スピンオービトロニクスとは,スピンと電荷を利用するスピントロニクスに軌道の自由度を加えてさらに発展させようとする研究分野である.本稿では,スピンと軌道を結び付けるスピン軌道相互作用,効率的磁化操作を可能とするスピン軌道トルク,およびスキルミオンなどの特殊なスピン構造形成に必要なジャロシンスキー‐守谷相互作用について概説する.最近の新たな展開として,反強磁性体やフェリ磁性体におけるスピンダイナミクスとそれらのスピンオービトロニクスへの利用についても紹介する.
現代の医療技術を支えるイメージング技術において,生理活性を有する低分子化合物の動態を生体中でリアルタイムに追跡することが今後さらに重要となる.近年,標識を使わずにレーザーの照射だけで分子の局在濃度分布を高速撮影できる「コヒーレントラマン散乱(CRS)顕微鏡」と呼ばれる光学イメージング技術が注目されてきた.本稿では,医療分野で応用するための技術的な要請を満たすべく,超短パルス技術を用いたCRS顕微鏡システムについて解説する.超短パルスレーザー技術を用いた無標識分光イメージング法を医療分野で応用するにあたり,今後の展望についても併せて述べる.
印刷エレクトロニクスはフレキシブル電子デバイスを低コスト・低環境負荷で生産できる可能性があることから注目されている.シリコン(Si)は高移動度,高信頼性のみならず,CMOS低消費電力回路を実現できる理想的な半導体材料であり,Siインクである液体Siの開発により印刷も可能となった.植物由来材料である紙基板と組み合わせることで,生分解可能な商品包装用電子タグや,経口摂取可能なバイオセンサなどへと応用発展できる.しかしこれまで,Siインクの焼成には350°C以上の温度が必要であった.本稿では,液体Siの基本と,我々が開発した液体Siインクを用いた低温ポリSi膜形成技術,紙基板上に作製した薄膜トランジスタとその特性を紹介する.
ナノインプリントリソグラフィ(NIL)は,ナノスケールの微細加工技術として有効な技術であることが示されてきた.本稿では,NANDフラッシュメモリやDRAMなどの先端デバイスへの適用に向け開発している新しいインプリント装置の紹介,技術開発の進捗状況,ほかの先端半導体デバイス量産装置候補よりも魅力的な生産コストで,かつ将来の要求仕様に適したインプリント技術の展望について報告する.
超解像蛍光顕微鏡は,従来よりも高い空間分解能が得られるため,それまでは直接観察が不可能であった生体内のタンパク質分子の個々の働きを解明できるものと生物学分野からの期待が高い.しかし,その方法の多くは複数枚の撮像を必要とするなど撮像に要する時間が長くなり,時間分解能が犠牲になっていた.筆者らは,時間分解能を犠牲にしない超解像法を目指し,1枚の撮像から従来の2倍の分解能を得ることができるスピニングディスク超解像顕微鏡法を開発した.本稿では,その原理および構造化照明顕微鏡法との類似性について解説する.
半導体の微細化の進展とともに光リソグラフィ光源の短波長化が進んできた.KrF,ArF,ArF液浸,マルチパターニングと進展し,10nm以下のデザイン寸法では極端紫外線(EUV)波長でのリソグラフィが熱望されてきた.近年,光源の性能改善が進み半導体製造現場での250W運転の成功も報告され,ロジックデバイス製造メーカを中心にEUV露光装置の導入が大きく進展している.本稿では,昨今の世界規模での進展について解説するとともに,半導体量産用のレーザー誘起SnプラズマによるEUV光生成の現状について主要な要素技術すなわち,①プリパルスによる変換効率の向上,②LPP生成Snプラズマのトムソン散乱による計測,③高出力CO2レーザーの開発,④磁場デブリミチゲーションを中心にした技術報告も行う.
陽電子放出断層撮影法(PET)は,微量の放射性核種で標識した薬剤の体内分布を計測する技術であり,がん診断などの医療分野で広く使われています.生体深部の極微量な分子を検出できる高い感度と定量性が特長ですが,ここではそれらの特性を生かすためのPET装置の仕組みや留意点を解説します.