「太陽エネルギーを使って水を分解して水素を得る」ことを考えると,太陽光発電で得られた電力を使って水を電気分解することを連想される方が多いかと思われる.本稿では,途中段階での電力への変換を経ずに太陽エネルギーを直接化学エネルギー(水素)に変換する方法について,私たちが最近取り組んでいるp型カルコパイライト化合物CuGaSe2の多結晶薄膜をベースとする光電気化学的な反応系を主に紹介する.
カーボンニュートラル実現のためには太陽エネルギーの有効利用が極めて重要であり,エネルギーを余すことなく利用できる発電技術が望まれる.熱光起電力発電(Thermophotovoltaics: TPV)を用いた太陽エネルギーの電力変換システムであるSolar-TPVでは集光太陽光により中間体を加熱し,放射される熱輻射(ふくしゃ)を光起電力セルで電力へ変換する.したがって本質的に太陽光の全波長利用が可能であり,かつ単接合セルでも高効率変換が期待できる.本稿ではSolar-TPVの高効率化において重要となる熱輻射スペクトル制御技術および実際に行った発電システムの設計と発電試験について紹介するとともに,Solar-TPVによる太陽エネルギー高度利用の可能性について示す.
さまざまな細胞治療が普及し,ヒト培養細胞を用いた医薬品アッセイが盛んに検討されている.来たるべき培養細胞の利活用時代に備え,細胞の分別や純化,回収などの操作を自動化すべく,筆者らは光に応答して細胞に作用する変化を遂げる光応答ポリマーを培養基材に用いるスキームを検討した.まず,光に応答して速やかに水溶化するポリマー材料を新規に開発,これを塗布した培養基材上に接着した細胞を,光照射によって生きたまま選択的に剝離回収できることを示した.また,光に応答して酸や熱を発生するポリマーを用いて,細胞を選択除去して純化し細胞単層を切断する「力ずく操作」の実現を実証した.これらの技術を,ヒトiPS細胞の維持培養などに適用した例についても議論する.
神経回路網は電気的結合とシナプス結合を介して情報伝達を行う.神経細胞間の結合強度を動的に変化させることにより脳の情報処理を実現している.我々は,この神経伝達過程を能動的に,かつ非接触に操作可能な手法として集光レーザービームの光摂動を利用した細胞操作手法の開発を進めている.本稿では,集光レーザー摂動を用いた神経細胞の局所操作について紹介するとともに,神経回路網の細胞機能操作への展望について述べる.
計算機性能や計算技術の大幅な向上により,多数の物質に対して系統的・網羅的に第一原理計算を実行することで,データベースを構築することが可能となってきました.この計算材料データベースは,個々の物質に関する計算結果を参照するのみならず,材料スクリーニングや機械学習のデータセットに用いるなど,多様な広がりを見せています.本稿では,計算材料データベースの有用性や既存のデータベースを紹介するとともに,我々が構築した酸化物DBとその応用例を紹介します.