日本心理学会大会発表論文集
Online ISSN : 2433-7609
日本心理学会第85回大会
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公募シンポジウム
  • 後藤 崇志, 小宮 あすか, 日道 俊之, 柳岡 開地, 北村 英哉
    セッションID: SS-021
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
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    自分や社会の未来の姿について想像し,理想や目標に向けて行動を変えていくことは,ヒトという動物種が持つ重要な心の働きの一つとされる。「いま,ここ」にないものを想像したり,予測を立てたり,目標を設定したりするという未来思考に関わる心の仕組みは,心理学を中心に人間行動を扱う様々な学問分野で研究が進められてきた。本シンポジウムでは,3名の話題提供を踏まえ,未来思考を支える心の仕組みは個人が社会と関わる中でどのように獲得され,社会生活の中でどのような働きを果たすのかについて考える。後藤は学習動機づけ研究の視点から,保護者の持つ学習・教育への期待や価値が子の動機づけに影響する過程についての研究を報告する。日道は利他行動研究の視点から,未来の世代に対する富の分配行動と社会的価値志向性との関連についての研究を報告する。柳岡はセルフコントロール研究の視点から,内集団の行動選択や文化的慣習と子の満足遅延行動との関わりについての研究を報告する。認知・感情などのミクロな視点,文化・制度などのマクロな視点の両面から社会的認知研究を進めて来た北村からの指定討論を受け,未来思考の社会心理学的機能について議論する。

  • 堀毛 一也, 島井 哲志, 有馬 雄祐, 福島 慎太郎, 矢野 和男
    セッションID: SS-022
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
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    最近のポジティブ心理学領域では,第3の柱として強調されてきた,組織・社会・文化領域での関連研究や,応用的な介入研究が盛んに行われている(Diener, Oishi & Tay, 2018)。一昨年に開催した(1)のセッションに引き続き,本年度のシンポジウムでは,こうした応用的見地から研究を進めておられる3人の先生を話題提供者としてお迎えし,ポジティブ心理学研究の応用可能性の広がりについて,フロアの皆様とともに論議を行いたい。まず,有馬雄祐先生には,「家」が関連する主観的幸福(家のSWB)について,概念的定義とともに,住居の特徴や暮らし方との関係性を分析した結果についてお話いただく。福島慎太郎先生には,集団レベルの幸福感の抑制は,幸福感に対する単純な負の効果を意味せず,心理的な自他の幸福の相関を高める「文化的な幸福感」を表出させているとする知見を中心に,信頼関係と幸福感の関係についてお話いただく。また,矢野和男先生には,テクノロジーを活用して収集した1000万日を越えるデータを活用した知見をご紹介いただきながら,「予測不能の時代の幸せの本質」についてお話いただく。

  • 藤 桂, 阿部 晋吾, 榊原 良太, 水野 雅之, 野口 麻衣子, 平野 智子, 中大路 誠
    セッションID: SS-023
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
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    長期化の一途を辿るコロナ禍の中で,医療従事者をはじめとするエッセンシャルワーカーが担う役割の重要さに大きな関心が寄せられてきた。その一方で,感染症対応の最前線に立つがゆえの心理的負担が重くのしかかっていることについても,深刻な問題として注目されている。本シンポジウムではその解決に向け,人々の心身を「支えてきた人」である医療従事者を対象として,「どのように自身や周囲を支え,支援を継続してきたか」という点に切り込んだ国内の研究・取り組みについて話題提供をいただく。加えて,昨今のコロナ禍において,医療従事者を取り巻く対人的・社会的環境がどのように変容し,またそれらの変容が医療従事者にどのような心理的影響を及ぼしうるかについても,多様な観点から紹介いただく予定である。これらの知見を総括し討論を交わしながら,医療従事者における職務特性,および,現在も続くコロナ禍ゆえの問題を新たな視点から捉え直すとともに,我々が今できることについて議論を深めていく場とする。そして,「支えてきた人を支えていくために」何が必要なのかを問い直す機会としたい。

  • 白井 利明, 峰尾 菜生子, 田丸 敏高, 西垣 順子, 加藤 弘通
    セッションID: SS-024
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
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    本シンポジウムでは,青年期発達の一般性・時代的な特殊性・大学生個人の個別性という観点から,大学生活における社会観の発達を検討する。青年期は「社会歴史的規定性」が強い時期(小松・白井・高橋,2013)とされる。その時々の社会状況と発達との関係を考えるには,発達傾向や個人の性質も考慮した上で,具体的な生活の中でその個人を把握する必要がある。話題提供者は,大学生活における社会観の変化やその要因を検討する目的で,質問紙と面接による調査を行った。その結果,学業,アルバイト,一人暮らしといった活動が社会観をより具体的で多様なものにすることが示唆された。この結果を一般性・特殊性・個別性の観点から分析し,議論したい。議論の主な柱としては,第1に,子ども・青年の社会認識の発達のなかで大学生の社会観はいかなる位置にあるのか,第2に,大学生活において社会観はどのように形成されるのか,第3に,大学生の社会観の発達を保障するにはいかなる取り組みや制度が必要なのか,第4に,大学生活における社会観の発達研究の課題と方法は何か,といったことを予定している。

  • 山本 渉太, 和智 妙子, 服部 真人, 仲 真紀子, 鈴木 愛弓, 渡邉 和美, 鈴木 望
    セッションID: SS-025
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
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    犯罪者が犯行をなぜ自白するのかについて,これまでに精神分析モデル(e.g., Reik, 1959)や意思決定モデル(e.g., Irving & Hilgendorf, 1980),相互作用モデル(e.g., Gudjonsson, 2003)などといった複数のモデルが提案され,説明が試みられてきた。一方,犯行の否認について検討する場合,その定義(否認の有無の二分法での把握か,全部否認から一部否認までを連続体として把握するか)や,刑事司法のどの段階で測定するか(検挙時,裁判時,判決確定後,刑事施設収容後)などによって(高橋・西原,2017),得られる結果やそこから導かれる考察が異なってくると考えられる。本シンポジウムでは,犯罪者の犯行の自白と否認について,受刑者を対象に実施した質問紙調査の成果を各話題提供者から紹介いただいた後,指定討論者による討論を踏まえたうえで,今後の展望も含めて議論したい。

  • 佐藤 剛介, 橋本 博文, 前田 楓, 木田 千裕, 唐沢 穣
    セッションID: SS-027
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
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    我が国は障害者権利条約に批准し,障害者の社会的包摂を進めるべく国内法整備を着々と進めている。障害者差別解消法の施行,障害者雇用促進法における法定雇用率の引上げなどはそれらの最たる例として挙げられよう。差別解消法施行後,障害者への合理的配慮提供は,国や自治体にのみ法的義務とされ,民間事業者は努力義務とされてきた。しかし2021年3月,全事業者に対して障害者に対する合理的配慮提供を義務づける法案が閣議決定された。こうした趨勢は障害者のさらなる社会的包摂を促していくと考えられる。しかし,こうした障害者を取り巻く社会情勢の変化に人々の理解が追いついておらず,かつ障害者の社会的包摂促進のあり方を考えるうえで必須となる障害自身や障害者が取り巻かれている状況に関するエビデンスも少ない。本シンポジウムでは,障害に関する近年の動向と我々心理学者に何ができるかを生物心理社会モデルの視点から踏まえた上で,これまで忘れられがちであった「社会」の視点を取り込む形で進められている研究を紹介する。その上で,今後障害者の社会的包摂に対して心理学者は何を行う必要があるのか,また社会心理学的視座の有用性について考えたい。

