エアロゾルデポジション(AD)法やコールドスプレー(CS)法などの純粋な衝突圧力や衝撃力を利用するコーティングプロセスが注目されている.微粒子や超微粒子を数百m/s以上に加速し,ビーム形状にして基板に衝突させ,純粋な機械エネルギーを供給するだけで緻密で密着力の高い膜が形成できる.金属とセラミックスの微粒子は,ほぼ固体状態のまま室温で巨視的に結合していると考えられる.実際,AD法では,室温で数十nm以下の微結晶構造を有する緻密なセラミックス薄膜や厚膜を形成することができ,優れた電気機械特性が得られることが確認され,半導体製造装置の分野,重要なコーティングプロセスとして事業化されている.これは「常温衝撃固化現象(RTIC)」と呼ばれており,原料粒子を溶融状態または半溶融状態にして接合する溶射技術や衝撃焼結とは成膜原理が異なると考えられる.本稿では,RTIC現象を用いたADプロセスの堆積メカニズムと,将来のコーティング技術としての重要性について説明する.
金属ハライドペロブスカイトを発光層としたLEDに関する研究が加速している.金属ハライドペロブスカイトは,優れた自己組織性をもち,溶液プロセスや真空蒸着法などの簡便な方法により薄膜化することができる.また,金属ハライド骨格に起因した高いキャリヤ移動度および半値幅が小さな発光を示す.有機ELとは異なり,1重項励起状態や3重項励起状態といった概念は存在せず,原理的には100%の内部量子効率が得られる.つまり金属ハライドペロブスカイトは,有機半導体と無機半導体の利点を兼ね備えた究極的ハイブリッド材料であり,ディスプレイ用の発光材料として有望である.25年前に最初に発表されたペロブスカイトLEDからは低温でしかエレクトロルミネセンスが観測されなかった.しかし最近では,20%を超える極めて高い外部量子効率が室温でも得られるようになってきた.本稿では,金属ハライドペロブスカイトLEDの研究動向について解説する.
赤外固体レーザーと非線形光学結晶を組み合わせた波長変換方式の深紫外コヒーレント光は,半導体フォトマスクやウェーハの検査光源として広く利用されている.また,最近ではガラス複合基板や炭素繊維強化プラスチックなど難加工性材料のレーザー加工応用に向け,光源の高出力化が進められている.波長変換の最終段に用いる結晶は光源の出力,寿命を決める特に重要な素子であり,筆者は深紫外光変換特性に優れたホウ酸系結晶CsLiB6O10(CLBO)の研究に長く携わってきた.本稿ではこれまでの育成技術の進展,産業用深紫外レーザーへの実装,最近の取り組みなどを時系列で振り返りながら当該分野を解説する.
タンタル酸ニオブ酸カリウム(KTN)は,極めて大きい2次の電気光学(EO)効果をもった材料として知られている.その特徴を利用して,光スキャナおよび可変焦点レンズとして製品化されている.特に,光スキャナは波長掃引光源のエンジンとして組み込まれ,光干渉断層計(OCT)や高精度位置測定システムに応用されている.このKTNは全率固溶体のため,単結晶の製造が難しく,現在はTSSG法による製造が主流であるが量産性に課題がある.私たちは将来の量産を見据え,垂直ブリッジマン(VB)法と原料連続供給技術を融合し,高品質なKTN単結晶の製造に成功した.
ペロブスカイト型構造をもつ金属酸窒化物は,新しい誘電体材料として注目される新規化合物群である.その合成手法は一般的に酸化物前駆体を有害なアンモニア気流中で加熱し窒化するものであり,代替手法の開発が求められていた.我々のグループではアンモニア以外の窒素源として窒化タンタルを用いた直接反応合成法や,窒化炭素を用いた新しい合成手法を開発した.これらの手法は安価で安全なだけでなく,合成温度の低温化や保持時間の短縮が可能になった.
結晶(c-)シリコン(Si)系太陽電池は,現状では太陽電池市場の大部分を占めるが,さらなる普及拡大のためには一層の低価格化,高効率化が求められる.基板の低コスト化,薄膜化に伴う開放電圧の低減,Si終端化による界面再結合の抑制のためには,既存のp,n層に替わる新規電子・正孔輸送部材の開発が期待され,最近では金属酸化物,有機・高分子部材との接合が注目されている.本稿では透明かつ正孔輸送層として有機系太陽電池などで広く利用される導電性高分子Poly(3,4-ethylenedioxythiophene):Poly(styrene sulfonate)(PEDOT:PSS)とn型結晶Si(n-Si)ヘテロ接合太陽電池研究の現状とPEDOT:PSS/n-Si接合特性について紹介する.
昨今,人工知能(AI)技術が目覚ましい進展を見せており,新たな産業を創造する革新的なテクノロジーとして注目されています.このAI技術の基盤は,データ,アルゴリズム,そしてハードウェアといわれています.このハードウェアが直面している課題として,機械学習が必要とする,同じような種類のばく大な演算に対し,従来のCPUアーキテクチャが最適ではない点があります.また,ムーアの法則の終えんがいわれ始め,半導体の微細化による性能向上のペースは鈍化しています.こうした中,新たなアーキテクチャに基づく,AI演算のための専用ハードウェア(これをAIチップと呼ぶ)への期待が高まっています.本稿では,このAIチップの特徴と方向性を紹介します.