日本心理学会大会発表論文集
Online ISSN : 2433-7609
最新号
選択された号の論文の937件中1~50を表示しています
招待講演
  • 野家 啓一, 坂上 貴之
    セッションID: SL-001
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    心理学(psychology)の語源がギリシア語の「魂(psyche)」と「学問(logos)」に由来することはよく知られている。同様にソクラテスは哲学の営みを「魂の世話」と呼んだ。このように心理学と哲学とは「魂」の概念を蝶番にして隣同士の学問であり,同じ人文学のよしみで近所づきあいも盛んに行われていた(実際,私が東北大学に赴任した1980年前後は,心理学はまだ哲学科に属しており,研究室も同じフロアにあった)。

    ところが19世紀後半になると,心理学は自然科学に近接した実験的方法論を洗練させることによって,哲学に三下半を突きつけて分離独立する。いわゆる実験心理学ないしは科学的心理学の成立である。その頃にエビングハウスが語ったと伝えられる「心理学は長い過去をもっているが,短い歴史しかもっていない」という言葉はその間の事情を物語っている。つまり,広義の心理学はアリストテレスの『魂について(peri Psyches)』以来の長い過去をもっているが,狭義の心理学(科学的心理学)の歴史は始まったばかりだ,というわけである。その後の心理学の歩みは一瀉千里,学問スタイルも人文学から離れて自然科学に接近し,脳科学や認知科学と二人三脚のタッグを組んで現在にいたっている。

    他方の哲学の分野では,旧来の文献学的手法が根強く残存しながらも,ほぼ一世紀遅れて「自然主義(自然科学主義)」が台頭し始める。クワインによれば,哲学は科学的知見を用いることに躊躇すべきではなく,「認識論は経験心理学に同化される」のである。前門の虎(科学的心理学)と後門の狼(哲学的自然主義)に挟撃されて,人文学(humanities)は今や風前の灯と言ってよい。このような窮境にあって人文学に未来はあるのか,人文学はそのアイデンティティをどこに求めるべきか,人文学の生き延びる道を考えてみたい。

  • 日本心理学会 研修委員会, Kate le Marechal, 松本 学
    セッションID: SL-002
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    Dr Kate le Maréchal is a Consultant Clinical Psychologist and the Head of the Evelina London Cleft Service – one of the nine regional cleft teams that provide comprehensive care for individuals born with clefts in the UK. Kate will describe the history and set-up of Cleft Services in the UK and the comprehensive care that is provided by the multidisciplinary team (MDT). She will talk about the role of the Clinical Psychologist within the cleft team and, using case examples, Kate will talk about the range of clinical work that psychologists engage in across the lifespan including running online groups, providing individual and family therapy, offering support around treatment decision-making and helping with key life transitions such as the move to secondary school. Kate’s appointment as Head of Service marks the first time that a psychologist has led a surgical service of this type and Kate will share her reflections on what makes psychologists so well-suited to this type of role.

    Biography:

    Dr Kate le Maréchal is a Consultant Clinical Psychologist who has worked as the Clinical Psychology Lead within the Evelina London Cleft Service since 2009. She is now the Head of Service for the team.

    Kate graduated from the University of Nottingham in 1996 with a first degree in Psychology (BA Hons) and obtained her Doctorate in Clinical Psychology (DClinPsy) in 2001 at University College London. On completing her clinical training, Kate began her Clinical Psychology career in Child and Adolescent Mental Health Services (CAMHS) before moving to National and Specialist CAMHS (Autism and Related Disorders). She also worked within an Adolescent Forensic Mental Health team at the Maudsley Hospital and was the Lead Clinical Psychologist for the Tuberous Sclerosis 2000 research study. Within the Evelina London Cleft Service, Kate is responsible for overseeing the psychological input for patients and families who require support across the lifespan. This includes providing interventions to help individuals cope with issues around identity and difference, self-confidence and self-esteem and dealing with bullying and teasing. Kate has always had a wider role within UK cleft care and has been the Clinical Psychology representative on the Cleft Development Group (CDG), the Cleft Clinical Reference Group (CRG) and within the UK Clinical Psychology Clinical Excellence Network (CEN).

    Kate was President of the Craniofacial Society of Great Britain and Ireland for 2014/2015 and hosted the UK National Conference in London in April 2015. She was a member of the Local Organising Committee for the International Cleft Congress in July 2022 in Edinburgh, UK. She contributes to national research projects and has presented at a range of national and international conferences. Kate enjoys providing teaching and training to a range of audiences including medical and dental registrars and other health professionals as well as with Clinical Psychologists both pre and post qualification.

  • Susan Clayton
    セッションID: SL-003
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    Climate change is a pressing societal problem that is already affecting many people and that is projected to affect many more. There is increasing recognition that psychology plays an important role in understanding the ways in which people respond to climate change, as well as in promoting positive behavioral changes and psychological wellbeing. This presentation will review some of the ways in which psychology can help address climate change: understanding factors that encourage or discourage accurate risk perceptions; describing current and potential impacts of climate change on mental health and psychological wellbeing; and exploring ways to encourage positive responses that promote individual as well as community resilience. Throughout, I will highlight the importance of attending to identity, both personal and social. I will close by suggesting ways in which the field of psychology can adapt to better address the societal needs created by climate change.