  • 緑川 晶, 小山 慎一, 越智 隆太, 重宗 弥生
    セッションID: SS-028
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
    会議録・要旨集 フリー

    脳の器質的・機能的な障害によって,失語・失行・失認などの特定の機能障害が生じることが古くから知られているが,まれに感覚の過敏性や芸術性の向上などのように機能の亢進現象として症状が生じる事がある。本シンポジウムでは,過敏性を切り口に,脳の器質的な障害をはじめとして精神疾患,あるいは一般成人の中で見られる各種過敏性について紹介し,心理学や脳科学の視点から議論する予定である。

  • 勝谷 紀子, 高宮 明子, 中津 真美, 佐野 智子, 小渕 千絵
    セッションID: SS-029
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
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    病気や加齢,障害などさまざまな理由によって聞こえ・言葉の聞き取りに困難がある人々は日常生活において,必要な情報の入手がしづらいだけでなく,円滑なコミュニケーションも損なわれ,対人関係にも影響を及ぼす。新型コロナウィルス感染拡大を防ぐためのさまざまな対策は,マスクの着用やアクリル板の使用など円滑なコミュニケーションを難しくするものも多く,聞こえ・言葉の聞き取りに困難がある人々のQOLにも大きな影響を及ぼしたといえよう。一方,チャット機能も備えたビデオ会議システムの利用が増えるなど聞こえを補うツールの普及も進み,コミュニケーションのあり方がこれまでとは大きく変わりつつある。こうした状況の変化は聞こえ・言葉の聞き取りに困難がある人々の支援にも反映されることが期待される。本シンポジウムでは,聴覚障害学生,中途失聴,人工内耳など多様な聞こえ・言葉の聞き取りの困難について現状を話題提供いただく。アフターコロナを見据えたよりよい支援について考えていきたい。

  • 滑田 明暢, 松並 知子, 上野 淳子, 井ノ崎 敦子, 荻野 佳代子, 纓坂 英子
    セッションID: SS-030
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
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    新型コロナウイルスの感染拡大が1年以上にわたるなかで,社会の形は大きく変動している。私たちの生活様式は大きく変化しているといえるが,その変化の影響は,個々人が置かれた状況や立場によってさまざまである。本企画では,新型コロナウイルスの感染拡大状況が私たちの親密なパートナー間の関係性や大学生の生活,大学教育の各側面でどのように影響しているのかをジェンダーの視点から模索する。これまでジェンダーが関連していると考えられてきた事象として,DVとデートDV,学生からの相談,に注目した話題提供をいただき,その現状を探る。そして,コロナ状況下における男女共同参画視点のキャリア教育のオンラインによる取り組みも紹介いただき,コロナ状況はジェンダーに関する教育にどのような影響を与えているのか,についても視野を広げて理解を試みる。新型コロナウイルスの影響によって見えてきた私たちの生活の諸側面をふまえて,これから私たちはどのような社会を築いていくのか,その方向性や内容について考える機会としたい。

  • 横光 健吾, 古野 公紀, 髙田 琢弘, 高野 裕治, 漆原 宏次, 二瓶 正登
    セッションID: SS-031
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
    会議録・要旨集 フリー

    ギャンブル障害をはじめとする嗜癖行動や依存症に対する治療において,認知行動療法に基づくリラプス・プリベンションの考え方はそのメインストリームであり,その効果も認められている。このリラプス・プリベンションは,欲求への対処行動や欲求そのものを引き起こす刺激を避けるスキルなどを駆使しながら,嗜癖行動を生起させないようにする,あるいは以前の重篤な状態に戻らないようにする取り組みである。一方,嗜癖行動や依存症に対する治療において,近年,ハーム・リダクションの概念が重要視されている。ハーム・リダクションとは,「依存性のある物質の使用や問題を引き起こすリスクのある行為を直ちにやめるよりも,その物質の使用や行為によって引き起こされる悪影響や健康被害を減らすための取り組み」である。本シンポジウムでは,とりわけギャンブル行動を中止として,ハーム・リダクションの概要及び関連する研究報告をまとめ,今後の研究課題について議論する。

  • 横光 健吾, 山本 晃輔, 田中 勝則, 新川 広樹, 曽我 千亜紀, 岩野 卓, 入江 智也
    セッションID: SS-032
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
    会議録・要旨集 フリー

    我々の生活において,スマートフォンゲームで行われるゲームは息抜きやストレス発散だけではなく,コミュニケーションツールの一端を担ってもいる。また,ポケモンGOに代表されるように,それは運動を促進する要素も含んでいる。それに熱中し,それを続けようとするメカニズムは心理学的な理解が可能であると言える。一方,ゲーム障害は,オンラインやテレビゲームに没頭し,生活や健康に指標をきたす精神疾患である。ゲーム内課金は重要な問題と認識されており,ゲーム内課金の中でも潜在的な問題をはらんでいるものが,ルートボックス(通称「ガチャ」)である。ルートボックスが問題視されている理由は,間違いなくそれが現実のお金を介して行われるものであり,過度のルートボックスは精神的な問題とも関連する。本シンポジウムでは,ゲームに関連する様々な側面に焦点をあて,その概要及び関連する研究報告をまとめ,今後の研究,及び臨床心理学的課題について,そして,ゲームとどのように付き合っていくことが重要かについて議論したい。

  • 有光 興記, 小寺 康博, 原 大地, 山田 冨美雄
    セッションID: SS-033
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
    会議録・要旨集 フリー

    昨年来のCOVID-19のパンデミックは,日本でも感染症対策の他,断続的な緊急事態宣言下でのステイホームやリモートワーク等がストレス反応を引き起こすことが報告されている。こうした状況へのレジリエンスとして注目されているのが,マインドフルネスとセルフ・コンパッションである。本シンポジウムでは,その力をCOVID-19禍の私たちの生活にどう活用していくのかを,実証研究と実践例から検討したい。話題提供者として,小寺先生より労働者のワークストレスとセルフ・コンパッションに関する日蘭とドイツ,南アフリカ間の比較文化研究について紹介いただき,国際的かつ基礎的な知見について理解を深めたいと思っている。次に菅原先生からは,マインドフルな気づきに基づいてセルフケアを行うマインドフル・セルフケについて,その測定尺度の開発と実践方法について御説明をいただく。企画者からは,セルフ・コンパッション・ブレイクの実験研究と,それを応用した社員研修の例を紹介する。最後に,山田先生に健康心理学的見地から指定討論をいただき,COVID-19禍におけるセルフケアの在り方と今後の課題について明らかにできればと考えている。

