有機デバイスは有機ELテレビやスマートフォンのディスプレイとして実用化されているが,フレキシブルデバイスとして新しい応用に向けた研究,開発も進展している.有機デバイスの電子物性を把握することは,デバイスの動作解析,設計に重要となる.インピーダンス分光法は,非破壊検査であるため,実際に発光,発電,演算する有機デバイスそのものの電子物性を評価できる,本稿では,筆者が開発してきたインピーダンス分光法により,高分子発光ダイオードなどの複注入デバイスの電子・正孔ドリフト移動度,価電子帯・伝導帯端から禁制帯内に向けて分布する局在準位,2分子再結合定数が評価できること,有機薄膜トランジスタでは,ゲート絶縁膜の誘電物性,接触抵抗に影響されない電界効果移動度,有機半導体/ゲート絶縁膜界面の界面準位を評価できることを示す.
第一原理計算は,物質や材料のエネルギーや基礎的な物性,電子状態を得るための手段として不可欠であるだけでなく,より高度な計算である材料スクリーニング,結晶構造探索,未知物質予測,熱力学計算,分子動力学計算などを行う手段としても一般的になりつつある.しかし,このような高度な計算は,網羅的な第一原理計算を必要とするため,実行可能な対象は限定的であるというのが現状である.本稿では,機械学習手法や効率的データ構造を導入することにより,第一原理計算に基づいた高度な計算を効率的に実施し,それらの応用範囲(原子数,時間範囲,自由度)を大幅に拡大するための手法について紹介する.
固体NMRおよび3次元電子回折(microED)を相補的に用いて,微結晶の構造解析を行う手法を開発した.電子回折を用いることにより大きさが1µm以下の微結晶の構造解析が可能となるが,その構造には①水素位置,②炭素・窒素・酸素の正しい帰属に不確実さが残る.一方で,固体NMRは,相補的な情報を与えることができる.すなわち,固体NMRは水素(1H)を直接観測することができ,炭素(13C),窒素(14N, 15N),酸素(17O)を明瞭に区別できる.そこで,固体NMRで得られる化学シフトおよび原子核間双極子相互作用(1H-1Hおよび1H-14N)を用いて,電子回折で得られた構造をNMR結晶学のアプローチにより精密化した.
カーボンナノチューブ(CNT)やグラフェンといったナノカーボン材料は,化合物半導体では困難なシリコンチップ上での光デバイス用材料として期待されている.本稿では,ナノカーボン材料を用いた光デバイスとして,グラフェン黒体放射発光素子,半導体CNTによるEL発光素子,室温・通信波長帯で動作する単一光子源,シリコンフォトニクス‐CNT融合素子を紹介し,シリコンチップ上での集積光デバイスや量子情報素子への展望を述べる.
持続可能な社会の発展のためには半永久的に存在し続ける太陽光の活用は必要不可欠である.しかし,現在の太陽光発電に用いられている光起電力効果には,変換効率の理論限界が存在し,昨今急増しているエネルギー消費量に対応できない.そこで,新しい原理としてバルク光起電力効果が候補に挙がっている.この現象は長らくバルク強誘電体で研究されていたが,我々は遷移金属カルコゲナイドナノチューブを対象に研究を進め,ナノ物質において初めて,かつ高効率なバルク光起電力効果を観測した.今後,さまざまなナノ物質を対象としたバルク光起電力効果の研究が発展することが期待される.
材料探索を行う際,相図を把握したいとまず考える研究者は多いだろう.しかし,新物質開発において,相図を1から作成するためには多くの実験を行う必要があり,非常に労力のいる作業となる.そして,相図中でどの点から実験していくのかについては,研究者の勘やノウハウによるところが大きい.相図を効率的に描くための実験提案を,人工知能・機械学習に任せることはできるだろうか? 我々は,実験回数をできるだけ少なくし,詳細な相図を描くために,「次の実験点」を提案する手法を機械学習の一種である能動学習を利用し開発した.この手法では,相図中で不確かな点を機械学習で見つけ出し,その点を次に実験すべき候補として選定する.よく知られた相図に対する検証の結果,相図を描くための実験回数を削減することができ,さらに,相図中で見つかっていない新しい相も効率的に見つけられることがわかった.また,薄膜成長条件に関する新相図作成に開発手法を適用し,効率的に相図が作成できることも示した.
エレクトロニクス産業の進展に伴い,世界の電力需要は大幅に増加しています.人口増加,高齢化,都市集中化の世界のメガトレンドの解決にはスマート社会の実現(IoT化)が必要であり,実現のためには,大規模なエネルギー利用が不可欠です.この動きを受け,エネルギー需給の高効率化,クリーン化はますます重要になってくるでしょう.本稿では,エレクトロニクス産業を支える電子機器需要の歴史を振り返りながら,需要はどう変化してきたか,今後何が求められ,どのように変化していくかを考えていきます.また,このような変化を受け,必要とされる半導体のトレンドがどう変化するか,にも触れてみたいと思います.