機器が人に優しく,頼りにされる存在になるためには確かな信頼性と性能を兼ね備えていなければならない.技術開発の進化は加速度的に多くの新技術を誕生させ社会を豊かにする.一方,それらは新たな信頼性課題の起源でもあった.これらの課題を克服するサイクルを繰り返すことで,製品はより高い信頼性を獲得してきた.無休で安定な動作が必然とされるようになった現代では,システムがひとたび停止すると,政治経済までを巻き込む問題となる.機器が重要な役割を担うようになればなるほど重要になる信頼性を半導体を1つの切り口として,信頼性とは何かから,課題解決までのアプローチをいくつかの具体例とともに解説する.
デジタルツインコンピューティングは機能の技術開発が牽引(けんいん)してきたが,その未来像や影響に関しては,議論が世の中から注目され始めたところである.本稿は先行するAIやプライバシーの規律を紹介し,デジタルツインコンピューティングの課題を安全,インテグリティ,責任,ネットワークなどの側面から述べる.
この数年の間に,量子コンピュータは非常に身近な技術となった.一方で,量子コンピュータが何を指すのかは,その時々で変わってしまうため,現在の量子コンピュータ技術がどの程度未来社会にインパクトを持ちうるのかについては,明確なビジョンを持つことが難しくなっている.本稿では,未来の量子コンピュータが持つ技術感から,逆に現在の量子コンピュータ技術を振り返ることで,現在の技術レベル,開発の道のり,現在から未来の量子技術が持つ社会への技術的インパクトを明らかにする.また,未来の量子コンピュータへどのようにアプローチするのかによって,私たちが到達できる量子技術全般がどのように変わってくるのかを具体的に見ることによって,多様な量子技術の社会実装の在り方とその社会実装のインパクトについても概観する.
ナノポアとナノギャップは,1個の生体分子を電流で計測するナノデバイスである.ナノポアの計測対象は,DNA,RNA,タンパク質,ウイルス,および細菌と幅広い.ナノポアは,DNAシークエンサーとして製品化され,ウイルス・細菌計測装置としても製品化されている.ナノギャップは,DNA,RNA,ペプチドなどの1nm程度の生体分子を計測対象とする1分子量子シークエンサーのコアデバイスである.ナノポアとナノギャップは,生物,薬学,および医学に新たな発見をもたらし,革新的な疾病診断法になりつつある.この2つのナノデバイスは,計測システムのハードウエアの構成を変えることなく,計測対象に合わせたナノ構造の最適化と計測データの機械学習により多種の生体分子を検出・識別するデジタルプラットフォームである.ナノポアを用いた新型コロナウイルス検査法と,ナノギャップを用いた大腸がんのマイクロRNA解析を紹介する.
かつてはアニメやSFの中にあったロボットも,今では街角でも目にするものとなり,お掃除ロボットなどに姿を変えて,多くの家庭にも入り込みつつある.自動運転システムや「メタバース」なども,数年後には現実のものとなるのだろう.ただ,筆者らの関心は,このところの高性能や利便性を謳(うた)うロボットや人工知能技術にあるのではない.改めて考えれば,ロボットや人工知能にも(そして,私たちにも),不完全なところはたくさんある.こうした弱さを隠すことなく,適度にさらけだしてみてはどうだろう.本稿では,周りからの手助けを上手に引き出しながら,ゴミを拾い集めてしまう〈ゴミ箱ロボット〉,モジモジしながらティッシュを手渡そうとする〈アイ・ボーンズ〉,子どもたちの昔話を語り聞かせようとするも,時々大切な言葉をモノ忘れしてしまう〈トーキング・ボーンズ〉など,どこか不完全で手のかかる〈弱いロボット〉たちのことを紹介しながら,お互いの「弱み」を補いつつ,その「強み」を引き出し合うような,人とロボットとの優しい共生の姿について考えてみたい.
放射線は,その特性を生かしてさまざまな分野で活用されています.特に放射線治療や診断といった医療分野,また非破壊検査や滅菌といった工業分野で幅広く利用されています.これら放射線の利用においては,放射線の発生源のみならず,放射線の計測技術も重要な要素となっています.本稿では,医療,工業分野における放射線利用の現状や将来の展望,またそれぞれに必要となってくる放射線計測について紹介したいと思います.