  • 松島 公望, 藤井 修平, 大橋 明, 西脇 良, ムスリン イーリャ, Takahashi Masami
    セッションID: SS-034
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
    会議録・要旨集 フリー

    人間心理に深く関わる「宗教,スピリチュアリティ」を追究していくために【概念(思想)⇔実証(データ)⇔現場(実践)】といった「新たな連携・協働」を提案してきた。宗教,スピリチュアリティにおける概念を深く考察し,明らかにしていく分野が宗教学,哲学等の人文科学分野である。その作業の中から実証を担う心理学,老年学等の社会科学分野がそれらをもとに調査,実験を行い,データから見えてくる現象を明らかにしていく。概念と実証から見えてきた現象をいかに教育,福祉,宗教界等の現場に伝えて,その現場に還元できるのかが重要になる。現場と概念と実証から見えてきた現象とを突き合わすことによって,より人びとの生活に根ざしたものを見いだしていく形を構築していくのである。本シンポジウムでは,「新たな連携・協働」を行うために必要であるものは何であるかについて,宗教学(概念),老年心理学(実証),小学校現場(実践)の立場から話題提供を行う。さらに自分たちでも気がつかないうちに陥りやすい「自文化中心主義」にも目を配り,新たに提案する連携・協働について批判的に話題提供を行う。最後に,指定討論を行い,本シンポジウムの総括を行う。

  • 奥野 雅子, 砂田 安秀, 木甲斐 智紀, 伊藤 拓
    セッションID: SS-035
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
    会議録・要旨集 フリー

    スピリチュアルケアとは,生きる意味や目的について苦悩している人々に対するケアを意味する。スピリチュアルケアの黎明はホスピスにあることから,看護学がいち早く注目し,生死にどう向き合うかといった精神論が展開されてきた。また,欧米の臨床現場ではチャプレンなどによって宗教的ケアがいち早く導入されて以来,その歴史は長い。本邦においても,臨床宗教師の資格を有した宗教者による支援が医療の現場で行われている。このように,スピリチュアルケアは,宗教者によるケア,あるいは宗教的ケアとして捉えられてきた面がある。一方,近年になって心理臨床家が医療現場で緩和ケアのスタッフとして重要な役割を担うようになってきた。そのため,従来の宗教的実践に加え,心理臨床学的視点や心理学的知見によってスピリチュアルケアについて考察を深めることは重要であろう。本シンポジウムでは,スピリチュアルケアでの多職種連携における心理臨床家のアイデンティティや役割,宗教者との連携可能性といった実践面に加え,宗教,心理学的知見にもとづくスピリチュアルケアの効果やメカニズムについての理論的考察を深めたい。

  • 渡邊 ひとみ, 野中 陽一朗, 稲垣 勉, 河越 隼人, 水野 邦夫
    セッションID: SS-036
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
    会議録・要旨集 フリー

    本シンポジウムの目的は,青年期の「適応」をテーマとする一連の話題提供を踏まえ,青年の健康的な生活を促進するより良い環境づくりについて議論することである。話題提供の前半では,教職志望学生の“将来の職業と学業との接続性に対する理想と現実のズレ”に着目した類型化の試みと正課内外での学びとの関連性,また協同学習場面における動機づけ調整方略がエンゲージメントを介して主観的パフォーマンスに及ぼす効果など,学習文脈に関する知見をいくつか紹介する。続く後半では,友人との感情共有の効果といった対人文脈に関する知見に加え,抑うつ症状に結びつく反すうを低減させる行動活性化・抗うつ行動の効果についても紹介する。異なる心理学分野を専門とする各話題提供者がそれぞれ独自の視点から青年の適応や精神的健康にアプローチし議論を交わすことで,単なる知見の総体ではなく,そこから生み出される新しいユニークな環境づくりの在りかたを提唱できるのではないだろうか。

  • 山本 哲也, 国里 愛彦, 北崎 充晃, 後藤 晶, 松田 壮一郎, 山下 裕子, 杉浦 義典
    セッションID: SS-037
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
    会議録・要旨集 フリー

    心理学における情報通信技術の活用に注目が集まっている。たとえば,VR,ロボティクス,オンラインでの研究アプリや,新たな計測・解析技術を活用することで,多岐にわたる心理学領域に寄与することが期待されている。一方で,その活用方法の実際については,いまだ発展の余地を大いに残しているのが現状である。そこで本シンポジウムでは,様々な研究例を紹介し,ディスカッションを通して,心理学研究と臨床応用に寄与する情報通信技術の応用可能性について考察を深めたい。具体的には,北崎(豊橋技術科学大学)はバーチャルリアリティ(VR)やロボティクスを活用した心理学研究について発表を行い,山下(医療法人むつみホスピタル)はそうしたVRの臨床応用技術の一つである,VRセルフカウンセリングについて発表する。また,後藤(明治大学)はオンラインを活用した調査や実験手続きを紹介し,松田(筑波大学)はウェアラブルデバイスやコンピュータ・ビジョン美女運計算論的行動計測技術の臨床応用について発表を行う。最後に,杉浦(広島大学)はこれらの研究を統括し,情報通信技術がもたらすこれからの心理学研究について,展望を行う。

  • 松本 昇, 杉山 崇, 越智 啓太, 丹藤 克也, 大平 英樹
    セッションID: SS-038
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
    会議録・要旨集 フリー

    心理臨床における実践知と心理科学研究における実証的知見は相反するものだろうか? 偽りの記憶論争を契機に,両者の溝は深まったかのように思われた。しかしながら,近年では,記憶の基礎メカニズムに関する研究,そして精神疾患群における異常についての研究が興隆し,それらの知見を基にした介入研究が進展を見せている。こうしたエビデンスに基づく介入法は従来の心理臨床実践を洗練させる可能性がある。「記憶心理学と臨床心理学のコラボレーション」シンポジウムでは,「記憶」を通じて心理臨床と心理科学の相互交流をはかってきた。第10回目となる今回は,第1回企画当初のシンポジウムの目的を振り返り,10余年が経過した現在の到達地点をマクロな視点で俯瞰する。指定討論者を交えて記憶と臨床に関する研究の行く末を議論し,今後の記憶研究と臨床実践を方向づけるシンポジウムとしたい。

  • 福田 恭介, 山田 冨美雄, 田多 英興, 田中 裕, 大森 慈子
    セッションID: SS-039
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
    会議録・要旨集 フリー

    まばたきは,さまざまな心理過程と関連して発生することが示されている。認知過程との関連では,情報の予期・入力過程では瞬目抑制,情報の処理終了に伴う瞬目発生が示されている。また,個体・系統発生過程との関連では,発生的変化・複雑化に並行してまばたき率の増加に代表される諸変化が観察されている。認知過程とまばたきについての話題提供は,ギャンブリング課題を1人で遂行する課題と4人で遂行する課題におけるまばたきの発生と抑制を検討したものである。発生的過程とまばたきについての話題提供は,南米における先住民のまばたきと文明化された社会人のまばたきを比較することで文明化過程との関連を検討したものである。本シンポジウムは「まばたき研究会」の主催による。

