ミリ波は波長数mmの光であり,車載レーダーや第5世代通信の発展によって身近な技術となってきた.このミリ波帯域で空を見上げれば,大気や宇宙について可視光とは異なる情報が得られる.宇宙マイクロ波背景放射(CMB)は最も遠く,最も過去から地球に到来するミリ波であり,その起源はビッグバンと呼ばれる宇宙初期の超高温状態の熱放射である.CMBを精密観測することによって,宇宙の始まりについて研究できる.一方,宇宙よりも手前にある大気放射をミリ波で観測することによって,水蒸気量のモニタリングが可能である.局所的な水蒸気量の増加は,竜巻やゲリラ豪雨といった突発的気象災害の予兆の予兆ともいえる兆候であり,ミリ波センシングは気象予測にも有益である.さらに,ミリ波センシングはダークマターの研究も有望な技術である.宇宙創成と気象予測に役立つミリ波の一面について解説する.
固体電極に接する電解液に形成される電気2重層は,電子移動や結合の組み替えを伴う電気化学反応だけでなく,電力を蓄えたり,誘起されたキャリヤを輸送する「場」として,物質の機能を引き出すために重要な役割を果たしている.その一方で,電解液を構成するイオンや溶媒が常に動き回っており,その分子スケールの描像は古典的な理解を超えられていない.本稿では,筆者らが開発してきた電気化学界面の顕微解析手法によりどのような情報が得られるかを述べたあと,分子動力学計算を併用しながら電気2重層中のイオンの振る舞いを詳細に解析してきた例を2つ紹介しつつ,どこまで分子的な描像に迫ることができるのかについて述べてみたい.
米国の有人月面着陸計画(アルテミス計画)や(国研)宇宙航空研究開発機構(JAXA)のはやぶさ2など世界各国では月・惑星探査が大変注目されている.その中でも表面状態・状況を直接探査実現することができる自律移動車両(ローバ)は,現在および近未来の重要なツールとなる.実際に火星にはアメリカや中国の探査ローバが送られ,多くの有益な情報が獲得されている.月・惑星探査は主に車輪型のものが多く採用されているが,月や火星表面上はレゴリスと呼ばれる軟弱地盤で覆われており,走行時には車輪下の地盤は破壊されやすい.つまり,車輪回転時は滑りや沈下現象が起こり,探査ローバは走行悪化となりやすい状態が継続される.そこで,この滑りや沈下の特徴を車輪と軟弱地盤の関係からつかみ,走行悪化となりづらい車輪(柔軟車輪)や地盤の特徴を利用したロボット(パイル貫入型ローバやPush Pull Locomotionローバ)を紹介する.さらにこれらの成果から,地上用技術への応用として,被災地などのがれきが多く介在した状態でもパンクの危険性がなく,軟弱地盤走行が可能であり,かつ通常舗装道路を走行できる空気レス可変剛性車輪を開発した.また,昨今の農業従事者の平均年齢が上昇する中,安全な作業を目指したキャンバ角可変草刈りローバを紹介する.
近年,太陽光発電の用途は,大規模な事業用電源にとどまらず,分散型電源として新規市場への展開が望まれている.本研究では,市場開拓を目指した分散型電源応用に向けて,フレキシブルかつ軽量な両面受光Cu(In,Ga)Se2 (CIGSe)太陽電池の開発を進めている.CIGSe太陽電池の機能開拓に向けては,良質なCIGSe光吸収層を得るために要する600℃程度の加熱温度に伴い生じる,基板や透明電極材料の熱的劣化が問題となる.我々のグループで開発した,CIGSe太陽電池をMo付きガラス基板から引き剝がす「素子剝離法」は,このような熱的劣化を回避しつつ,デバイス機能を拡張することができる.本稿では,Mo/CIGSe界面で形成するMoSe2の層間劈開(へきかい)に着眼した素子剝離技術とその応用について紹介する.
テラヘルツ電磁波の特長である高い透過性と良好な空間分解能は非破壊センシングに有効であり,製品検査やセキュリティ応用の分野で多くの提案がこれまでされてきた.実用化に向けた研究開発が進められている一方で,利用シーンをより一層広げるには,例えば人の立ち入りが困難な場所でも計測できるユビキタスなテラヘルツ波光源が求められる.そのためには実験室外で利用できる可搬型かつ高出力なテラヘルツ波光源が必要である.非線形光学波長変換によるバックワード・テラヘルツ波パラメトリック発振(BW-TPO)は周期分極反転ニオブ酸リチウム(PPLN)結晶に近赤外パルスレーザー光を入射するだけでテラヘルツ波発振し,共振器構造をもたない機械的に堅牢(けんろう)な光源である.研究の進展によってテラヘルツ波出力が向上し,最近ではジャイロトロン級の尖頭出力が得られるようになってきた.本稿では,テラヘルツ波利用を加速させるユビキタスなテラヘルツ波光源を目指したBW-TPOの基本原理とカスケード波長変換について紹介する.
Liイオン電池を中心とするアルカリイオン2次電池の車載・定置利用に向けては,現在積極的に研究・開発が進められている.それらを幅広く展開するためには,電池の基本性能の向上と併せて,高い信頼性・安全性を満たしつつ低コスト化も進める必要があり,実現に向けては多くの課題が存在する.我々のグループでは,これまでに第一原理計算を中心とした計算科学と電子顕微鏡,表面プローブ顕微鏡技術を中心とした精密解析を連携・融合させて,実用電池に向けた分析・解析・評価技術の応用へアプローチしてきた.本稿では,最近の研究成果を事例として取り入れながら,現状の課題点や今後の展望について紹介していく.
宇宙機は,ごく一部を除きほぼ全てが太陽光発電による電気エネルギーにより動作しています.宇宙空間には雲もなく太陽光発電には理想的に思えますが,実は放射線や高温(日照時)・低温(日陰時),強い紫外線など,過酷な環境要因が発電性能や電力制御に大きく影響します.本稿では,これら宇宙環境に耐えるために宇宙用太陽光発電システムが講じている対策技術について説明します.