金属酸化物薄膜の成長は,真空中あるいは基板および成長層表面上で金属原子と酸素原子が化学結合しながら,結晶構造を組み上げるプロセスである.表面上のプロセスの中には核形成プロセスと格子整合プロセスおよび構造を組み替えるプロセスが現象としてかかわっている.そのような見方で,まず筆者らのイオンビームスパッタリング法によるTiO
2,薄膜の構造制御の研究を例にして制御すべき諸因子を再確認する.次に,核形成および格子整合プロセスについてのいくつかの研究例を紹介し,成長機構を解明するために今後取り組むべき基本的な課題として,次の5点を指摘する: (1) 結晶核を構成する原子集団は何か, (2) 多形構造のうち特定の構造を優先するタイミングはいつか, (3) 二次元あるいは三次元の島同士が合体成長するとき原子配置の位相の相違をどのようにして調整するのか, (4) 成長表面は結晶としての構造が不完全であるために電気的中性条件からはずれるので,その間に (2) や (3) がどんな影響を受けるか, (5) 薄膜と基板との格子不整合によるひずみとそれを緩和するために導入された結晶欠陥の特徴.
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