  • 笹岡 貴史, 金山 範明, 前川 亮, 町澤 まろ, 曽 智, 西川 一男, 行場 次朗, 持丸 正明
    セッションID: SS-040
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
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    「感性」はこれまで哲学,心理学から,人間工学,感性工学といった工学の分野に至る幅広い学問分野で注目され,それぞれの分野で研究が進められてきた。一方で,平成25年に広島大学を中核拠点として採択された文科省「革新的イノベーション創出プログラム(COI)」の「精神的価値が成長する感性イノベーション拠点」では,心理学,神経科学,感性工学といったヘテロな研究者,企業の研究開発者が共創することで,感性の基礎研究の知見に基づいた感性の可視化技術を社会応用する取り組みを進めている。本シンポジウムでは,感性を外受容感覚,内受容感覚情報処理に基づく知覚と感情の相互作用過程とその統合的評価を行うシステムと考えに基づき,プロジェクトで進められてきた感性の基礎研究,脳情報,生理反応に基づく感性の可視化,およびその応用に向けた産学連携の取り組みについて紹介する。その上で,心理学,脳科学,工学などが融合した「感性科学」の可能性,およびその社会貢献について議論したい。

  • 横澤 一彦, 浅野 倫子, 伊藤 浩介, 宇野 究人
    セッションID: SS-041
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
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    日本心理学会第82回大会(2018)において開催した公募シンポジウム「共感覚」では,国際比較による色字共感覚の共通特性,色聴共感覚と絶対音感との関係,色字共感覚における物理色感度との対応関係,数字擬人化傾向の発達的変化についての研究成果を明らかにし,共感覚に関連する様々な認知過程も含め議論し,さらなる共感覚研究への期待が高まった。それ以来,3年が経過し,「共感覚 統合の多様性」(2020, 勁草書房)という学術書が出版されるとともに,共感覚に関する認知心理学的研究に新たな展開があり,特に共感覚的見えと時間的安定性,新規文字の学習と共感覚色の転移,共感覚の自動性という,共感覚の本質に迫る国際的な業績が2019年以降次々に発表されている。これらの取り組みによって,共感覚研究は深化し,共感覚メカニズムの理解が進んでいるが,本シンポジウムでは,それらの国際的研究業績に関わった中心的研究者が話題提供者になり,共感覚研究の新展開について,まとまって議論する機会にしたい。

  • 島田 貴仁, 荒井 崇史, 石盛 真徳, 木村 敦, 白岩 祐子, 広田 すみれ
    セッションID: SS-042
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
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    日本の犯罪被害(年間70万件)の規模は,交通事故,労働災害を上回り,その未然予防は社会的課題である。犯罪発生後を取り扱う刑事司法では,心理学の職域が確立し教育研究が充実しているが,これまで立ち遅れてきた犯罪予防分野でも,近年,警察の防犯分野と大学研究者との協働コンソーシアムの設立,個票のオープンデータ公開等,教育研究環境が急速に整いつつある。本シンポジウムでは,これまで各地の防犯実務家と協働を進めている研究者による取り組み事例を報告し,協働で得られるメリットや苦労,研究の質の確保,学生に対する教育の機会など今後の可能性と課題を討議している。3回目の今回は,①基礎自治体(市)の市民安全部門と協働して実施した高齢者対象の社会調査とその分析,②警察本部と協働して実施した特殊詐欺被害の実態調査とその結果に基づくメディアでの介入,③学部学生の教育で,犯罪や犯罪予防行動の地域差をオープンデータにより分析した事例を取り上げる。これらを,リスク認知とリスクコミュニケーション,エビデンスに基づく政策立案(EBPM)および行動政策学/行動インサイトの観点からそれぞれ討議する。

  • 土元 哲平, 横山 直子, 卒田 卓也, 宮下 太陽, 滑田 明暢, 伴野 崇生
    セッションID: SS-043
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
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    企画者らは,ヤーン・ヴァルシナー(Jaan Valsiner)の基本的な考え方が体系的に記述された著作『An Invitation to Cultural Psychology(文化心理学への招待)』(Valsiner, 2014, SAGE社)の翻訳に取り組む中で,その理論的背景やスコープについての理解を深めてきた。ヴァルシナーは1995年に『Culture and Psychology』誌を創刊するなど,世界的に文化心理学を牽引する研究者の一人である。ヴァルシナーの文化心理学の特徴は,ヴィゴツキーをその源流とする記号論的な文化心理学であるという点,時間概念を取り入れた動的な心理的過程を明らかにしようとする点にある。本書では,「記号の階層・無限の境界にある記号」(第6章),「内化と外化」(第4章),「個人的文化と集合的文化の関係性」(第9章)といった,ヴァルシナーの文化心理学を理解する上で重要ないくつかの概念を中心に,その理解を深掘りするための話題提供とディスカッションを行う。以上を通して,ヴァルシナーの文化心理学への理解を深めることを目指す。

  • 小松 英海, 増田 知尋, 境 敦史
    セッションID: SS-044
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
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    「我々はどの様な事柄をどの様にして認識するのか」について研究していく上で,「どの様な事柄か」についての言及は避けられない。認識対象が存在しなければ,認識はできない。存在について考えることなく,認識の探求はできない。認識についてのすべての研究は何らかの存在論をその基礎においている。変化する事象や関係こそが存在し,不変は変化から抽出された概念と考えるのが過程存在論である。「動き」という時系列上の変化は事象そのものであり,事象知覚として様々な運動現象が心理学においても扱われてきた。本シンポジウムでは,そうした「動き」の知覚について,特に,動くものとそれと並存する全ての対象との関係として成り立つ動きの知覚を採り上げる。特撮映像作品に用いられる表現技法や,コンピュータアニメーションによるデモンストレーションを題材に再生速度と身体サイズの関係,ニュートン力学の位置づけ,文脈の影響についての話題提供を受けて,環境との相互作用から動きの知覚について改めて我々の知覚について見直すことを試みる。

  • サトウ タツヤ, 安田 裕子, 宮下 太陽, 田中 千尋, 土元 哲平, 森 直久, 神崎 真実
    セッションID: SS-045
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
    会議録・要旨集 フリー

    展結(transdiction)とは,帰納,演繹,発綻(Abduction)同様,推論形式の一つである。仏の哲学者シモンドン(Simondon)によれば,展結は新しい次元を作ることによって新しい解決ができ,かつ,それまでの情報が全て新しい次元で表現できるような解決の発明(か発見)である。シモンドンは「真の発見の歩みはー略ー展結的である。つまりそれは諸次元の発見に対応しており,これらの次元を通じて問題設定は定義されうる」と述べている。問題解決は人生径路においても重要であり,人生径路における選択を記述し環境からの逆風や支援を可視化・モデル化する複線径路等至性アプローチの分析概念としても有効なはずである。今回は展結が持つ哲学上・心理学史上の位置(古くはシュテルンやピアジェも言及していた)を確認した上で,TEAの分岐点における自己内対話や想像力/構想力(Imagination)とどのような関係にあるのかを考察する。またTEAへの実装の例として,看護教育において「専門分化的な看護師」像と「ジェネラル看護師」像のどちらかを選ぶべきと考えている人が展結的解決に至った径路に関するTEM図の検討を行う。

