2023年,Natureに筆者が執筆した「Japanese research is no longer world class」という記事が掲載され,そこでは研究開発費の相対的な伸び悩みや,研究時間確保の課題などに焦点を当てた.本稿ではこの記事を執筆した背景や最近の日本の研究環境の現状について議論する.また,アメリカでは研究環境が激変しつつあり,未来の研究人材の流出の危機に直面しているが,日本でも若手の研究人材に魅力的な環境を作るために多角的な研究環境の改善が求められる.
日本の科学技術力は現在も一定の評価を得ています.今後の人口減少や,物価高に対して適切な対応が求められています.大学が自らの意思で研究基盤を強化することは研究への先行投資として重要だと考えます.
現在,日本は国を挙げて半導体に注力している.Rapidus社の動向が連日報道され,半導体関連企業への就職人気も高い.ところがつい5年ほど前まで,日本では半導体は斜陽産業などと陰でささやかれ,急成長を続ける世界の半導体産業からは取り残されていた.この急激な国内意識の変化をもたらしたものは,政府による半導体巨額支援の決定と明確なビジョンを掲げた有志の行動力であった.半導体は特殊例ともいえるが,日本の科学技術復興に向けて参考とすべき手がかりが垣間(かいま)見える.
本稿では,シンガポール国立大学(NUS)に在籍する研究者である筆者の視点から,日本のサイエンスとテクノロジーについての所感を述べる.国際会議での発表機会や研究の発信のされ方など,海外から見えてきた点を中心に,研究者の国際的な動きや意識の違いを紹介する.また,研究分野の変化の速さや,発信と研究が相互に影響を与える過程についても触れながら,日本の研究の持つ独自性や魅力がより広く知られる可能性について,個人的な経験に基づく考察をつづった.
岡山大学は令和5(2023)年に研究大学強化促進事業(J-PEAKS)に採択されました.これを起爆剤に挑戦的な取り組みを進め,研究力強化と大学経営改革を加速しています.我が国の研究大学の山脈形成のために,国内大学同士の疲労感あふれる競争から,共にワクワク・ドキドキできる共創へ,そして一緒に社会を変革していくことができればと考えています.本稿では,岡山大学のJ-PEAKSでの取り組みを中心に本学の大学経営の一端をご紹介します.今後の大学での研究力強化の一助にしていただければ幸いです.
「スタートアップ企業」という言葉が日本に定着して久しいが,それが本当に根づいたかと問われれば,いまだ疑問符がつくのが現実である.特にディープテック系,すなわち大学や研究機関のシーズ技術に基づくスタートアップは,米国に比して圧倒的に数が少なく,課題も多い.日本のスタートアップの持つ可能性とそれを実現させていくための方法について考えたい.
日本の経済と統計データに基づいて,日本の科学技術活動の全体の動きを分析し,研究開発費の国別比較,主体別,支出源,産業別の動向,技術貿易の年次推移から,現状の我が国の研究活動の立ち位置を明らかにした.日本の研究開発費は世界の中でも高水準を維持し,民間企業の割合が高く,自動車・電子部品デバイス関連が研究費の伸びを支えている.“デジタル赤字”が定着しつつある状況で,観光関連サービス収支の黒字と,技術貿易収支の黒字が稼げるサービス分野になりつつある.
サイエンスとテクノロジーの現状と将来展望を考えるうえで,歴史的視点にはいくつかの効用がある.本稿では,過去から現在への連続性に基づく事態の趨勢(すうせい)の把握という面と,人間や社会の性質に関する洞察の抽出という面から,歴史の有用性を論じる.まず,歴史の流れに照らせば,近年の日本の国立大学等の研究力低迷を広い視野から理解できる.また,過去の日本で創造性が結実した事例を調べると,資金的な制約はあれども研究者が一定の敬意を払われ,独自の信念と意志をもって研究に没頭できる環境があったことが分かる.今,日本の科学技術政策を研究現場の状況に真に適合したものとなるよう再考することが望まれる.
社会の変化が日々速くなっている今日,中等教育(中学,高等学校における教育)は探究活動の充実や思考力の育成を求められ,さまざまな課題に直面している.本稿ではその中でも科学者教育に関して問題点を洗い出し,その対応策を実践例と共に複数紹介していく.事例から見ても,中高生のときから研究活動に触れることや,学外活動を通じて外部の専門家と関わることは大きな意味を持つと考えられる.そのため,今後の中等教育において,大学との連携の必要性がさらに高まることが予想される.
科学技術・イノベーション政策の変遷を概観し,日本の研究力相対的低下傾向の反転に向けた近年の政府の取り組みをまとめる.また,今後の方向性を文部科学省での検討を中心に紹介し,学会の役割にも期待を寄せる.
本稿では,「博士課程への進学」「企業での研究」「海外経験とダイバーシティ」という3つのテーマを通じて,筆者自身のこれまでの歩みを振り返りながら,日本の科学技術のこれからについて考えてみました.進学を決意したきっかけや,研究を身近に感じられた経験,企業での研究の魅力,多様な人と出会える海外での生活など,個人として感じたことや学びをつづっています.あくまで1つの事例ではありますが,これから進路を考える人や,研究の世界に関心のある方にとって何かヒントになり,日本の科学技術の再興につながればうれしく思います.
集積回路は素子の微細化によるチップ面内の2次元的な集積密度の増大でその大規模化が進んできたが,その方法だけでは更なる大規模化が難しくなりつつあり,近年は3次元(3D)的な縦方向への集積化がさまざまな形で取り入れられてきている.本稿では,その新しい3D構造を概観するとともにそれらの構造を形成するプロセス技術の動向について述べる.