フラックス法は古くて新しいニッチサイエンスである.溶液からの結晶育成プロセスの一種であり,さまざまな機能性結晶(や結晶層)を育成できることを特長とする.当研究室では,次世代環境・エネルギーデバイスに資する結晶材料研究・開発に注力し,計算科学と高度融合することで,新次元のフラックスイノベーションに挑んでいる.本稿では,可視光応答光触媒,酸化物系全固体リチウムイオン2次電池および無機イオン交換体を研究舞台とした材料設計,結晶育成・評価およびその高機能化・デバイス化に焦点を当てた.本技術は多岐にわたる材料・デバイスに応用できるため,幅広い分野の研究者に活用してほしい.
原子層エッチング(ALE)は,エッチングプロセスにおける吸着過程と反応過程を分離し,それぞれの過程を繰り返すことで,原子層オーダの加工性能を可能にする技術である.ALEプロセスでは,サイクル中にエッチング反応が自動的に原子層オーダで停止する自己律速型反応が重要な役割を担う.本反応を利用することで,表面のエッチング反応を原子層オーダで制御することができ,5/7nmノード世代以降の半導体デバイス製造に求められる超微細加工を可能にする.本稿では,ALEの基本原理,期待される効果を説明するとともに,被エッチング材料,適用プロセスごとに異なるさまざまなALE技術について概説する.高精度の加工性能を有するALE技術に現在,多くの耳目が集まっている.
単層カーボンナノチューブ(SWNTs)は近赤外域に発光を生じることから,光通信の光源やバイオイメージングにおける発光材料としての利用が期待されている.しかし,発光の量子収率が1%程度と低いことが課題とされてきた.最近の研究では,化学修飾率を制御して適切な化学修飾を施すことで,局所的にSWNTsのバンド構造を変えて効率の高い近赤外発光を発現できることが見いだされた.化学修飾の方法,反応試薬の種類,化学修飾率によって,発光波長や強度が制御できることもわかってきた.化学修飾により,発光波長や発光効率を制御した機能性SWNTsの近赤外発光材料としての活用が期待される.
負熱膨張材料は樹脂や金属と複合化することで構造材の熱膨張率を自由に設計できるため,精密な位置決めが要求される半導体製造装置やカメラなどの光学機器,各種精密加工,異種材料間の熱膨張係数のすり合わせが必要な半導体デバイスの分野で注目されている材料群である.本稿では,サイト間電荷移動によって,既存材料の6倍もの負の熱膨張を示すBiNi1-xFexO3と,それをエポキシ樹脂に分散させたゼロ熱膨張コンポジット,そして強誘電‐常誘電転移によって巨大負熱膨張を示すPb1-xBixVO3を紹介する.
ナノスケール構造によって熱フォノンの輸送を制御する研究が広く行われるようになり,「フォノンエンジニアリング」分野として注目されている.本稿では,熱電変換などを目的とした結晶材料の熱伝導を抑制する技術の最近の進展について概説する.フォノン粒子の境界散乱効果の限界の追究,フォノン波の伝播を変調する新しい戦略,マテリアルズインフォマティクスを利用した最適ナノ構造設計に関する研究例を通じて,当該分野の動向や方向性を議論する.
自動車産業は100年に一度の変革期を迎え,電動モビリティへのシフトが活発になっている.その重要な役割を担うのがリチウムイオン電池であるが,電池の大型化と需要拡大に伴って元素戦略,環境負荷,そして安全性の面で新たな課題が顕在化しつつある.その課題解決には,レアメタルに依存しない電池開発や全固体電池といった次世代電池が期待される.筆者らは酸化物ガラスの結晶化による機能性セラミックスの創製に取り組んでおり,そのアウトプットの1つとして電池材料開発を進めている.電池の主要部材である正極活物質においては主に遷移金属酸化物が用いられている.本稿では特にアルカリと酸遷移金属酸化物を多量に含有するリン酸塩ガラスの結晶化機構と,ナトリウムイオン電池における活物質としての機能性について解説し,産学連携により試作に成功した新規な酸化物全固体電池のコンセプトと今後の展望について紹介する.
強磁性体の内部は複数の磁区に分かれており,磁区ごとに磁化の向きや大きさが異なる.磁区の形状や幅は材料の磁気特性を反映しているため,磁区観察は磁性研究の有力な手段となっている.これまでの主な磁区観察法は試料表面での2次元的観察に限られていたが,本研究ではX線トモグラフィ法によって,磁性体内部の磁区を3次元的に「透視」するための手法を開発した.
磁気共鳴画像法(MRI)は,医療と生物学研究の両方に使用される3次元的な生体イメージング法で,核磁気共鳴法(NMR)と同じ核磁気共鳴を測定原理とします.ハードウェア開発に加えて,パルスシーケンス開発などの計測法,情報処理を含む解析法,造影剤などの開発が数十年にわたって持続し,多様な計測対象や応用範囲をもつに至りました.本稿では,機能的MRI(fMRI)と造影剤について概説します.