  • 越川 房子, 牟田 季純, 堀 正士, 伊藤 悦朗, 岡 浩太郎, 杉浦 義典, 大平 英樹
    セッションID: SS-046
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
    会議録・要旨集 フリー

    疼痛は「組織損傷が実際に起こった時あるいは起こりそうな時に付随する不快な感覚および情動体験,あるいはそれに似た不快な感覚および情動体験」(IASP, 2020)と定義され,分野を越えた集学的なアプローチが必要とされている。企画者らはその痛み緩和機構について,「皮膚」から「」に至る連続的・縦断的な視点からの理解を目指してきた。そこで本企画では,まず疼痛診療の基本を確認し(医学),マインドフルネスに基づく介入が痛み知覚の変容に与える効果と神経基盤(認知神経心理学),痛み部位への軽度接触刺激法がもたらす痛み緩和現象と左背外側前頭前野の血流量減少の生理学的な関係(神経生理学),ヒト歯髄由来の神経終末細胞皮膚細胞のケラチノサイトの共培養系による末梢レベルでの痛み緩和理解(細胞生物学)について話題提供を行い,異常心理学生理心理学の両専門家からの指定討論をいただく。また,各話題を統合的に理解する観点として,自由エネルギー原理に基づく予測的符号化による痛み緩和の理解を試みたい。なお,本企画は文部科学省科学研究費補助金・基盤研究(A)研究課題「痛みの心理生物学的基盤」に基づく成果報告の一環である。

  • 野村 理朗, 中山 一輝, 佐藤 手織, 田中 美吏, 池埜 聡
    セッションID: SS-047
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
    会議録・要旨集 フリー

    その混沌から,分節化し,認識される世界。それは,存在の「有」と「無」の二重写しにより構築されるものである。その分節化以前,言語の網目にかからない混沌に潜む「本質」とはいかなるものだろうか。それは言語に依らない身体,もしくは深層学習等の技術によりどの程度にまで迫ることができるものだろうか。本シンポジウムは,先端技術(自然言語処理/画像認識)ならびに身体性(作歌/運動模倣)に着眼し,言語/非言語の次元を加えた四象限を対比することにより,通底する「無心」の多彩なグラデーションを描き出す。そうして得られた知見をマインドフルネスの観点から俯瞰的に議論し,「無心」の孕む「陰」と「陽」の各々の一端を示すことができれば幸いである。

  • 上原 俊介, 友野 隆成, 橋本 剛明, 大沼 卓也, 松崎 かさね, 中川 知宏, 福島 治
    セッションID: SS-048
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
    会議録・要旨集 フリー

    我々は,ネガティブな性質をもつものは悪く,ポジティブな性質をもつものほど良いととらえる傾向があるが,この見方は妥当であろうか。ネガティブとかポジティブといった性質を暗示するラベルにとらわれ,これらがもたらす別の側面を見落としている可能性はないであろうか。近年では,「The Positive Side of Negative Emotions」といった書籍が刊行され,ネガティブ要因のポジティブな側面をあらためて見直す動きが見られている。そこで本シンポジウムでは,この動向を踏まえたもう一つの視点,すなわちさまざまなポジティブ事象が負性効果をもっているかどうかについて,心理学,行動経済学,文化人類学の観点から検討することを試みる。具体的には,謝罪の寛容性に対する逆転現象,選択肢数による不買行動,そしてパチプロが店の「ヌシ」になることによる正と負の両面効果を取り上げ,Positivityのネガティブサイドが確認されるか検証していく。なお,本シンポジウムは2021年度の奥羽ネガティブ心理学研究会の公開研究集会として実施されるものである。

チュートリアル・ワークショップ
  • 大月 友, 井上 和哉, 谷 晋二
    セッションID: TWS-001
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
    会議録・要旨集 フリー

    関係フレーム理論(RFT)は,人間の言語や認知に関する行動分析学的アプローチを体系化したものである。アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)の理論的基盤として紹介されることが多いが,潜在的認知研究やメタファー研究,臨床発達心理学的研究など,人間の言語や認知に関する幅広い領域において研究が展開している。本邦においても,ACTの導入によりRFTへの関心も一定程度あると考えられるが,具体的な研究が盛んになっているとは言えない状況である。その一因になっているのは,RFT特有の難解さとともに,国際的な研究の展開が非常に早く,次から次へと新モデルが提唱されることによる取っ付きづらさがあるのではないだろうか。そこで本企画では,RFTに関する基本的説明から最新のモデルまで,基盤となっている研究(実験的行動分析や概念分析)を紹介しながら分かりやすく解説する。さらに,RFTの心理的支援への応用などの実践的側面についても解説する。そして,現在のRFT研究の知見を共有した上で,本邦における今後の展開や可能性について議論する。

  • 柘植 道子
    セッションID: TWS-002
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
    会議録・要旨集 フリー

    セクシュアル・マイノリティやLGBT(LGBTQ)がメディアでも頻繁に取り上げられるようになり,自身のセクシュアリティや性自認を開示する人々が急激に増えている。しかし,セクシュアル・マイノリティを取り巻く環境は望ましいものとは言えない。またストレスを抱えているセクシュアル・マイノリティの人々は少なくなく,カウンセラー,臨床心理士,公認心理士には,セクシュアル・マイノリティに対する理解と適切な対応が求められているといえよう。そこで,本チュートリアルワークショップでは,セクシュアル・マイノリティを理解するうえで欠かせない基礎内容をカバーする。具体的には,性的指向,性自認を含めた性の要素,LGBTQが共通して抱える課題,それぞれ特有の課題,社会における偏見とメンタルヘルスへの影響に関する理論等を紹介したうえで,セクシュアル・マイノリティの人々が抱える具体的な悩みに対し,どのような理解と対応が可能かを検討する。

  • 五十嵐 祐, 笹原 和俊, 奥田 慎平
    セッションID: TWS-003
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
    会議録・要旨集 フリー

    計算社会科学の領域において,デジタル化された文字情報(テキストデータ)から書き手の感情状態や心的態度を多面的に推測する,テキストデータ解析の重要性はますます高まっている。本ワークショップでは,発表者らが開発した,テキストデータ解析のデファクト・スタンダードであるLIWC2015の日本語版(J-LIWC2015)について紹介する。ワークショップでは,Pythonによる日本語テキストデータの前処理の方法(MeCabを用いた形態素解析)や,分析の手順について解説を行う。また,データサイエンス領域での活用事例についても紹介する。参加にあたって特別な事前知識は必要としないが,前処理を行うにはコマンドラインでの操作にある程度慣れておく必要がある。また,前処理後の分析には英語版LIWC2015のソフトウェアが必要となるため,手元で分析を行いたい場合は各自で準備されたい。

  • 大橋 智, 榊原 佐和子, 則武 真清, 玉澤 知恵美, 上田 将史
    セッションID: TWS-004
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
    会議録・要旨集 フリー

