高分解能ラザフォード後方散乱分光法(HR-RBS)は試料表面近傍の元素組成を高い定量性で測定できる分析法である.非破壊でサブナノメートルの高い深さ分解能で深さ方向分析が可能である.本稿では,筆者の研究室で開発したHR-RBS装置の概要を略述し,HR-RBSの特徴を解説する.またHR-RBSを用いて,従来のイオン散乱分光で分析が難しいとされていた絶縁物,液体(イオン液体)を分析した最近の結果を紹介する.
我々は,宇宙機への応用を目指した新しい方式の水素センサを,JAXAと共同で開発している.宇宙機向けの水素センサには,酸素が共存しない環境や真空中でも微量の水素を検知することが求められる.開発したセンサは,酸化物イオン・電子混合伝導体である酸化セリウム(セリア)を感応材料に用いた基板型で,500℃に加熱して動作させる.不定比性の酸化物であるセリアは,加熱状態で酸素分圧に応じて酸素を吸蔵・放出する性質がある.一方,水素共存下では,水素はセリア表面に解離吸着し電荷が移動することで電子伝導性(抵抗値)が変化する.つまりセンサの抵抗値は,全圧にはよらず酸素/水素分圧比に依存する.このセリア表面での平衡反応をクレーガー=ビンク表記法で表し,ガス分圧とキャリヤ濃度の関係からセリア表面のガス吸着の状態を考察した.さらにin-situ XAFS観察により,水素吸着前後のセリアの価数変化はわずかであることを確認し,これらの結果から検知メカニズムを明らかにした.
クリーンエネルギー技術の1つである熱電発電は,熱電材料の高性能化が進んでいることから近年注目を集めている.筆者らは,熱電材料としてMg2Snに注目し,その単結晶に格子欠陥を導入する手法(格子欠陥エンジニアリング)を用いて熱電性能を向上させることに取り組んできた.本稿では,無置換あるいは元素置換したMg2Sn単結晶の結晶構造・微細組織・各種物性の結果を示し,格子欠陥エンジニアリングによって単結晶の熱電性能を多結晶よりも高くできることを報告する.
格子熱伝導度は,材料の断熱性や放熱性を決定付ける重要な物性である.近年,材料の断熱性を向上させる取り組みとして,結晶粒界で生じる熱抵抗を積極的に活用したナノ多結晶体が熱電変換などの分野で盛んに作製されている.しかしながら,その熱伝導度の低下機構は十分に明らかにされていない.具体的には,粒界構造と熱伝導度の相関,ナノ多結晶化による粒内フォノン散乱,結晶粒の形状が熱伝導に与える影響など,多くの不明点がある.本稿では,原子レベルの計算科学手法や構造記述子などの情報科学的手法を用いて,これらの不明点を微視的観点から解明した研究例を2つ紹介する.
本稿ではカルコパイライト型リン化物半導体を太陽電池に応用する研究の中で,状態図(相図)を用いたバルク結晶成長,および化学ポテンシャル図を用いた薄膜成長や界面安定性に関する内容を紹介する.カルコパイライト化合物のような多元系材料を作製するうえでは自由度が高くなるため安定相を俯瞰(ふかん)できる状態図は有用なツールであることはいうまでもない.一方,化学ポテンシャル図は,系の成分の化学ポテンシャルを軸にとった状態図である.通常の状態図と異なり,気相をあらわに取り扱える点で気相成長との整合性がよい.いずれも熱力学(平衡論)に基づいた情報であるが,これをプロセスに生かす方法について述べる.また,規則不規則転移を利用したバンドギャップ制御についても紹介する.
太陽光発電の新たな導入対象として,自動車などの移動体への太陽電池の適用が進められている.移動体のボディは空力やデザインの観点から滑らかな曲面で構成されているため,太陽電池を曲面に適用する必要がある.しかし,現在入手できる太陽電池セルは全て平板状であり,最も普及している単結晶Si太陽電池セルは割れやすい脆弱(ぜいじゃく)性材料である.Siウェーハの薄型化や加工プロセスの進展により,フレキシブルな太陽電池モジュールも廉価に買えるようになり,曲面への適用性も向上しているが,自動車のボディは円筒面のような一方向曲げの2次元形状ではなく,球面のような3次元形状であるため(もちろんバスやトラックを除いて),曲面追従性を高めるために従来とは異なる開発アプローチが必要となる.本稿では,車載太陽電池のさらなる普及を目指して取り組んでいる単結晶Si太陽電池セルの曲げ試験,応力解析,曲面モジュール試作,性能評価試験などについて紹介する.
生命計測においては,細胞内のような微小環境において多様な物理・化学パラメータを定量計測できるような計測技術が待望されている.本稿では,この要請に応える新しいナノ計測技術として,窒素‐空孔中心(Nitrogen-Vacancy center: NVセンタ)を含有する蛍光ナノダイヤモンドを定量計測プローブとするナノ量子センサ技術の研究開発について紹介する.また,現在行われているナノ量子センサによるナノバイオ計測や微量生体分子検出などを応用例として取り上げ,今後予想されるナノ量子センサの展開・展望についても述べる.
半導体デバイスにおいてMOS構造は重要な役割を担っています.本稿では,MOS構造の界面準位密度を評価する代表的手法であるTerman法とコンダクタンス法について説明します.エネルギーバンド図や式の利用は極力控えて,これらの方法の原理を定性的に説明します.また,実際の評価における注意点についても説明します.