  • 細川 紘未
    セッションID: SL-004
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    氏は,言葉を用いないパントマイムの魅力と可能性を,もっと広く世界中に知ってもらうべく,身体だけでなく,言葉も使ってパントマイムのすばらしさを伝道する,「スーパーパントマイム伝道師♪シスターひろみ」としてご活躍中です。現在の心理学が身体性や感性の問題を大きな軸として展開していることから,これらを異なる視点から眺め,パントマイムをはじめとするパフォーマンスの世界と心理学との接点をそこから発見できれば幸いです。

国際賞受賞講演
  • 日髙 聡太, 浅野 倫子
    セッションID: ITL-001
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    知覚・認知処理の目的は,外界から入力された情報を我々にとって有用な形に変換,表現することにあると考えられる。知覚・認知処理において複数の感覚情報を組み合わせて利用することで,信頼性のある頑健な表現を構築することが可能となる。本講演では,講演者がこれまで行ってきた多感覚を対象とした実験心理学的研究の成果を概観する。ある感覚が別の感覚に影響を及ぼすという相互作用に加えて,複数の感覚にまたがって類似した処理特性を持つという共通性についても触れながら,人の知覚・認知処理の動作原理について考察する。

  • 荻原 祐二, 尾崎 由佳
    セッションID: ITL-002
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    これまでの文化心理学研究は,様々な心理・行動傾向の文化差を体系的に示し,いかに人間が文化から影響を受け,同時に文化を創り上げてきたのかを明らかにすることで,人間理解に貢献してきた。しかし,ある一時点における複数の文化の比較に終始することが多く,文化の動的な側面,特に文化がどのように変容しているのかについては十分に検討されてこなかった。

    そこで講演者は,いかに文化が変容しているのか,そしてその変容が人々の心理や行動にどのような影響を与えているのかについて検討を行ってきた。特に,日本文化が個性や独立性,個人達成などを重視する個人主義文化にどのように変容してきたのか,そしてそうした変化が人々の自尊心や幸福感,対人関係などにどのような影響を与えているのかを解明してきた。

    本講演では,講演者が行ってきた研究の一部を概説する。アメリカや中国等の他文化の変容と比較しながら,文化の変容とその心理的帰結について議論する。また,研究の国際的なインパクトを高めるために意識していることなど,研究の背景にある意図や方略についても簡潔に触れたい。

  • 渡邊 正孝, 仲 真紀子
    セッションID: ITL-003
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    1972年に日本で初めての国際心理学会議が開催された。会計処理の結果,若干の黒字になったとのことである。その余剰金の使途として,その後に海外で開かれる国際心理学会議に若手の研究者を派遣しようという「ヤングサイコロジストプログラム」が設けられた。私はその恩恵を受け,1976年パリで開かれた第21回のICPに参加できた。ヨーロッパに行く直行便はまだない時代で,4回ほど途中給油しながら南周りで28時間かけてパリに到着した。ポスター発表などない時代で,発表は全てオーラルであった。参加した各研究発表そのものも興味深いものであったが,学会直後に会議中に知り合った何人もの研究者のところを訪問できたことは,予期していなかった楽しい出来事であった。大学院生ということで時間に余裕があり,合計45日間予定を決めずに自由にヨーロッパを旅行することにしていたために可能になったとも言える。

    パリで有意義な楽しい体験ができたことに感謝しつつ,何か機会があれば恩返しをしなければ,と思っていたところ,ICP2016の準備に協力するよう依頼を受け,事務局長として携わることになった。仕事のかなりの部分は国際心理学連合との連絡・調整であった。この連合上層部は,国際オリンピック委員会の中枢がそうであるように,上から目線で日本に無理難題を押し付けたりすることがあり,随分とやりあって何とか日本の立場が尊重されるようにがんばったものである。一方,ICP2016の準備で専門が違う多くの方々と知り合うことができ,ともに成功のために協力できたことは良い思い出である。

    私の研究生活の大半は前頭連合野の機能解明に向けられた。講演ではこの脳部位が認知と動機付けの統合に関わっていること,そこには神経伝達物質ドーパミンが重要な働きをしていることを示した研究を紹介するとともに,この20年ほど携わるようになったデフォルトネットワークに関する自分の研究と最近の知見を紹介する。また学生時代から一貫して興味の対象であった意識・無意識の問題について言及することにする。

  • 三浦 佳世, 仲 真紀子
    セッションID: ITL-004
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    見ることは考えることを含んでおり,聞くことは感じることを伴っている。研究者が感覚,知覚,認知,感性などと区別する心の働きは,知覚者にとってはひとつの事象であり,一体としての経験である。そうであれば,知覚することと感じることを包括的に捉え,細分化されている知覚研究に新たな道を拓けないか。

    背中を押してくれたのは,「アイステーシス(aisthesis)」という古代ギリシャ語であった。感覚から感情までを含む「知覚」を意味し,身体的な意味にも精神的な意味にも使えるこの言葉をもとに,18世紀の哲学者Baumgartenは「感性による認識(episteme aisthetike)」を考えようとした。この試みは後に,「美学(Ästhetik)」として進展する。

    アイステーシス(包括的知覚あるいは感性認知)の学を,現代の実証科学として実現できないか。たとえば,無意識の反応を採る知覚実験や,印象を測る感性評価の手法を用いて。

    こうして始めた研究の中には芸術作品に触発され,また,芸術作品を刺激として行ったものも少なくない。たとえば,「感じる時間」の研究では,印象評定に基づき近現代芸術を分類することから始めた。本城直季の写真については「ミニチュア効果」と名付け,奥行き知覚とリアリティー認知の両面から考察した。浮世絵の曖昧な「視線」は,「無自覚的気づき」という概念を思いつかせ,草間彌生や若冲の「不快感」を含む作品は,魅力の「背反感情」について考える機会をもたらした。最近は,キリコの絵をきっかけに,光源位置の偏りとその場面依存効果を検討している。仮説は25年前の「陰影に基づく凹凸知覚」の実験結果に基づく。

    芸術作品という統制されていない刺激と,印象評定という手法を用いてもなお,知覚や認知の基礎研究となりうる面白さは,統制された刺激と心理物理学的実験法を用いた研究の美しさとは異なっている。しかし,私の場合,いずれも対象を見て感じることから始まっている。感じるときすでに考えているという冒頭の一文は,研究者としての実感でもある。感性の働きという点からも話題提供を行いたい。

