レーザー加工は,高速かつ非接触の加工方法として幅広く製造現場に適用されている.レーザーのビームモードはシングルモードとマルチモードに分けられる.シングルモードは,集光性が良く微細加工などに適しているものの,高出力化が難しく発振器のコストが高いことから,これまで加工分野ではあまり普及してこなかった.マルチモードはシングルモードより集光性は劣るものの大出力化が可能であり,レーザー加工に広く適用されている.近年低コストの高出力シングルモードレーザーが市場投入されてきており,加工分野への適用も進められている.本稿では,レーザー加工に適用されるレーザー発振器,レーザー加工技術の開発の経緯,特徴について,事例を交えて解説する.
高分子太陽電池の素子特性パラメータである短絡電流密度(JSC),開放電圧(VOC),曲線因子(FF)について,光電変換素過程の観点から,高効率化を実現するには何が必要なのかについて解説する.光電変換素過程を直接観測するには時間分解分光測定が有効であるので,本稿ではその測定事例を主に取り上げて,最新の研究成果を紹介するとともに,さらなる高効率化を実現するために今後何が求められているのかについて述べる.
分子の有するエネルギーと共振可能な場には量子零点ゆらぎに由来した真空場が存在する.光が入射されていない暗条件においても分子が共振器を介して協同的な相互作用が生じる.このような真空場‐分子のエネルギー混成状態であるポラリトン状態を利用することによって,化学反応ダイナミクスが制御可能となることが提案されつつある.特に結合強度の大きな強結合状態においては,単純な重ね合わせでは記述できない物性が発現することが期待される.本稿においては,光学モードと物質の電子・振動分極の組み合わせにて実現される物性変調に関して紹介する.具体的には,プラズモニック金属ナノ構造を利用した光励起モードの制御および物質の電子励起分極と局在表面プラズモンの強結合状態形成について紹介する.また,共振器を用いた振動強結合状態形成と化学反応性制御の例を踏まえ,振動ポラリトン状態の結合強度制御,さらには振動超強結合状態を利用した水の物性制御として,イオン伝導特性の向上および誘電率の制御に関して解説し,電気化学機能特性向上に向けた我々の試みを紹介したい.
遷移金属化合物における自己組織化した異方的ナノ材料は,その物性の多様性と構造制御の観点から注目を集めている.通常,異方的ナノ構造作製のためには,試料作製条件の調整や高温処理が必要である.一方,スピネル型マンガン酸化物におけるナノメートルスケールでのスピノーダル分解を利用したナノ構造作製は,比較的低温での単純な熱処理のみで可能である.本稿では,磁性スピネル(Co,Mn,Fe)3O4において行われた研究例を紹介する.本系は遷移金属酸化物にもかかわらず,375℃という低い温度での熱処理によりMn-richな正方晶ナノドメインとMn-poorな立方晶ナノドメインが形成される.これらのナノドメインが複雑に相関し合うことでチェッカーボード型ナノ構造やラメラ型ナノ構造が出現し,磁性に影響を及ぼす.
材料の電子機能は,結晶構造の結合・次元性に大きく依存する.そのため,これらを外部刺激により制御できれば,大きな電子構造・電気特性の変化を誘起し,通常の半導体では実現できない巨大物性変調が期待できる.しかし,強固で等方的な結合から成る無機結晶では温度変化などの外部刺激により,構造の次元性まで変化する例はこれまでなかった.最近筆者らは,平衡状態では直接の相境界を持たない2次元(2D)層状SnSeと3次元(3D)岩塩型PbSeについて,非平衡固溶体(Pb1-xSnx)Seを作製し,2D構造と3D構造を可逆的に変化させ,電気抵抗率が3桁変調する新材料を開発した.本稿では,2D-3D構造転移材料(Pb1-xSnx)Seについて,材料・合成プロセスの設計方法から構造・電気特性の特徴について紹介する.
マテリアルズ・インフォマティクスについて,その背景から筆者らの最近の研究例を紹介する.マテリアルズ・インフォマティクスは物質科学と情報科学の融合分野であり,産学両面から注目を集めている.それは,両者の融合によって,これまでの物質科学の限界を超えて材料開発を加速する可能性を秘めているからである.本稿では,物質科学の歴史的な変遷からマテリアルズ・インフォマティクスを捉えることから始めて,MIに寄せられる期待や意義を述べる.続いて,最近の研究例では,シミュレーション速度や精度の向上というような物質科学における狭義の目的を情報技術で解決するものではなく,これまでの物質科学にはなかった概念が情報科学との融合によって生み出されていることをお伝えする.
固体表面において絶縁体表面の実験的研究は,チャージアップ現象が生じるため電子線,イオンなどの荷電粒子を利用しにくいことが知られています.そこで,電気的に中性な原子ビームを用いた絶縁体表面観察についてご紹介します.本稿では,低速原子散乱分光法による絶縁体表面解析について説明します.