    新型コロナウイルス禍における心理援助において,直接的心理援助が困難な状況に見舞われ,間接的心理援助技法としてのコンサルテーションのニーズが高まっている。公認心理師カリキュラムにおいても「多職種連携や地域連携」「要支援者へのチームアプローチ」が学部段階の養成から求められるなか,コンサルテーションの援助技術に関する教育についてのニーズも高まっていると言えるだろう。今回のチュートリアルでは,学校教育領域・福祉領域・産業労働領域・高等教育領域における臨床実践家が,各領域における特徴的な技法と枠組みについて紹介し,加えて遠隔技術を利用するコンサルテーションについての展望を紹介する。まず学校教育領域として,大橋より特別支援教育における巡回相談の枠組みと遠隔技術導入の展望を,榊原・則武より高等教育領域・障害学生支援における対面・遠隔コンサルテーションの実践と課題を,それぞれ紹介する。次に,産業労働・福祉領域として,上田より福祉領域におけるコンサルテーションの実践上の工夫について概観し,玉澤より福祉現場職員に対するソーシャルワーカーと協同した遠隔コンサルテーションの実践を報告する。

  • 石川 将也, 田谷 修一郎
    セッションID: TWS-005
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
    会議録・要旨集 フリー

    動画作成ソフトCavalryを用いた錯視作成のチュートリアルを行う。本ワークショップの主眼は,錯視研究とそのデザインへの応用に,この無償で利用可能なソフトウェアが持つ大きな可能性を示すことである。錯視の研究では,現象の生起を確かめ,より強い効果を得るために,描像の形や色を様々に変えながら観察を繰り返す試行錯誤が重要である。Cavalry はプロシージャルにグラフィックを組み立てていくことができるため,錯視の構造を記述した後に,パラメータ(色・大きさ・間隔等)を容易に調整可能であり,このことは試行錯誤のコストを大幅に引き下げる。加えて,パラメータは全てアニメーションさせることができるため,例えば錯視量が変化していく映像が作れる。今世紀初頭の描画ソフトの普及は,錯視研究の発展を大きく後押ししてきた(「錯視技術革命」北岡,2001)。その変数操作の容易さと動画作成の強みにより,Cavalryは今後の錯視研究を加速するツールになると考える。※参加者は事前にソフトをインストールしておいてください。https://twitter.com/cavalry_jpa85 にて関連情報を随時発信しています。

  • 伊藤 義徳
    セッションID: TWS-006
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
    会議録・要旨集 フリー

    マインドフルネスは,昨今大変なブームとなっている。マインドフルネスを紹介する本,アプリ,動画なども多数発表されており,いつでも手軽にそれらを手に入れることが出来る。しかし,それらは玉石混淆の感がある。あまりに多すぎて,何がマインドフルネスなのか分からなくなるほどである。本ワークショップでは,マインドフルネスに対して心理学的にアプローチしたい人のために,何がマインドフルネスの中核的な要素なのか紹介することを目的とする。マインドフルネスとは,「今ここの経験に,評価や判断を加えることなく,意図的に注意を向けることで得られる気づき(Kabat-Zinn, 2003)」という定義で紹介されることが多いが,ここでいう「気づき」とはどのようなことなのか。気づいてさえいればマインドフルネスなのか。他になにが必要なのか。マインドフルネスの中核を押さえることで,実践も研究も,より自信を持って進めることが出来るようになるだろう。マインドフルネスにむかってこれから一歩踏み出す人の,ささやかな餞となれば幸いである。

  • 佐々木 淳
    セッションID: TWS-007
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
    会議録・要旨集 フリー

    認知行動療法のトレーニング方法として,実践から内省への自己プログラム(Bennett-Levy et al., 2015)が近年注目されています。このプログラムはセラピストの自己に焦点をあてるところが特徴的です。12のモジュールで構成される認知行動療法の技法をセラピスト個人が抱いている問題に対して使用し(self-practice:SP),そこで得られた体験を内省する(self-reflection:SR)ことで,認知行動療法の技法やモデルの理解をさらに深め,技法を柔軟に使用していくことができるようになることが明らかになっています。このチュートリアルでは,実践から内省への自己プログラムが開発された経緯や,認知行動療法がどのように熟達されていくのかについて概説した上で,セラピスト自らが実践と内省を行うことがどのようなインパクトをもたらすのかについて,先行研究を紹介します。そして,このプログラムの重要性を体験的に理解するために,実践・内省してみる機会を設けたいと思います。

  • 安田 裕子, サトウ タツヤ
    セッションID: TWS-008
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
    会議録・要旨集 フリー

    TEAは,文化心理学に依拠した,過程と発生をとらえる質的研究の方法論である。TEAの中心には,文化的・社会的な影響を受けて実現する人間発達や人生径路の,複線性や多様性,潜在性・可能性を時間経過のなかでとらえる「複線径路等至性モデリング(Trajectory Equifinality Modeling:TEM)」がある。すなわち,時間と可能性の幅の2軸でプロセスを描出することを特徴とする。TEMは,等至性(Equifinality)の概念を発達的・文化的事象に関する心理学研究に組み込もうと考えた,文化心理学者であるヤーン・ヴァルシナーの創案にもとづき開発された。対象選定の理論「歴史的構造化ご招待(Historically Structured Inviting:HSI)」と,自己の変容過程を理解・記述するための理論「発生の三層モデル(Three layers Model of Genesis:TLMG)」とあわせて,TEAの理論的体系を構成している。本ワークショップでは,TEMを中心に解説する。応用編とあわせて受講することを,お勧めする。

  • サトウ タツヤ, 安田 裕子
    セッションID: TWS-009
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
    会議録・要旨集 フリー

    「複線径路等至性モデリング(Trajectory Equifinality Modeling:TEM)」をその中心に据えるTEAは,等至性(Equifinality)の概念を組み込み開発された。等至性の概念では,人間は開放システムととらえられ,非可逆的な時間経過と歴史的・文化的・社会的な影響を受け,多様な軌跡を辿りながらもある定常状態に等しく(Equi)到達する,とされる。その具現化されたありよう,すなわち等至点の存在は,複数の径路と分岐させるポイント(=分岐点)の存在を含意する。分岐点では,内的葛藤や内的対話が生じ,また諸力のせめぎあうさまがとらえられるが,分岐点に焦点をあて,行動や選択(第1層)を,信念や価値観(第3層)や文化的な記号(第2層)との関係によってとらえる理論が「発生の三層モデル(Three layers Model of Genesis:TLMG)」である。本ワークショップはTLMGや記号について解説しつつ,TEAの理解を深める。基礎編とあわせての受講をお勧めする。

  • 中野 民夫, 三田地 真実
    セッションID: TWS-010
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
    会議録・要旨集 フリー