  • 温 文, 北田 亮
    セッションID: ITL-005
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    運動主体感とは,自分の意思によって自分の行動を制御し,さらに外界の事象を引き起こしているという主観的な感覚を指す。運動主体感は行動に伴う副産物的なものだけではなく,人間の知覚と行動にも大きな影響を与えることは近年明らかにされてきた。本講演では,運動主体感が知覚,行動,およびヒューマン・マシン・インタラクションに与える影響について,取り組んできた研究を紹介する。さらに,運動主体感の生起を説明するモデルについて議論する。

  • 本間 元康, 小山 慎一
    セッションID: ITL-006
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    楽しい時間は速く流れ,退屈な時間は遅く流れる,そのような経験は誰にでもあるに違いない。物理的時間は不変であるにも関わらず,主観的時間がその時々で変化する現象は,時間認知が個人の特性や状況に依存して処理されていることを意味する。そして疾患もまた時間認知を変化させる大きな要因となりえる。講演者は時間認知メカニズムの解明を目指し,時間認知障害を呈する特定の疾患患者と健常者を比較する神経心理学的手法を用いて研究を展開してきた。本講演では,主にパーキンソン病の時間認知障害に焦点を当てた一連の研究成果を紹介する。時間認知障害の機序,時間認知の学習障害,時間認知を利用したリハビリテーションを中心に,関連研究にも触れながら時間認知メカニズムについて議論したい。

  • 積山 薫, 鈴木 華子
    セッションID: ITL-007
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    この40数年の研究生活でいくつかのテーマに取り組んできたが,一貫していたのは,「頻度の高い身体運動や感覚経験が認知機能を形作ることを示したい」であった。ピアジェ風のこの主張は,特に目新しいわけではなかったが,それを「より客観的なデータで」示すことが現代の心理学研究の醍醐味ではないかと考えてきた。卒論当時は,認知心理学の隆盛があり,反応時間を用いて認知過程を推測する面白さに目を見開かされた。大学院を出て10年ほどたったころ,PET(Positron Emission Tomography)やfMRI(functional Magnetic Resonance Imaging)などの非侵襲脳活動計測の技術が普及し始め,脳の中を見られることへの期待感が日増しに高まり,神戸市,つくば市,秋田市などの研究施設に押し掛け実験させてもらった。先端技術を活用した研究方法の刷新による新たな発見として,マガーク効果の実験デモなどで体験される視聴覚音声知覚について,視覚と聴覚を統合する脳内の機能的ネットワークが日本人と英語母語者とではかなり異なることが分かった。これは,視線計測で見えてきた両群の差異—英語母語者は話者の口を注視するが,日本人は目や鼻を見ることが多い—という点とも整合していた。コロナ禍がやってきて,世界中の人がマスクをするようになり,欧米では日本ほどマスク着用が厳格ではないことに人々が気づいた。この背景には,視聴覚音声知覚の言語/文化差もあるのではないかと論文のプレスリリースで述べると,国内外の多くのメディアに着目された。このように,30年近く研究を続けた視聴覚音声知覚については,人の心の可塑的な特徴を時代の先端技術によって興味深く垣間見ることができた。現在取り組んでいる高齢者の認知機能を向上させる余暇活動を同定する研究では,運動(ダンス)や楽器演奏による介入効果を,脳計測を併用して示すとともに,神経伝達物質などでも捉えようとしている。微力ではあるが,ウェルビーイングな社会への貢献を目指して研究成果の社会実装にも視野を広げている。人口の高齢化は日本だけに留まらず世界規模の課題であるが,先端技術を活用した研究手法が社会課題の解決に貢献できるようになってきた時代の幸運に感謝するとともに,若い人には高度情報社会における新たな研究方法への挑戦を期待している。

  • 末木 新, 山本 真也
    セッションID: ITL-008
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    本講演の目的は,現時点で「自殺」という現象に特段の興味はない心理学者の皆様に少しでも自殺研究の魅力を知ってもらうことにあります。エビデンスに基づく自殺対策を着実に進め,幸福な人生を増やしていくために,心理学者ができることは非常に大きいと講演者が信じているからです。ただし,現時点では,心理学者に出来る重要な社会的貢献がこのフィールドにあること,必ずしもいわゆる「自殺」に対する強い関心を持つ研究者だけが自殺研究から得るものがあるわけではないことは,十分に伝わっていないだろうと感じています。こうした自殺研究の持つ心理学者にとっての魅力というものを,少しでもお伝えすることができ,また,将来,広義の自殺に関する研究(やその対極に存在するであろう幸福な人生に関する研究)に関わる方が一人でも二人でも出てくることにつなげることができるようなお話をさせていただければと思います。こうした魅力を紹介する中で,私自身のこれまでの研究(特に,営利/非営利組織,公的機関と協働して行う自殺に関する研究)をどのように進めてきたのかということをお伝えし,皆様の今後の研究の発展に寄与することができればと考えています。

  • 大嶋 百合子, 仲 真紀子
    セッションID: ITL-009
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    ことばの発達の初期である1歳から2歳のころ,日本語を習得する子どもは英語や仏語を習得する子どもにくらべ,発話できる語彙数が少ないということが報告されている。発話できる語彙数が少ないということは語の意味を理解する能力の発達が遅いからということが一般に考えられている。しかし,それ以外の可能性もないとはいえない。本講演では,この問題を紐解く手がかりをさぐるために,NTT研究所の小林哲生氏と共同で行なった日本語母語児とカナダの仏語母語児の語の意味の理解能力の発達を調べた共同研究の結果についてお話しする。

