ラマン分光によるナノマテリアル研究の理論基盤となると期待される,3次元PCM(Phonon Confinement Model)の原理と発展,最近の展開について解説する.PCMはバルク結晶のフォノンの描像から出発し,ナノ構造の原子振動を閉じ込められたフォノン(confined phonon)として取り扱う.初期のPCMは粗い1次元近似によっていたが,量子化学計算との組み合わせによって3次元PCMに進化し,より物理にかなうモデルとして発展している.3次元PCMの応用例として,ダイヤモンドナノ結晶および最近その存在が明らかとなった「ナノアイス」のラマンスペクトル解析の結果を紹介する.
映像機器は,1830年代に銀塩感光材が発明されて以来進歩を続け,1930年代からは電子管の発展とともにテレビ放送用の電子映像機器として発展を見た.1960年代に発明された固体撮像素子は,コンピュータ,メモリなどのディジタル技術の相互発展もあって2010年以降,映像機器の中心的役割を果たすようになった.こうした映像機器を計測用として取り込む気運も高まり,幾多の装置が市販化された.本稿では,現在主流になっているCMOS固体撮像素子に注目してその原理を紹介し,計測装置として使う場合の特性について述べる.
AFM-IR法とは,パルス赤外レーザーの照射に伴う試料の熱膨張を原子間力顕微鏡(AFM)により「局所的」に捉えることを原理とした新規ナノ赤外分光法の1つである.従来の赤外分光法をはるかに超えた「超解像」ナノ赤外イメージングが実現できる.本稿では,AFM-IR法だからこそ見えてくる「ナノの世界」をさまざまな応用例とともに紹介する.
マグネシウムシリサイド(Mg2Si)は,室温で約0.61eVの禁制帯幅をもつ間接遷移型半導体であるため,近年利用が進む短波長赤外域(SWIR,波長λ=0.9~2.5μm)の赤外センサへの応用が期待できる.本稿では,Mg2Si赤外センサの開発に向けたMg2Si単結晶成長,高純度基板の開発およびpn接合フォトダイオードの開発について紹介する.
STT-MRAMは,電流磁化反転を用いた不揮発な磁気抵抗メモリである.メモリ用途の場合,磁化の反転確率は書き込み電流のしきい値前後で0%から100%へと急峻(きゅうしゅん)に変わることが望ましいが,実際にはしきい値近傍で電流に依存して変化するという特徴がある.この特徴を用いて,反転確率を0.5に調節することで,物理乱数発生器(スピンダイスと命名)を作ることができる.スピンダイスはSTT-MRAMと同じ構造なので,スケーラブルな物理乱数発生器になることが期待できる.
マテリアルズインフォマティクスでは,機械学習さえあれば何でも解決するわけではありません.物理・化学・材料学の知見をもった科学者と機械学習が協創して材料開発を進めていくことが非常に重要です.ここでは,解釈可能な機械学習を用いた「人間主導マテリアルズインフォマティクス」について実際の応用事例に沿って述べます.