    日々刻々と状況が変わるコロナ禍下において,人々は「対話」の重要性をこれまで以上に感じている。問題解決場面のみならず,オンラインでの会議や授業においても,あるいは学生の人間関係づくりにおいても,人々が話し合う力は大きい。しかし,実際の話し合いが気持ちよく展開するのは簡単ではなく,場を創る側に工夫が必要である。人は「何を話しているか」には意識を向けるが,「話し合いがどのように進んでいるか」というプロセスには大方無頓着である。「ファシリテーション」とは,この「プロセス」に着目し,話し合いを促進したり,円滑に進めたりする技術のことである。広くは会議のみならず,授業や研修なども含めた場づくりの技術と称される。2020年春から大学の授業もオンラインに切り替えを余儀なくされ,ファシリテーション力のある教員とない教員の差がこれまで以上に歴然としてきている。今回講師を担当する中野は,日本のファシリテーションのパイオニアであり,自大学では「立志プロジェクト」という新入生1,100人を40クラスに分けて少人数で行う授業を企画・導入してきた。安心安全な場づくりとは何か,ファシリテーターのあり方を深めたい。

  • 尾崎 由佳
    セッションID: TWS-011
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
    会議録・要旨集 フリー

    経験サンプリング法(experience sampling method:ESM)に関心はあるものの,どこから手をつけたらよいものか迷っているという方へ,【入門編】のチュートリアルWSをご提供します。経験サンプリング法って何? といった基本的な疑問にお答えするとともに,exkumaを使ったデータ収集や分析のしかたの「いろは」をお伝えします。ESMとは,ふだんどおりの生活を送る調査対象者に,1日数回×数日間にわたり無作為なタイミングにおいて自己報告を求めるという研究手法です。人々の日常生活における心の動きをリアルタイムでデータ化できるという特長があります。スマートフォンの普及にともなってESMデータ収集が飛躍的に容易になったことから,幅広い心理学関連領域で注目を浴びるようになりました。exkumaは,日本国内でESM調査を実施するために開発されたソフトウェアです。圧倒的な普及率を誇るLINEを通じてシグナリングを行い,Webブラウザ上で回答する仕組みです。利便性の高い研究ツールとしてexkumaをご紹介するとともに,それによって大きく開かれるESM研究の可能性について解説いたします。

  • 国里 愛彦, 小杉 考司
    セッションID: TWS-012
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
    会議録・要旨集 フリー

    再現可能性を高める上では,データから論文までをシームレスに接続して研究を行うことが推奨される。それによって,データの前処理から統計解析への移行時のミス,解析結果を論文内に記載する際のミスを防ぐことができ,研究の再現可能性を高めることができる。これを可能にするソフトウェアとしてR Markdownがあり,主要な学術雑誌のテンプレートが用意されている。国際誌の場合は既存のテンプレートを活用して論文執筆ができるが,国内誌の場合は日本語の処理や引用文献処理の問題もあり,適切なテンプレートが存在しない。そこで,我々は『心理学研究』などの国内誌に対応したjpaRmdパッケージを開発した。jpaRmdパッケージを使うことで,データの前処理,統計解析,論文執筆を1つのソフトウェア内でシームレスに扱うことができる。また,jpaRmdは投稿規定に沿った出力ができるので,フォーマット調整にかける労力を減らし,論文執筆に注力できる。本チュートリアルでは,各種ソフトウェアの導入からスタートし,再現性を高めるフォルダ構造の設定,そして実際にjpaRmdを使って論文執筆ができるようになることを目指す。

  • 家接 哲次
    セッションID: TWS-013
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
    会議録・要旨集 フリー

    マインドフルネス認知療法(MBCT:Mindfulness-Based Cognitive Therapy)が開発されて約20年が経過し,欧米ではMBCTの実践・研究がかなり進んでいる。我が国でも認知度が高まりつつあるが,導入が遅れているのが現状である。本ワークショップでは,MBCTの基本を紹介し,プログラム内で行われているマインドフルネス瞑想を体験して頂く。 This workshop introduces the theoretical background and rationale for MBCT, the structure and sequence of the curriculum. It also offers the opportunity to experience mindfulness meditations.

  • 渡辺 弥生
    セッションID: TWS-014
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
    会議録・要旨集 フリー

    ソーシャル・エモーショナル・ラーニングは,子ども達の学びのエッセンシャルである。定義は「すべての青少年と成人が,健全なアイデンティティを発達させ,感情をマネジメントし,個人及び集団の目標を達成し,他人に共感し,思いやりを示し,支えあう人間関係を築き,維持し,責任ある決断をするための知識・スキル・態度を習得し,それを応用するプロセス」である。SELは単なる一つのプログラム名ではなく,子ども達の人間力を教育的に推進し続ける包括的な体系であり,サステナブルな一大教育事業ともいえる。SELが提唱する子どもたちの社会性と感情(情動)の学習が目指すのは5つのコア能力である。自己理解,他者理解,責任ある意思決定,自己マネジメント,関係スキルである。コア能力を育成する方法を体系化し,ルールはじめ評価,データ収集,関係者のチーム形成から遂行までのタイムラインを示し,同時に収集したデータを元に改善していくフローなどを紹介する。ここでは,世界の流れの紹介だけでなく,実際に日本で取り入れられている社会性と感情の学習を目指したいくつかの授業の方法や成果について紹介し,多くの情報を共有したい。

  • 角南 なおみ
    セッションID: TWS-015
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
    会議録・要旨集 フリー

    近年,生徒指導や教育相談の対象となる児童生徒は増加傾向にある(藤井,2018)。このような状況で重視されるのが,子ども理解に基づく教師と子どもの信頼関係の形成だろう。特に教育相談は,すべての教師があらゆる教育活動で行うものであり(文部科学省,2017),その向上を目指すのが教育相談に関する教員研修(以下,教育相談研修)といえる。ただし,教育困難あるいは努力しても改善がみられず教師が疲弊している状況ではこれ以上の努力が難しく,また文脈の複雑さも加わり講義形式の研修だけでは効果が得られにくいことが想定される。このような状況においては,教師にさらなる努力を求めるより,むしろ教師のエンゲージメントを高めることが優先される方がよいと考えられる。しかし,そのような教育相談研修に関する検討はほとんどなされていない。そこで,本ワークショップでは,フロアの先生方と具体的な実践例について,その実施過程と評価を踏まえ,教師のエンゲージメントを高める教員研修における条件や手続き等の検討を行う。それにより,教育現場に関わる先生方および専門職の方々に対して,教育相談研修に応用できる新たな示唆を提示する。

  • 小林 正法, 国里 愛彦, 大杉 尚之, 西山 慧, 紀ノ定 保礼, 遠山 朝子
    セッションID: TWS-016
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
    会議録・要旨集 フリー

    COVID-19の流行によって,オンラインを用いた心理学研究が加速的に増加していますが,オンラインを介してデータを収集するためには,オンラインで実験や調査を実施する必要があります。調査に関しては既存のツールを利用することで比較的容易に実施することができますが,高度な制御に関しては限界があります。実験に関しては,実験プログラムの作成には一定のスキルが必要となります。また,これらの調査・実験をオンラインで実施するための準備も必要です。このような背景を踏まえ,本ワークショップではオンライン実験・調査の作成と実施を理解する機会の提供を目的とします。ワークショップの中ではコーディングメインのJavaScriptライブラリ(jsPsych)を用いた作成,GUI(マウスクリックなど)でオンライン実験・調査の大部分が作成できるJavaScriptライブラリ(lab.js)を用いた作成をそれぞれ取り上げます。Zoomのブレイクアウトルームを利用し,lab.jsとjsPsychのうち,ご希望のツールを選びご参加頂けるように計画しています。