    方法:14,16,20か月児をそれぞれ名詞条件群と動詞条件群にわけ,新奇な物体AとBがそれぞれ新奇な動作AかBをしている映像を見せて,新奇な語を含んだ名詞構文(セタがいるよ(A),モケがいるよ(B))あるいは動詞構文(セタしているよ(A),モケしているよ(B))を聞かせるアニメーションを交互にくりかえし見せ,子どもが飽きて注視時間が短くなった後に,その新奇語が名詞あるいは動詞構文のどちらに含まれているかで映像の物体あるいは動作に正しく対応付けることができるかをテストする馴化法を使用した。

    結果:日本語母語児は20か月で名詞条件,動詞条件とも新奇語を映像の物体あるいは動作に正しく対応づけることができたのに対し,仏語母語児の場合は動詞条件では新奇語を正しく動作に対応付けることができたが,名詞条件では新奇語を映像の物体だけでなく,動作にも対応づけるという結果になった。この仏語母語児の結果は,日本語母語児の16か月の結果と同じで,日本語母語児の方が仏語母語児より語の意味の理解能力の発達が早いということを示している。したがって,日本語母語児が仏語母語児より発話できる語彙数が少ないのは,語の意味の理解能力の発達が遅いわけでないと考えられる。それでは,なぜ語の意味の理解能力は日本語母語児の方がはやく発達するのに,発話できる語彙数が仏語母語児にくらべ少ないのか。この謎を解くために日本語とカナダの仏語の親がこの二つの映像を含む動物が動作をしている15のアニメーションを20か月児にどう説明するか調べたころ,仏語の親の方が,子どもの発話を促す発話スタイルをとっていることが示され,これが,仏語母語児の発話できる語彙数の発達を促進していることが示唆された。

大会企画シンポジウム
  • 日本心理学会機関誌等編集委員会 Japanese Psychological Research 編集小委員会, 竹林 由武, 国里 愛彦, ...
    セッションID: IS-001
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    英語論文を投稿し公刊することは,若手の心理学者にとって自身の研究を世界に知ってもらうだけでなく,我が国の心理学全体の世界的なプレゼンスを高めるためにも重要な意味を持ちます。その意義は近年広く浸透し,英語論文の投稿・公刊は従来よりもかなり増加しています。とはいえ,投稿・公刊に至るプロセスをどう攻略していくのかは実際のところ明確ではなく,そのために悩んだり時間がかかったりすることも多々あるかと思います。日本心理学会機関誌等編集委員会では,2010年に「英語論文投稿への道─入門編─」を開催して以来,11度にわたり同趣旨の講習会を開いてきました。これまでの講習会も多くの方にご参加頂きご好評を以て迎えられてきました。本年度は,精力的に英語論文を出版されている若手研究者から,近年の学術出版・研究プロセスに関する経験や提言を共有いただきます。具体的なテーマとしては,研究計画の事前登録制度,新しい学術出版スタイル,多領域多層的な共同研究など,今後多くの研究者が直面するであろう問題に焦点をあて議論します。話題提供者の経験や提言を題材に参加者と議論を深め,これからの時代を担う心理学者に必要な研究への心構えの形成を後押しする会となれば幸甚です。

  • 日本心理学会 国際委員会, 毛 新華, 佐藤 徹男, 山本 真也, 家島 明彦, 山本 真也, 三浦 麻子, 温 若寒
    セッションID: IS-002
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    コロナ禍において,国際的な移動が制限される中,留学生が入国できない・入国が遅れるケースが見られた。また同時に,オンラインでの授業や研究等も様々な取り組みが行われてきた。

    本シンポジウムでは,入国が困難であった留学生やそのような留学生を指導してきた教員の事例を通して,渡日して研究することのメリットやデメリットを話題提供者にお話し頂く。その後,参加者も含めてスモールグループでのディスカッションを行い,日本に来て研究する意義を再考する場を提供したい。

  • 日本心理学会 男女共同参画推進委員会, 森野 美央
    セッションID: IS-003
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    お茶など飲みながらオンラインで気軽に参加いただくイベントです。イベントでは,職場や学校,ライフイベントに関わる情報交換やTipsのシェアをすることを通じてネットワークづくりをします。参加対象者は女性に限りません。女性でなくても,育児や介護をしていなくても参加可能です。本イベントに興味がある全ての皆さまのご参加をお待ちしています。

    今回のテーマは,「研究の継続を目指して」。育児や介護中,研究時間の捻出や研究成果の蓄積が思うようにできず,悩む人は少なくありません。研究継続のために利用している支援制度や公私に渡る工夫,などについて話し,知恵やヒントを共有しましょう!

    イベントは,割り当てられた時間帯にzoomを使って遠隔で2時間程度実施予定です。自己紹介後,好きな話題の部屋を選んでお話するセッション,今回のテーマに沿って属性・ライフスタイルが似ている人とお話するセッション,という2回のブレークアウトセッションを行います。最後に,グループで出た話について全体共有をしたり,個別のやりとりをしたりする予定です。

  • 日本心理学会 若手の会, 富田 健太, 讃井 知, 阪口 幸駿, 高野 佑紀奈, 遠山 朝子
    セッションID: IS-004
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    例年に引き続き,高校生,学部生,大学院生そしてポスドク研究者までを対象とした進路相談会を開催します。様々な領域で活躍する大学院生,若手研究者,教員が相談に応じます。相談形式は,担当者と参加者が複数名で話し合うグループ相談形式で実施します。

    また今年度は,企業で研究をされている方や一般企業に勤めてから再度大学院に進学し研究職に従事している方など様々な背景を持つ先生方をお呼びし,自身の進路選択の経緯などについてお話しいただきます。進路に関しては,指導教員や身近な人としか話す機会がないかもしれません。是非,この機会に,多様な方々と気軽にお話をし,今後の進路選択の参考にしていただけたら幸いです。

