1.森林火災は全て,主風(平地風,山上風)の方向に無關係に山麓乃至中腹より頂上へと燃え登るのが本體である.燃え降りもするがその速度緩漫である.そして主風の主役は飛火を起すにあつてこの風向と風速が山林火災の焼跡の向きと形を決定する.その形状は不規則な扇形或は卵形でその主軸は風向と一致する.
2.立木の片面燃燒は山林火災の顯著な現象で又その特徴でもある.此の現象は立木の風下側に下草の燃燒の火焔によつて起り,強風の時高く幹に沿うて登る.その高さは幹の直徑と共に増加するから,巨木程,枝伐を高くまで行はねばならぬ.この現象は氣流が障碍物に當つて生ずる渦で火焔でなくとも重い烟でも惹起する.火焔は高温のためそれを誇大にする役目をなすに過ぎぬ.又燃え易き樹皮はその現象を倍加する故特にこの種の森林に對して注意を要する.片面燃燒は下草又は落葉火によつて,樹冠火に誘ふもので森林火災の損失は主としてこれによるものである.
3.森林火の燃燒縞は特異な現象で山麓から尾根にかけ帶状に焦林と緑林とを平行に並べた斑燒である.この成因に不明なところが多い.然し之を明かにすることによつて,所謂火道なるものゝ學術的根據が鮮明になり,防火作成の一助となるかと思ふ.
此の研究は主として日本學術振興會の補助と奬勵によつて行はれたもので,こゝに深甚なる感謝を表はす.又實驗に調査に岡上正夫君,小柳常雄君その他當氣象學教室諸氏の援助によるところ多く,併記してその好意を謝す.
抄録全体を表示