電動自動車,ハイブリッド車の屋根に太陽電池を搭載し,太陽エネルギーで内部蓄電池を充電する構成の自動車に対する関心が高まっている.この車載用太陽電池は,太陽電池技術だけでなく,社会そのものを大きく変革する可能性をもっている.車載太陽電池により,70%の自家用車が給油や充電なしで走行できるようになるといった試算もある.残念ながら,車載用太陽電池は既存の太陽電池技術の延長線上にはない.つまり,住宅や発電プラント向けのソーラーパネルを自動車の屋根に取り付けただけでは十分に機能しないし,普及も望めない.本稿では,主に太陽電池サイドから,最近の技術開発動向や,本格普及のためにはどのような技術を研究開発する必要があるかについてまとめる.むろん,本技術は総合技術であり,自動車サイド,インフラサイドからのリソースも援用し,総合的なエネルギーソリューションを目指した研究開発が必要である.
黒色ゴムの非破壊検査用光源として,テラヘルツ光を活用する技術を紹介する.黒色ゴムのテラヘルツ光応答は,材料内部に含まれるカーボンブラックフィラーの濃度や配向状態で決定される.そのため,テラヘルツ偏光スペクトル計測によって,材料内部のフィラー情報や材料全体の歪(ひず)みにアクセスできる.母材とフィラーの混合描像に基づくスペクトル解析モデルは,黒色ゴムに限らず高分子複合材料全般に応用できるため,社会実装が進む軽量・安価なゴム・プラスチック材料の簡易内部検査手法として非常に有力な手法である.
最近,非電荷自由度であるスピンを情報媒体とし,電子スピンの量子力学的な状態や,散逸が少ないスピンの流れ(スピン流)を制御する研究が盛んに行われている.しかし,固体中の電子が担う非電荷自由度はスピンにとどまらない.本稿では,その代表的な例として,伝搬する電子の波動関数の位相,結晶物質で定義されるバレーの流れに主に焦点を当て,固体中の電子波に内在する非電荷自由度を伝送・制御する手法とその物理を紹介する.
大面積表面処理においては,真空装置を用いた処理は高コストとなり,コンパクトかつ高速処理を行うことのできる大気圧プラズマが求められている.我々は,マイクロ波電力の制御によりメートル級の1次元長尺の均一な大気圧プラズマ生成に成功した.このプラズマ生成装置は,長尺・コンパクトな構造であり,導波管長に合わせてプラズマの長さを自由に設定することができる.また,高いプラズマ密度で高速処理を行うことのできる特徴を有している.本稿では,このプラズマ装置のプラズマ生成原理を解説するとともに,本プラズマの特徴を示す.また,本プラズマ装置を用いた表面処理応用例を示す.
固体に可視光を照射したとき,その電子構造が一変する現象は光誘起相転移と呼ばれている.電子間に強いクーロン反発が働く強相関電子系と呼ばれる物質群では,光によって生成した電荷キャリヤが強い電子間相互作用を通して周囲の電子系を変化させることにより,超高速の電子相転移が生じることが知られている.我々は,強相関電子系において,テラヘルツパルスと呼ばれるほぼ単一サイクルの強電場パルスを使って電荷キャリヤを生成し,同様な電子相転移を起こすことを目指して研究を進めてきた.本稿では,その具体例として,有機分子性結晶における電場誘起超高速絶縁体‐金属転移について紹介する.
パワーレーザーにより地上で最も高い圧力を発生制御する技術を利用し,新物質状態を探査するとともに新しい材料創生の可能性を探求している.1000万気圧以上の世界では,液体金属炭素やダイヤモンドよりはるかに硬いと思われるスーパーダイヤモンドなど,新しい物質状態が存在する.このような状態を探査することは材料科学の観点のみならず,惑星科学の観点からも重要であり有用である.さらに,レーザーによる超高圧制御技術とともに超高速圧縮歪(ひず)みを利用した超高圧新物質高効率生成技術,強い非平衡性を利用した高圧相凍結技術とともにX線自由電子レーザーによるダイナミクス診断技術を融合することで,レーザーによる新物質材料創生を目指している.
日本電気(株)(NEC)は,独自の不揮発性金属原子移動型スイッチ(原子スイッチ)を搭載したFPGAの研究開発をしている.原子スイッチは,Cu原子が電圧の印加によって電極間の固体電解質中に架橋を形成・消失する現象を利用した素子であり,極めて大きなOFF/ON抵抗比が得られるという特徴を有する.本稿では,まず微細化と低リーク電流特性を両立させたCu原子スイッチの動作特性を説明する.続いて,原子スイッチFPGAの構成と,マッピングしたアプリケーション回路の動作における消費電力と動作速度の優位性を紹介する.
磁気共鳴画像法(MRI)は,医療と生物学研究の両方に使用される3次元的な生体イメージング法で,核磁気共鳴法(NMR)と同じ核磁気共鳴を測定原理とします.ハードウェア開発に加えて,パルスシーケンス開発などの計測法,情報処理を含む解析法,造影剤などの開発が数十年にわたって持続し,多様な計測対象や応用範囲をもつに至りました.本稿では,NMRの基礎知識をもつ読者を対象に,MRIの基礎知識と応用範囲を概説します.