  • 日本心理学会 若手の会, 井上 和哉, 富田 健太, 山田 達人, 岡島 義, 工藤 和俊, 守谷 喜光, 秋冨 穣, 菅野 仁美, 横光 ...
    セッションID: IS-005
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    社会にとって有意義な研究を行うために,研究者は大学に留まらず,一般社会に根ざし,地域,行政,産業,医療,スポーツ,司法など,各コミュニティとの共同関係が欠かせない。そして,得られた知見をコミュニティに生かし,より良い社会を目指すことが心理学の一つの在り方として考えられる。しかしながら,大学外のコミュニティと共同関係を一から築くことは容易ではなく,前例がないことがほとんどである。本シンポジウムでは,各コミュニティにおいて,その前例を創ってきた研究者と共同研究者をお招きし,共同関係の構築,維持,知見の還元について,若手研究者に求められるポイントを議論する。

  • 日本看護科学学会・日本心理学会, 鎌倉 やよい, 池田 真理, 仲上 豪二朗, 丹野 義彦, 増田 真也, 坂上 貴之, 武藤 崇, 山田 ...
    セッションID: IS-006
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    シングルケースデザイン(single case design; SCD)は,推測統計学と実験計画法に支えられたランダム化比較試験(randomized controlled trial; RCT)とは方向の異なる科学的研究法と実践のあり方を提案する。これまでの心理学,殊に実験心理学的研究で支配的な(そして言うまでもなく医学等の生命科学においても支配的な)RCTの使用については,2015年ころから起こった「再現性の危機」における問題提起をその背景としつつ,メタ分析の活用や効果量などの指標の利用といった様々な新しい提案がなされてきた。その一方で,個体の行動を対象とした実験室での研究に基づく行動分析学では,その初期から,個体の行動を制御していると考えられる原因を,その遺伝的資質,誕生からの環境との履歴,現在の環境条件,の3つに求めるために,個別の個体の行動を変容させる変数への種々の操作を系統的に行ってきており,それらは実験法や分析法として次第に整理され,現在SCDの名でまとめられてきた。系列依存性の問題からRCTで開発されてきた統計法を用いることが難しいために,1980年くらいまでは,主に目視を中心とした要因効果の判定に制約されてきたが,高速の計算が手近なものとなり,充実したソフトウェアが利用できるようになるに従って,効果判定に様々な数学的な手法が開発されるようになってきた。そして現在では,教育科学,看護科学の分野においても,SCDを用いた研究を見出せるようになってきた。

    本シンポジウムでは,こうしたSCDについての基本的な考え方からはじまり,現在の学界におけるSCDについての動向,SCDの運用と効果判定の技法,SCDの限界とその突破,実践場面でのSCDの研究法や分析法,経験に基づくノウハウや困難な問題,など話題として提供していただきながら,「個に寄り添う」看護科学と心理科学が目指す,共通の科学と実践について討議していきたいと考えている。

  • 日本心理学会 認定心理士の会運営委員会, 伏島 あゆみ, 渡邊 伸行, 岸 太一
    セッションID: IS-007
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    日本心理学会認定心理士が活躍する場は,教育,福祉などの分野のみにとどまらず,実に多様である。社会連携セクションでは「認定心理士として社会で実践していること」をテーマに,認定心理士が日常の生活や業務の中で,心理学を実践している事例や,心理学について考えている/行っている実践・研究内容などを発表する。第三回目は,一般研究発表と同様にポスター発表形式によって実施する。認定心理士と研究者,これから認定心理士の取得を考える学部生などが自由に議論し,意見交換する場としたい。

  • 日本心理学会教育研究委員会 心理統計法標準カリキュラム作成小委員会, 三浦 麻子, 小杉 考司, 清水 裕士, 高橋 康介, 森 知晴, 山 ...
    セッションID: IS-009
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    学問の世界は日進月歩。私たちは研究者として教育者として,常に知識を更新する必要があります。心理統計という私たちの「道具」にしても同じことです。例えば50年前,25年前,そして今の『心理学研究』誌を手に取って(J-STAGEにアクセスして),ご自身の専門に近いテーマの論文を読んでみてください。用いられている手法も,あるいはその時何が常識とされていたかも,大きく変化していることに気づくでしょう。

    中堅・ベテランの方々は「心理統計の専門家でもないのに,道具の発達に追いつくのはしんどい」と,若手の方々は「最新の情報を知っていればよく,基礎に目を向ける暇などない」とおっしゃるかもしれません。わかります。しかし,この状況を放置すると,やがて論文が読めなくなり,論文が書けなくなり,研究ができなくなります。そして,論文を読む教育が,書く教育が,そして研究指導ができなくなります。

    私たちは,私たちが研究者として教育者として,常に知識を更新できるような環境を整えられないか,と考えました。そして,そのためにそれぞれがバラバラに努力するのではなく,それを結集するべく心理学会として頑張ってみよう,という結論に至り,2021年8月に本委員会が発足しました。

    本シンポジウムでは,こうした意図を心理統計教育の現状をふまえてご説明した上で,私たちが構想しているカリキュラムの構造についてご紹介します。論文を読めるようになる「Basic Statistics(ベシスタ)」,論文を書けるようになる「Standard Statistics(スタスタ)」,さらに発展的な手法を身につける「Advanced Statistics(アドスタ)」の3層構造で,知識を広げていくというよりは下地から本塗り,そしてつや出しへと塗り重ねていくという発想です。まず手始めに作成したベシスタのシラバス案をお示しして,皆様と議論したいと考えています。既に資料を公開し,パブリックコメントを募集しておりますので(https://sites.google.com/view/jpa-psychometrics/),是非ともお目通しの上,当日はもちろん,事前にもご意見賜れれば幸いです。

