1次元/2次元ナノマテリアルは,近年新しい物性が次々と解明されており,光デバイス応用も期待されているが,サイズが小さいため光との相互作用が本質的に小さい.しかし,光を強く閉じ込めるナノフォトニクス構造と組み合わせることで相互作用を増強し,低次元物質の特長を光集積回路の中で使いこなせる可能性が見えつつある.本稿では,さまざまなナノマテリアルとナノフォトニクスの融合系の研究例を紹介する.これらの技術により,Siを中心としたパッシブな光集積回路に,ナノマテリアルの多彩な光機能を付加することができるため,将来の集積技術として期待される.
IT(情報技術)の急速な発展と社会浸透により,私たちの暮らしがより快適なものへと変容している.半導体技術は,このような社会インフラシステムを下支えする根幹技術であり,私たちが今後さらなる利便性を享受していくためには,継続的な半導体技術の発展が不可欠である.本稿では半導体技術の現状を振り返りつつ今後の人工知能を支えるハードウェアプラットフォームについて展望する.
神経細胞の培養技術とマイクロ流体デバイスを融合することで,複雑な脳神経回路の構造と機能の一端を生体外に再構成することができる.本稿では,100細胞程度の小規模な神経回路を操作して,生物の脳神経回路を特徴づけるモジュール構造を再現するためのマイクロ流体デバイスの開発や,多点電極アレイを用いたモジュール構造型培養神経回路の機能計測について紹介し,このような基盤技術が脳情報処理の物質的基盤としての神経回路の構造と機能との関係を明らかにするための新しいテクノロジーとなりうることを議論する.
生体分子により構成された分子機械は,生命現象の根源であるだけでなく,ポストシリコン時代のナノマシンや分子演算デバイスとして応用が期待されている.我々はこれまでに,生体分子とコンピュータをリアルタイムにつなぐインタフェースとして,ナノスケールの分解能で電場現象を変幻自在に呈示する「バーチャル電極ディスプレイ」を開発してきた.窒化シリコン(SiN)薄膜の裏面から照射した電子線により,薄膜表面にナノスケールの空間電場を呈示し,水溶液中の生体分子を電気的・化学的・機械的に制御することができる.この技術を用いて,リアル分子と情報空間をつなげる拡張現実技術を目指し,コンピュータ上の情報空間から生細胞や人工細胞膜の形や膜タンパク質を制御することに挑戦している.
微量の血液や尿,唾液などの体液から疾患検査を簡易かつ迅速に行う計測技術は,コロナパンデミックによりますます重要性を増している.トランジスタのチャネルにグラフェンを利用したISFET型バイオセンサは,高い電子移動度と大きな比表面積から,高感度バイオセンシングが期待できる.しかし,電荷を検出するFETセンサでは測定範囲を制限するデバイ遮蔽の問題があり,生理的な塩濃度の溶液中では生体高分子の検出が困難であった.そこで本稿では,基板から自立させたグラフェン表面を分子レセプターで機能化することによって分子認識能を与え,選択性を持った超高感度バイオセンサ技術を紹介する.吸着分子と自立グラフェン膜の相互作用を機械量に置き換えて信号出力することによりサイズに制約のないバイオセンシングが可能となる.
遷移金属カルコゲナイド(TMC)は,その多彩なナノ構造と物性により,近年大きな注目を集めている.特に,合成技術の発展に伴い,単層の2次元TMDCや関連するナノチューブ,ナノリボン,そしてナノワイヤなどのさまざまな1次元ナノ構造の作製が可能になってきた.本稿では,1次元のTMC細線構造に焦点を当て,孤立したTMC細線および大面積ネットワーク薄膜の気相成長に関する筆者らの研究を紹介する.
現代の工業社会を支えている各種の加工技術の中で,レーザー加工や放電加工などのエネルギー加工は,工具と被加工材とが直接接触しないという点が,特徴的な加工法です.それらの加工現象は,非常に高速で加工時に発光が伴うため,一般には直接的な観察が難しい現象で,その詳細は十分には理解されていません.このような短時間現象の観察では,高速度撮影による可視化は,現象理解において重要な技術です.特に,その時間的変化,ダイナミクスを観察することはキーポイントと言えます.本稿では,高速加工現象の高速度撮影システムの構築において必要な技術を紹介します.