  • 小野寺 孝義, 大藤 弘典
    セッションID: TWS-017
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
    会議録・要旨集 フリー

    フリーの統計ソフト jamovi を紹介し,多変量解析の中でもクラスター分析,対応分析(コレスポンデンス分析),多次元尺度構成法を利用する方法について解説する。

  • 豊田 秀樹, 馬 景昊, 堀田 晃大
    セッションID: TWS-018
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
    会議録・要旨集 フリー

    R言語を使った心理統計の授業では,通常,Rコンソール画面にR言語で記述したスクリプトを打ち込むことによって,分析を行います。このようなキーボードからの命令の入力を主とする計算機とのやり取りをキャラクタユーザインターフェース(CUI)といいます。それに対して私たちが日常スマホやpcで使用しているアプリケーションは,クリックを主体とし,ラジオボタンやメニューなどのビジュアルな要素で操作します。このような計算機とのやり取りをグラフィカルユーザインターフェース(GUI)といいます。shinyは RStudio社が開発したパッケージであり,R言語で簡単にWebアプリケーションを作るためのフレームワークを提供してくれます。教養教育の一環として心理統計を考えるとき,GUIのアプリの作成方法を学習することは重要です。shiny(シャイニー)を使えば,R言語だけでGUIのwebアプリを簡単に作れます。本チュートリアルでは,shinyによるGUIのアプリケーションを作成します。入力・処理・出力の,一通りの過程を体験します。是非ご参加ください。お待ちいたしております。

  • 髙村 真広, 浅川 伸一
    セッションID: TWS-019
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
    会議録・要旨集 フリー

    本企画は,ニューラルネットワークの分野における最近の発展を心理学の理論や方法論の発展につなげることを目的として,2名の講演者が発表を行う。高村は,脳データ解析におけるディープラーニングの活用について報告する。MRI等によって取得される脳データは大量の情報とノイズを含んでいる。そのような脳データにディープラーニングを適用し,心的状態や疾患に関する情報を解読する試みについて解説する。浅川は,マルチモーダル統合について言及する。ニューラルネットワークの分野では,変分自己符号化器,生成敵対ネットワーク,対比的予測符号化モデル,などを用いて異種感覚統合のモデルが提案されている。これらの確率的生成モデルでは,内部表象を仮定する。内部表象は心理モデルに直結することから心理学徒にとっても無視できないモデルとなっている。これら本企画の発表を総合することで,心理データ,生理的指標,計算モデルの3者を合わせて考える縁になる。

小講演
  • 野田 昇太, 城月 健太郎
    セッションID: L-001
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
    会議録・要旨集 フリー

    社交不安症の治療法として認知行動療法は治療効果が高く,有用であることが示されている。しかし,従来の認知行動療法では,社交不安症状が十分に改善しない患者も多く存在する。近年,マインドフルネスを用いた心理的介入が注目されており,マインドフルネス特性の向上が社交不安症状の改善に影響を及ぼすことが示唆されている。社交不安症状の改善における治療予測因子として,Cost biasが挙げられているが,マインドフルネス特性がそのCost biasに負の影響を及ぼすことも明らかにされている。このことから,マインドフルネス特性を高める介入技法がCost biasの改善に寄与する可能性が考えられる。上記のことを踏まえると,従来の認知行動療法的アプローチにマインドフルネスの要素を加えることにより,社交不安症状の改善が促進される可能性が仮定される。本講義では,マインドフルネス特性が,Cost biasと社交不安症状に及ぼすメカニズムを説明する。そのモデルを踏まえて,開発されたマインドフルネスと認知行動療法の併用プログラムを紹介し,これまで行ってきた介入研究の結果を報告する。

  • 山岡 明奈, 髙田 琢弘
    セッションID: L-002
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
    会議録・要旨集 フリー

    創造的な問題解決に行き詰った後,あたため期(休憩期間)にマインドワンダリングを行うことで創造的な問題解決が増進される可能性が示されている。しかし一方で,マインドワンダリングを行うことによる,ネガティブ気分の増加や精神的健康の阻害が懸念されている。そこで本講演では,精神的健康を損なわずに創造性を増進する方法について検討した,一連の研究に関する報告を行う。具体的には,マインドワンダリングと創造性の関連の精緻化と,ネガティブ気分を喚起せずに創造性を増進するマインドワンダリングの特定,およびその誘発方法に関する研究について報告する。

  • 佐藤 洋輔, 沢宮 容子
    セッションID: L-003
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
    会議録・要旨集 フリー

    レズビアン,ゲイ,バイセクシュアル(LGB)は,スティグマに由来する様々なメンタルヘルス上の問題が報告されてきた。Meyer(2003)はLGBのメンタルヘルスに影響をおよぼす固有のストレッサーをマイノリティ・ストレスと定義し,LGBへの偏見や差別が過去のものではないことを指摘している。日本でも多くのLGBにいじめや対人関係上の苦痛が報告されており,そのメンタルヘルスの実態を明らかにすることが求められている。講演者は,先行研究が抱える諸問題を踏まえ,1)LGBと異性愛者のメンタルヘルスの比較,2)LGBの日常的な体験に関する質的検討,3)LGBのアイデンティティに関する日本語版尺度の作成,4)LGBとしてのアイデンティティがメンタルヘルスにおよぼす影響の検討を行なってきた。なかでも日々の体験からアイデンティティ受容の効果を明らかにした研究は,従来のネガティブな視点からLGBのポジティブな側面に焦点を当てた,日本においても初の試みである。本研究の結果より,当事者を支援する上でその強みに焦点を当てることの意義が示されたと考えられる。講演では,一連の研究と今後の展望について報告する。

  • 野中 俊介, 嶋田 洋徳
    セッションID: L-004
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/30
    会議録・要旨集 フリー

    厚生労働省(2010)のガイドラインによると,‘ひきこもり’はさまざまな要因の結果として社会的参加(義務教育を含む就学,非常勤職を含む就労,家庭外での交遊など)を回避し,原則的には6ヵ月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態(他者と交わらない形での外出をしていてもよい)を指す。この状態は,生活機能低下などを伴う抜本的な心理的支援が必要な現象であるが,ひきこもり状態の改善を目指す際には,ひきこもり状態にある人(以下,ひきこもり者とする)の家族を対象として間接的にアプローチせざるを得ないことが多い現状にある。家族を対象とした心理的支援においては,認知行動療法的アプローチ(以下,CBT)の有効性が報告されている(境他,2015)一方で,そのアセスメント方略は十分に確立されていないことが課題としてあげられる。本研究においては,ひきこもり者とその家族に焦点を当てたCBT的アセスメント方略を検討し,ひきこもりケースの特徴を明らかにすること,および家族の認知行動的要因がひきこもり者の適応的行動に及ぼす影響を明らかにし,その支援のあり方に関する提案を行うことを目的とする。

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