深層学習など,機械学習に最適な不揮発性メモリを紹介する.機械学習では,ある程度のエラーを許容する(精度を落とすことができる)ことを利用して,不揮発性メモリの高速化・低電力化・低コスト化を図る.ただし,LSIのチップレベルではエラーが存在しても,機械学習を使った推論・認識の精度は落とさないようにすることが必要である.本稿では,機械学習に向けてエラーを許容した,Approximateコンピューティングを適用したSRAM・DRAM・不揮発性メモリを紹介する.メモリのみならず,深層学習のネットワーク,積和演算器(データ処理部),ネットワークなどさまざまな階層で,機械学習応用を対象としたApproximateコンピューティングの検討が行われている.機械学習に最適なコンピュータを実現するためには,これらソフト・ハードの異種レイヤを統合し,どのレイヤでどのようなエラーが許容されるかを,今後明らかにする必要がある.
低い電圧変化で急峻(きゅうしゅん)に電流をオンオフでき,極低消費電力システムを実現する急峻スイッチング素子の有力候補であるMOS型トンネルFET(TFET)の動作原理とデバイス・材料技術を紹介する.TFETは,MOS構造をもつ半導体中に形成されたpn接合に逆バイアスの下で流れるトンネル電流をゲート電圧で制御する.トンネル電流のオンオフは,価電子帯と伝導帯端のエネルギー状態密度がオーバーラップの有無で決まるため,ゲート電圧で急峻に変化させることが可能である一方,トンネル電流量の増大が課題である.本稿では,TFETの優れた電気特性を実現するための手法と現状,また将来動向について解説する.
マイクロコントローラ(MCU)に混載されるフラッシュメモリには,性能,信頼性,消費電力などさまざまな要求がある.スプリットゲートMONOS型フラッシュメモリ(SG-MONOS)は特に高性能,高信頼性のフラッシュメモリとして長い実績をもつが,本稿では,さらなる高性能化を目指し,先端ロジックで採用されているフィンFET構造を有するSG-MONOSを作製した結果について紹介する.ロジックと同様SG-MONOSにおいても3次元構造の効果が得られ,次世代フラッシュメモリとして期待される.
不揮発性メモリは情報の書き換えに大きなエネルギーを必要とするため,その応用はストレージに限定されています.このジレンマを解消するために,スピントロニクスメモリにおけるSTT書き込み,スピンホール書き込み,およびVoCSM書き込みを検討しました.その結果,単ビットレベルでのスピンホール書き込みを実現し,VoCSM書き込みでは不揮発性を保ったまま,揮発性メモリ並みの低エネルギー書き込みと実質無限回数の書き換え耐性を併せもつポテンシャルがあることを確認しました.
変調型誘導熱プラズマ(MITP)を用いたナノ粒子の粒径制御・大量生成手法を紹介する.熱プラズマはガス温度が10,000Kにも達する高温高気圧のプラズマである.MITPでは,熱プラズマに投入する電力をミリ秒程度で変調することで,熱プラズマ温度場・反応場に周期的な擾乱(じようらん)を与える.筆者らは,この変調に同期させて原料を間歇(かんけつ)的に導入することで,高効率に原料を蒸発,高効率に核生成させて大量にナノ粒子を生成する手法を開発している.本手法により,酸化物ナノ粒子,金属イオンドープ酸化物ナノ粒子やSiナノ粒子を,数百g/hの高レートで生成できる.また,冷却過程を制御するとSiナノワイヤまでを生成できる.さらに,ナノ粒子生成過程における前駆体分子の生成・輸送過程の一端を2次元分光法により明らかにしている.
本稿では,超音波で心臓内の血流パターンを可視化する血流速度ベクトル表示技術であるVector Flow Mapping(VFM)の概要として,血流速度ベクトルの計測原理と精度検証に触れ,さらに,VFMが原理的に有する計測の質的脆弱(ぜいじやく)性と脆弱性を克服するVFM計測の信頼性担保法について紹介する.
デジタルアニーラ(DA)とは,量子コンピュータに着想を得たディジタル回路であり,一般的なコンピュータが苦手とされる「組合せ最適化問題」に特化して高速に解くことができます.ディジタル回路であるため,室温で安定動作し,小型化が容易です.また,全結合アーキテクチャにより,イジングモデルで定式化された組合せ最適化問題をそのまま扱うことが可能です.これらの特徴を生かして,化学・創薬,金融,交通・物流など,さまざまな分野における組合せ最適化の実問題へのDA適用が進んでいます.ここでは,DAの基本原理と適用事例について紹介します.