シリコン集積回路・トランジスタの微細化限界が近づく中,次世代エレクトロニクスの喫緊の課題は,高性能化と超低消費電力化を同時に実現する基盤技術の創出であり,新たなゲート構造・チャネル材料・スイッチング機構・集積構造の導入が検討されている.チャネルが縦方向に配向した縦型ナノワイヤトランジスタもその一貫であり,実質的なスケーリングを継続したまま,これらの課題を解決できる潜在性がある.本稿では,現在の集積回路技術の動向・課題を踏まえながら,シリコン上のIII‐V族化合物半導体ナノワイヤ成長の基礎から縦型トランジスタ応用とその展望について解説する.
熱電材料は,廃熱発電による省エネやIoT(Internet of Things)のセンサなどの自立電源に活用されることが期待されている.熱電変換性能がまだ十分とはいえずに,相反する物性的な要請に応えて,特に低性能な傾向がある資源豊富な元素を主成分とする材料に対する新規な高性能化メカニズムの発掘は重要な意味がある.最近の展望として,磁性元素の導入や磁性半導体を活用し,磁気相互作用やスピン揺らぎを通して,比較的高温でも有効な高性能化機構が見いだされているので解説する.
近年,白色LEDが急速に既存白色光源を置き換えつつあるが,高出力化による発熱により,5d-4f発光を有するCe3+やEu2+蛍光体の温度消光が問題になってきている.これまで温度消光プロセスは,配位座標モデルを用いた熱活性化クロスオーバーで説明されることが多かったが,5d励起電子が伝導帯へ移動する消光機構が存在することをY3Al5-xGaxO12:Ce3+蛍光体において明らかにした.さらに,青色光励起で生じる電子移動消光プロセスを有効に利用することにより,新たな青色蓄光可能な長残光蛍光体開発への展開を行ってきた.また近年,ランタニドイオンとホスト化合物の固体電子構造の半経験的なモデルから,長残光蛍光体における最適電子トラップの予測も可能になってきている.
我々は無機固体材料のナノポア(ソリッドステートナノポア)を用いたDNAシーケンシングの実現を目指している.実現に向けては,DNAがナノポアを通過する際に,その塩基配列を反映した電気信号を取得可能にする舞台の構築に難しさがあり,以下の3つが主な技術課題となる.1つめはDNA直径相当の大きさのナノポアをメンブレンに形成すること,2つめはメンブレンの厚みをできるだけ薄くすること,そして3つめはナノポアを通過するDNAの速度を制御すること,である.本稿では,これら課題の解決に向けた我々の技術開発の総括と,それによって見えてきたDNAシーケンシングの可能性を議論する.
固体酸化物形燃料電池†1の電解質として利用可能なプロトン伝導性固体酸化物の伝導機構を,電気化学実験と計算科学の両面から検討した.対象となる固体酸化物は,スカンジウム(Sc)またはイットリウム(Y)置換ジルコン酸バリウム(BaZrO3)であり,いずれのドーパントの場合もプロトントラップが起きること,プロトントラッピングが起こりやすいサイトがYの場合,ドーパント最近接でないこと,これらが局所的な水素結合状態に深く関係することを説明した.
アンモニアは生命の維持に不可欠な窒素源であり,水素の高密度なキャリヤとしても関心を集めている.その工業的合成法は100年余り前に確立された窒素と水素から高圧・高温下で行うハーバー・ボッシュ法であり,現在でも大部分はこの方法で製造されている.筆者らはアンモニアのオンサイト合成に適した,温和な条件下で効率的生成を可能にする触媒の研究を行ってきた.本稿では電子がアニオンとして働くエレクトライド(電子化物)の特徴を活用した触媒について,物質科学の視点からその概要を紹介する.
プラズモニックカラーは周期性に基づくフォトニック結晶的な構造色と異なり,回折限界に匹敵する極めて高い解像度を実現できる.しかし,金属の光吸収に伴う彩度の低下が問題であった.筆者らは高い屈折率をもつ誘電体であるシリコンに着目し,単結晶シリコンからなる誘電体光アンテナをミー共振器として利用することにより,損失が少なく高彩度で高い解像度をもつカラーピクセルを実現した.また,ミー共振器上にクロムマスクを付加することで,さらに解像度を向上させることに成功した.この構造色は光の回折限界に近い解像度をもつことが可能であり,カラー画像に用いれば,理論上最も細かい文字や絵を描くことができる.これは,工業製品などの偽造防止技術やディスプレイなどへの応用が期待される.
本稿では,人工知能(AI)の現状・今後とハードウェアへの期待について解説します.特に,近年注目されている深層学習について取り上げます.また,深層学習の数理的な意味合い,主要な手法,最適化に関わる話題について概観し,深層学習がハードウェアにどのような影響を与えるか,その期待についても述べます.