    心理統計あるいはその教育に現に携わっていようがいまいが,ああこれは「じぶんごと」だな,と捉えてくださった方々のご参加を心よりお待ちしております。

  • 日本心理学会 男女共同参画推進委員会, 平石 界, 四本 裕子, 池上 知子, 吉原 雅子, 土肥 伊都子
    セッションID: IS-010
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    本シンポジウムは,性(セックス・ジェンダー)に関する研究成果の,社会に向けての適切な発信について考えるものである。自然科学であれ人文社会科学であれ,そもそも研究自体にジェンダー・バイアスがある。ただしここでは性に関して,信頼できる成果や知見を出すことの困難さや,学問の成果が社会に発信される際の誤用による様々な弊害や,それらへの対応策などについて議論する。

    最初に平石界氏から,配偶者選好の性差にかんする進化心理学の知見の再現性の問題などを例に引きつつ,心理学の研究成果がどこまで実社会の人間に適用可能なのか「証拠の階層」(evidence level)を整備する必要について話題提供して頂く。

    次に,認知神経科学者で,いわゆる「男性脳・女性脳」の俗説が差別を助長する問題などについて情報発信されている四本裕子氏から,因果関係も一方向ではなく断言する科学的根拠がない中で,構造的差別を強化する方向に言説が広げられるパブリケーションバイアスの実例を挙げて頂く。そして,それによる弊害,さらには解決策を提案して頂く。

    最後に,社会心理学がご専門の池上知子氏からは,研究成果がステレオタイプ化して流布し,その結果ジェンダー不平等が生じた場合に,それを容認,正当化してしまう心理的メカニズムがあることや,不平等解消を実現するための前提条件となるジェンダー意識,社会制度などについてお話し頂く。

    指定討論者は共催のギースの会長の吉原雅子氏にお願いする。心理学領域で提供された話題について,哲学の観点からご意見を述べて頂き,性に関する研究成果を社会へ適切に発信する方策についての議論の口火を切って頂く。

  • 日本心理学会 国際委員会, 清河 幸子, 河原 純一郎, 佐藤 徹男, 春原 桃佳, 大塚 由美子, 梅村 比丘, 石津 智大, 村瀬 華子
    セッションID: IS-011
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    国内で博士号取得後にポスドクとして海外で研究活動に従事することや,海外で博士号を取得することは,研究を推進していく上で極めて貴重な経験である。そのため,国際委員会企画シンポジウムでは,一昨年は「はじめよう!国際共同研究!」,昨年は「コロナ禍の海外ポスドク探し」と題して,主として若手研究者が海外で研究を展開することを後押しする企画を開催してきた。これらの企画によって「背中を押された」と感じて海外に飛び出していった方もいらっしゃるかもしれない。しかし,「背中を押す」ことに加えて,海外に飛び出すことに伴う不安を解消する形でのサポートも有効と考えられる。そこで,今年度は,「海外からどのように日本国内の就職先を見つけるのだろうか?」「日本に知り合いがいない場合にどうしたらいいのだろう?」「海外からでもできる就職活動や,国内にいないとできない就職活動ってあるのだろうか?」など,海外での研究生活を経た上での日本国内アカデミア就職という,現実的かつ重大な問題を正面から取り上げる。はじめに,4名の話題提供者からご自身の経験を踏まえて帰国前・帰国後の就職活動や,現在のアカデミア職に就いた経緯をお話しいただく。その後,参加者で小グループを編成して,海外研究生活を経ての日本国内のアカデミア就職に関して抱いている疑問や悩みを共有するディスカッションを行う。最後に全体で情報共有を行う。本シンポジウムによって不安が軽減され,少しでも多くの方が海外に飛び出していくことを期待している。

  • 日本心理学会 若手の会, 前澤 知輝
    セッションID: IS-012
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    日本心理学会第86回大会における若手の会の企画として,今年度も心理学に興味を持って学習や研究を行っている高校生・大学学部生を対象に「学部生・高校生プレゼンバトル」を開催いたします。発表内容は,部活動での成果報告や,ゼミ研究,卒論の中間発表,これから取り組もうとしている研究計画など,心理学に関係するもの,精神と行動に関係しているものを広く募集いたします。ご自身の研究を4分間でいかに魅力的にプレゼンテーションできるかを審査し,ベストプレゼンターを選出いたします。研究方法や結果の有無よりも,イントロダクションに重点を置いて評価することを基本指針とします。

  • 日本心理学会教育研究委員会 高校心理学教育小委員会, 楠見 孝, 唐沢 かおり, 直江 清隆, 河野 哲也, 和田 倫明, 市川 伸一
    セッションID: IS-013
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    本シンポジウムは,学習指導要領の改訂に伴って,来年度からスタートする公民科「倫理」の中に,心理学の内容が従前以上に導入されることにあわせて行う企画である。シンポジウムでは,従来の公民科「倫理」の問題点を踏まえて,今後の新たな「倫理」教育に向けて,心理学者と哲学者が連携し,高校教員や高校生に向けて発信するための課題について対話することを目的とする。話題提供では,楠見が,企画趣旨とともに,公民科「倫理」の中に,導入された心理学の新たな内容とその背景,今後の期待と現状の課題について述べる。唐沢は,「倫理」教育において心理学を教える意義と課題,哲学・倫理学と心理学が連携する重要性について述べる。直江は,哲学・倫理学の立場から,「倫理」の教育において科学としての心理学がはたす役割への期待について述べる。河野は,授業方法としての哲学対話が「倫理」の内容の理解と思考の深まりにいかなる影響を与えるかについて論じる。そして,指定討論者として,和田が, 心理学分野が教育課程とともにどのように変遷してきたかを振り返りつつ,公民科教育の実践を踏まえて,それぞれの話題提供に即して今後の課題を整理する。最後に,登壇者相互の対話をおこないたい。

