に用いられる非冷却赤外線イメージセンサ(IRFPA)は,熱型検出器を集積したMEMSデバイスである.MEMS技術により実現される高断熱画素構造は,感度向上に大きく寄与してきた.これまでいろいろな方式のMEMS非冷却IRFPAが考案されたが,ハイエンド領域では抵抗ボロメータ方式とSOIダイオード方式が進化を続けている.すでに,非冷却IRFPAの画素ピッチは12µmまで縮小されており,ハイビジョンに対応した解像度の素子も開発されている.本稿では,非冷却IRFPAの実用化までの道のりと,進歩の中でMEMS技術が果たした役割を紹介し,今後の展開を議論する.
太陽電池やパワーデバイスの高性能化に向け,シリコン結晶基板の高品質化が求められている中で,有害な残留炭素不純物の低減が課題となっている.そこで,従来法では検出できなかった低濃度の炭素を,電子線照射により発光活性化させ,そのフォトルミネセンスを利用して定量する手法が注目されている.この手法は1012cm-3台に達する高い検出感度をもつ一方,液体ヘリウム温度での測定が必要という障害があった.本稿では,最適化した低波長分散分光計により,扱いが容易な液体窒素温度で,より高速・高感度で炭素定量が行えることを示す.さらに室温においても炭素関連発光を検出でき,定量に利用できる可能性が高いことを紹介する.
スピン軌道相互作用を用いることで,電子の電荷の流れ「電流」とスピンの流れ「スピン流」を相互に変換できる.電流とスピン流の相互変換は,スピン軌道相互作用を基盤とした新原理のスピン素子駆動を可能とするだけでなく,スピン流によって発現する新現象・新機能探索の鍵となる.本稿では,スピン軌道相互作用を中心とするスピントロニクスの新領域「スピンオービトロニクス」に関する最近の研究として,金属酸化物によるスピン軌道トルク生成と磁化制御,自己組織化有機単分子膜を用いた電流‐スピン流変換の光制御に関する実験を紹介する.
近年,表面化学の発展とともに原子レベルで構造が決まったリボン状のグラフェンをボトムアップ手法で生成することができるようになった.前駆体分子の構造を制御することで,多彩なナノ炭素構造体を金属基板上で合成することが可能である.本稿では,ヘテロ原子をドープしたグラフェンナノリボン(GNR)の合成とそれらを評価するための超高分解能原子間力顕微鏡(AFM)について紹介する.合成した構造を直接的に観察するだけでなく,GNRに埋め込んだ元素の違いも検出できるようになった.
生命科学の研究現場において,生体分子を生きたままイメージングできる蛍光顕微鏡はなくてはならないツールとなっている.とりわけ,蛍光標識した生体分子1分子を実時間で直視できる蛍光1分子検出技術は,個々の生体分子の運動,相互作用,構造変化などのダイナミクスを集団平均することなく実時間で観察できる強力な蛍光顕微鏡法である.本稿では,広視野かつ高時間分解能で蛍光1分子検出が可能な微弱光検出器であるハイブリッドフォトディテクタ(HPD)を利用した,蛍光標識した動いている生体分子1分子の高時間分解能蛍光検出を紹介する.
電気陰性度はさまざまな分野で当たり前のように受け入れられている概念である.広く用いられている電気陰性度の数値は,ポーリングの原理によって求められている.原子間の結合エネルギーによって定義されているため,これまで熱力学データを用いて算出されてきた.近年,原子間力顕微鏡(AFM)の発展に伴い,2つの原子の間に働く1本の結合エネルギーを計測できるようになってきた.AFMの探針先端の1つの原子を表面のさまざまな原子に近づけて2原子間の結合エネルギーを計測することによって,個々の原子の電気陰性度を決定した研究について紹介する.本手法では,原子の化学状態に依存する電気陰性度も計測することができるため,触媒など電子の授受が関わる現象の解明に応用できる.
近年,スピン軌道相互作用を用いて電場でスピンを反転しON/OFFを制御するスピンFETが精力的に研究されている.本研究では,III‐V属半導体からなるナノワイヤの軸周りに均一にゲート電極を作製したゲートオールアラウンド(GAA)型MOSFETを開発した.我々の開発したMOSFETは高移動度・高ON/OFF比をもつと同時に,従来までスピンFETの候補として研究されてきたMOS型およびショットキー型FETに比べてスピン軌道相互作用のゲート制御性が10倍以上高い.この結果は実用的な省エネルギー・スピンFETの実現につながると期待される.
近年,さまざまな種類の超解像蛍光顕微鏡技術が開発されています.本稿では,モアレ現象を蛍光顕微鏡に応用して,従来の蛍光顕微鏡の約2倍の分解能を達成した構造化照明顕微鏡(SIM)の原理を紹介します.