加速器質量分析(AMS)の信頼性は,14Cの測定を中心に1990~2000年代の初めにかけて,徹底的に検証された.その後,AMSを利用して成し遂げられた数々の研究実績があること,またAMSの研究施設が大きく増加していることを鑑みると,AMSの信頼性は承認されたと見てよい.このような国際情勢を追うように,わが国でもAMS施設が増加してきた.しかしながら,日本では,国がオーソライズする「放射能標準測定法」の「放射性炭素測定法」では,AMSは標準測定法として採用されていない.このような状況の背景には,わが国特有の認可プロセスの保守性と,わが国におけるAMS利用環境の問題があるのではないか.
深紫外LEDは,水や空気の殺菌システムへの応用が期待されている.しかし,現状のAlGaNを発光層とする深紫外LEDは発光出力や発光効率が低いという問題があり,低コスト化と結晶欠陥の低減が実用化への課題であった.筆者の研究室では,大面積かつ均一な膜の作製に適したスパッタ法でサファイア基板上にAlN薄膜を堆積し,その堆積したAlN面の表面を合わせたFace-to-Face配置で高温熱処理することで,転位密度が108cm-2以下の低転位密度を実現した.さらに,その高品質なAlN膜を基板に用いることで,殺菌に有効な265nm帯発光の深紫外LEDで世界最高レベルの効率を実現した.
本稿では,2024年末に装置の上市に至ったプラズマ分子・遺伝子導入法とその課題について解説する.プラズマは細胞に対して電気的刺激と化学的刺激の複合刺激を作用させて細胞の自発的な外部分子の取り込み機能であるエンドサイトーシスを誘導する.複合刺激によって細胞の自発的な分子取り込みを誘導しているため,各刺激の強度が弱くて済むので細胞へのダメージが抑制される.さらに,マイクロプラズマ法ではランダムゲノムインテグレーションを生じることなくプラスミドDNAなどの巨大分子を導入できる.これは医療応用を見据えた実用的な分子・遺伝子導入手段として有効であり,特にゲノム編集の有用なツールとして期待される.
当研究室では,我々の生活に必要不可欠な電子機器類に用いられているバルク単結晶成長に関する研究を行っている.本稿では,その中でも特徴的である,シリコンとリチウムイオン電池用固体電解質に関する研究を紹介する.高品質で大形な単結晶育成やデバイス応用のための研究以外にも,アイデア次第で結晶欠陥挙動解析や多結晶体との比較材料を得るために活用でき,さまざまに研究を展開している.
本稿では,タンデム型変調誘導熱プラズマシステムの開発と,その熱流体場の時空間制御・解析,およびナノ粒子の大量生成と粒径制御技術について紹介する.本システムでは,異なる周波数の2つのコイル電流を用いてガス温度10,000K級の熱プラズマを維持し,ミリ秒単位で電力波形を変調することで,熱プラズマ温度場と反応場を時間的・空間的に制御する.この変調に同期させて原料を間欠的に導入し,高温場で効率的に蒸発させた後,低温場で核生成を促進することで,大量のナノ粒子を生成する手法を開発した.本手法により,酸化物ナノ粒子,金属イオンドープ酸化物ナノ粒子,Siナノ粒子,Siナノワイヤを数百~数千g/hの高レートで合成可能である.さらに,本システムを対象とした数値解析モデルの構築についても紹介する.
半導体デバイスの基本要素であるpn接合,金属・半導体接触,酸化膜・半導体界面について概説し,それらを用いたpnダイオード,ショットキー障壁ダイオード,MOSFETの基本動作について紹介する.
半導体産業の営業利益率はデバイスメーカのみならず,装置・材料メーカも含めて非常に高いことは一般によく知られている.特に半導体前工程に関わっている企業や事業部門では20%以上の営業利益率を達成していることが多く,好景気では30~60%にもなる場合がある.一方,自動車産業は一般的に10%以下であることが多く,部品・材料メーカに至るまで同様である.これは企業ごとの違いや時期に依存することはあっても,それが主たる理由ではなく,産業構造の違いによるもの,すなわち生産効率の違いによるものであることを指摘し,売価アップや固定費圧縮以外に利益率を上げる本質は何であるかをさまざまな産業で高利益率を達成している企業や業種を例に議論する.
応用物理学会(JSAP)は,先進的な研究開発を促進するとともに,インクルーシブでグローバルにつながる科学コミュニティの形成に長年取り組んできました.近年,ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)活動と国際交流活動の関係性が強まっていることを鑑みて,JSAPはD&I委員会と国際交流委員会を統合し,新たにD&I・国際交流委員会を設立しました.この戦略的な統合は,JSAPの歴史において重要な節目となり,会員のためによりインクルーシブで国際的な環境を創出するという学会の決意を象徴するものです.