  • 公認心理師養成大学教員連絡協議会, 丹野 義彦, 鈴木 伸一, 丹野 義彦, 吉橋 実里, 岩原 昭彦, 有光 興記, 大月 友, 熊野 宏 ...
    セッションID: IS-014
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    これまで公認心理師養成大学教員連絡協議会(以下,公大協)は,公認心理師の養成について検討し提言してきたが,その集大成として,「公認心理師教育コアカリキュラム」の試案を作成し,2022年5月に「中間報告ver.2」を公表した。試案は公大協のウェブサイトで一般公開されている。

    コアカリキュラムとは,専門職の養成において,全大学で共通する「コア」の部分を抽出し,体系的に整理したもので,医師,歯科医師,看護師,薬剤師,教師などについて作成されている。公大協のコアカリキュラム試案では,公認心理師の実践能力(コンピテンシー)を明らかにし,それを「到達目標」として,知識と技能の獲得を体系化した(いわゆるOutcome-based educationの考え方)。また,大学および大学院・実務経験プログラムの各段階の到達目標とカリキュラムを整理することで,公認心理師養成の全体像を明らかにしようと試みた。学生にとっては,カリキュラムの全体像と各段階の学修の意義が理解でき,学修の動機づけが高まり,キャリアパスの展望を持つことができる。また,養成機関においては,養成の「コア」となる標準的なコアカリキュラムが作られることによって,具体的なカリキュラム作成のモデルとすることができる。さらに,公認心理師試験の出題基準を検討する際にも役にたつと考えられる。

    コアカリキュラム案作成は,公大協の4つの委員会を中心におこない,日本学術会議 心理学・教育学委員会の5つの分科会と連携して検討した。作成に当たっては,現行の制度と構造に従い,大きな変更はできるだけ行わないようにしたが,そのうえで,公大協としてどうしても必要と考えた点については修正をおこなうことにした。

    本シンポジウムでは,まず,公認心理師制度推進室から「公認心理師の現状と課題」について話題提供をいただく。続いて,コアカリキュラム案作成に携わった4つの委員会から,その経過と内容などを話題提供する。最後に,医学と養成校の立場から指定討論をいただき,公認心理師養成の今後のあり方を議論したい。

  • 日本心理学会 認定心理士の会運営委員会, 三浦 麻子, サトウ タツヤ, 山田 祐樹, 河原 純一郎, 渡邊 伸行
    セッションID: IS-015
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    近年の心理学における再現性問題や統計革命によって,これまで教科書で学んできた心理学の理論の一部が否定されたり改訂されつつある。一方,SNSなどで「一般に流布している心理学」の中には,本来の理論とは異なる解釈がなされていたり,心理学を装っただけの根拠に乏しい理論も見られる。本シンポジウムでは,以上のような心理学における様々な変化を取り上げ,心理学で学んできたことをどのようにアップデートしていくか,一般に流布する心理学を装った理論の真贋をどのように見極めるか,などについて議論する。研究者として,あるいは認定心理士として,一般社会に向けて心理学の正しい知識をどのように発信していくか,議論する機会としたい。

  • 日本心理学会 国際委員会, 佐藤 徹男, Jonathan B. Aganan, Junix Jerald I. Delos Santos, ...
    セッションID: IS-016
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    今回のシンポジウムのきっかけとなったのは,2021年1月からアメリカ心理学会が開始した ”Leadership Learning Institute”という企画である。この企画は,世界中から,将来の指導者と嘱望される若手を集め,経験のある指導者とペアにし,研究プロジェクトを実施させるというものである。期間中,様々なテーマで講演イベントも開かれた。多くの国から各国1,2名の指導者,被指導者が参加し,6月にコロンビアのボゴタで開かれた “International Summit on Psychology and Global Health“の場で研究プロジェクトの発表会が開催された。この企画に日本からも,指導者,被指導者各2名が参加した。この企画は,ボゴタの会議以外は全てオンラインで行われた。オンラインでこそ実現できた企画,ひいては,コロナのおかげで実現できた企画と言えるかもしれない。本シンポジウムは,この企画に参加した日本とフィリピンの若手2名,指導者2名に体験と,そこから得たものについて語って貰い,同様なイベントをアジアで開催できる可能性を探ることを目的とする。

公募シンポジウム
  • 本田 真大, 永井 智, 後藤 綾文, 杉岡 千宏, 水野 治久, 岡田 涼, 木村 真人, 飯田 敏晴
    セッションID: SS-001
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    人に助けを求めたり相談したりする心理は「援助要請」として概念化されている。援助要請研究は主に心理的問題(困り事や悩み)に対する専門家・非専門家への援助要請と,児童青年が授業時等に教師に行う学業的援助要請に分けられる。国内の援助要請研究は中学生や大学生を対象としたものが多く,小学生を対象とした研究は少ない。そこで本シンポジウムでは,主流な研究対象者よりも低年齢の小学生を対象とした援助要請研究の話題提供を通して,小学生の援助要請の特徴について理解を深めることを目的とする。話題提供の内容は,援助要請に対する認知(期待感,抵抗感),援助要請に対する家庭・学校の役割,特別な支援が必要な小学生の援助要請,いじめと援助要請,を予定している。さらに,援助要請しやすさを個人内の要因のみでなく,環境面の要因からも考えて研究していくために,各話題提供者の研究及び実践から,援助要請に優しい学校(help-seeking friendly school)の在り方について議論する。

