前世紀の最も重要な発明であるトランジスタは,半導体表面の電気特性,特に表面電子状態の研究から生まれた.しかし,表面電子状態そのものによる電気伝導については,今日に至るまでよくわかっていない.この「表面状態伝導」は,結晶表面のわずか1,2原子層だけを通るものなので検出するのが容易ではない.しかし,超高真空中で動作する四探針型走査トンネル顕微鏡やミクロな四端子プローブなど,最近の新しい実験手法によって直接測定が可能となり,その結果,きわめて興味深い伝導特性が明らかにされ始めた.表面電子状態はバルク電子状態とはまったく異なる独自の特性をもつので,それ自体を「ナノマテリアル」と呼ぶほどである.近い将来,これは,ナノメートル・スケール低次元電子系の物性物理の舞台としてだけでなく,電子デバイスにとっても重要な役割を演じる可能性がある.
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