1981年,R. Feynmanは量子コンピュータとともに,ハードウェアレベルで確率的に動作するコンピュータを提案した.また2024年にノーベル物理学賞が授与されたG. Hintonの代表的な業績の1つであるボルツマン機械学習も,熱でゆらぐスピンが集合した磁性体をモデルとしている.人工知能の普及に伴う消費電力の増大が深刻化する中,本稿ではFeynmanやHintonの提案を自然な形で実現し,エネルギー効率に優れた人工知能計算を可能とするスピントロニクス確率論的コンピュータについて解説する.組合せ最適化,機械学習,量子シミュレーションなどの原理実証や,高性能化に向けた超常磁性磁気トンネル接合素子の開発について紹介する.
レーザー誘起ブレークダウン分光法(LIBS)は,産業応用,研究現場での利用,海底探査から宇宙探査までまさに宇宙規模でその応用の可能性が広がっている.本稿では,LIBSの基礎的事項を述べた後,スペクトルの定量性に着目し,検量線を必要としない定量分析の基本について解説する.次に,LIBSの重要な応用の1つである水中LIBSについて概観し,自己吸収を伴う発光スペクトルの解析法に関する研究を紹介する.
従来のガラスコアファイバの限界を打ち破る新たな光ファイバとしてフォトニックバンドギャップやアンチレゾナント現象により,屈折率が低い空気に光を閉じ込める,空孔コアファイバが注目されている.今回,空孔コアファイバの基礎から最新の状況,および社会実装展望までを述べる.
太陽光発電は,再生可能エネルギーの中でも最も期待されている発電方法の1つであり,主電力化のためのさらなる普及および新しいアプリケーションの開発が期待される.太陽光発電の新しいアプリケーションとこれからの展開について,ソーラーカーポート,壁面設置太陽光発電,および営農型太陽光発電を中心に,実証試験結果を基に説明する.
人工知能技術の急速な発展に伴いエネルギー消費は一層深刻化している.この問題を解決する新規デバイスとして,室温の熱を利用した確率計算機が提案され,スピントロニクス分野で実証されている.磁性デバイスをチューニングし,スピンがあえて熱揺動の影響を受けやすくすることで,その実証を可能にしている.そして磁性体薄膜中に発現するスピン構造である磁気スキルミオンは,粒子としてふるまいスピンの熱揺動をブラウン運動として示す.本稿ではこのブラウン運動を利用した外部エネルギーをほとんど必要としない「ブラウニアン計算機」について紹介し,磁気スキルミオンの固体中でのブラウン運動の物理・制御および実証例を解説する.
近年,データセンターや生成AI向けの光通信ネットワークは高速化が進んでいる.今回我々は,高速光通信用のハイブリッド導波路構造を持つ超高速な電界吸収型変調器集積レーザー(EML)の研究開発に取り組んだ.広帯域な電界吸収型変調器(EA変調器)の設計,狭い幅のEA変調器を実現するためのウェーハプロセスの工夫と,実装部品の1つである終端抵抗値の最適化により,155Gbaud 4-level pulse amplitude modulation (PAM4) 310Gb/sと6-level pulse amplitude modulation (PAM6) 400Gb/sの超高速動作を実証した.EMLによる超高速な光通信実現の可能性が示されたと考える.本稿では,EMLの基礎構造,技術動向,超高速EMLの設計と実証について説明する.