  • 渡辺 恒夫, 田中 彰吾, 村田 純一, 長滝 奨司, 境 敦史
    セッションID: SS-002
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    現象学は長らく哲学として研究されてきたが,元々19世紀のブレンターノによって心理学方法論として出発し,今世紀に入り心理学へと還帰しつつあるような流れも見える。本シンポジウムは第83回大会準備委員会公開シンポジウム「心理学と現象学―その関係の過去・現在・未来」,第85回大会公募シンポジウム「心理学と現象学の新たな対話」を受け,目下進行中の出版プロジェクトの執筆者の中,哲学研究者2名を話題提供に招聘して,心理学と現象学の歴史的関係を探る。企画代表者(渡辺)による心理学と現象学の関係の通史的概観に続き,村田が19世紀末の歴史的状況を考慮に入れながら,心理学と現象学の創始者たち(ヴント,ブレンターノ,フッサール)を統合的に理解する途を拓く。続いて長滝が,心の哲学と心理学の展開と絡み合いについて,内観を巡る論争に焦点を当てて描き出す。田中は,意識をめぐる現代の神経科学研究および心脳問題と現象学の関係について論じる。境が実験現象学的アプローチによる知覚の現場研究者としての立場から指定討論にあたる。

  • 北村 英哉, 山 祐嗣, 橋本 博文, 山口 勧
    セッションID: SS-003
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    文化心理学研究が興隆する中,足下の日本文化についての関心も深まり,西欧だけでなく,さまざまな比較研究から,その特徴を描こうとしている。さらに,その形成の要因についても,社会生態学的要因から,地理的要因まで現在では広く,多様な要素が扱われつつある。こうした文化的特徴のある現象について,どのような概念を活用していくのが有効であろうか。そうした概念立案を各文化からボトムアップ的に採用する戦略も考えられる。それぞれの立場でこうした文化現象に立ち向かっている研究者たち3名から話題提供を行い,日本の文化研究興隆の契機をつくり出した山口勧先生に指定討論をいただく。

  • 青野 篤子, 秋本 倫子, 坂西 友秀, 細見 直史, いとう たけひこ, 荒尾 貞一, 田口 久美子
    セッションID: SS-004
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    新型コロナウィルス感染症は,未知の病気であるがゆえに様々な社会の脆弱性をあぶりだした。感染症,ウィルス,ワクチンについての科学的知見(エビデンス)は専門家の間でも異なるが,政府の対策に都合のよい情報が流布され,人々をワクチン接種に駆り立てている。医療・教育関係者や心理職は個人の意思とは無関係にワクチン接種を求められる。ワクチン接種を含むコロナ対策をめぐって,人々はマスコミ,うわさ,身近な事例などによって賛成論・反対論・中立の立場をとると思われるが,それらの間に対立や反目(極端な場合は差別)さえ生じている。また,長引く流行により,人々の働き方や対話,児童・生徒・学生の学びのスタイルが変わり,人間関係やメンタルヘルスにも様々な問題が生じている。このシンポジウムでは,いかに情報の偏りによって「コロナ禍」が作り出されてきたのか,そして「コロナ禍」が人々のメンタルヘルスにどのような影響を与えてきたのかについて話題提供をしていただき,コロナをめぐる諸問題について広く心理関係者の皆さんと一緒に考えてみたい。

  • 中分 遥, 豊川 航, 加藤 郁佳, 小倉 有紀子, 水野 景子
    セッションID: SS-005
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    人間を含む生物は様々な意思決定をし,その結果から学習している。こうした決定や学習にはマイクロ・マクロな階層が存在する。マイクロな階層としては,個体内の判断や学習の成立に関わる神経基盤などがある。また,マクロな階層では,動物群れや人間の社会集団を単位とする集合的意思決定,学習結果が文化として集団に蓄積していくことなどを想定できる。また中間層(メゾレベル)として意思決定が個人で完結するが利得構造が他者に依存する社会的ゲーム状況や2者間相互作用どがある。本発表では,異なる階層において判断や学習に関わる研究を紹介し,これらの階層の研究を貫く普遍的テーマや総合的視点に立つと生じる問題について議論する。

  • 川島 朋也, 小林 正法, 紀ノ定 保礼, 小林 勇輝, 水野 景子, 山本 寿子, 国里 愛彦
    セッションID: SS-006
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    世界的なCOVID-19の流行により現在も研究教育活動に制限がある。この中で,インターネットを介して参加者が自宅などの遠隔地から実験に参加できるオンライン実験の技術がいっそう注目を集めた。これまで企画者らは,lab.jsやPsychoPyなどのツールを用いたオンライン実験の作成についてワークショップを開催してきた。これらに加え,近年ではZoomなどのオンライン会議システムを用いた心理実験も展開されている。本シンポジウムでは,オンライン実験の実際を明確にするために,これらのツールを用いてオンライン実験を行ってきた方々に取り組み内容や現状をご紹介いただく。オンライン実験の技術が研究教育活動にいかなる影響を与えたのかを具体的に問いながら,今後の心理学研究のあり方を展望する手がかりを得ることを目的とする。特に,従来の実験室実験との対比や共存をテーマに,将来の展望について討論したい。

  • 渥美 剛史, 早川 卓志, 平松 千尋, 生形 咲奈, 井手 正和, 明和 政子
    セッションID: SS-007
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    近年,多様な個人をいかにコミュニティが受容していくかが問われている。なかでも遺伝的,神経生理的な背景から特異な感覚様式を有する人は,直面している問題が周囲から理解されづらい。色覚の多様性に対応したカラーバリアフリー等の配慮は浸透しつつある一方,感覚過敏を呈する発達障害では感染症対策のマスク着用が困難な場合があり,いまだ周囲に受け入れられづらい,という現状がある。ところが,異なる生態を持つ動物種間で,感覚の違いは多様である。また,その分子生物基盤や,種内での多様性の獲得メカニズムも明らかになりつつある。ある感覚の有無や特別な処理が,個体の心理や行動,日常生活にどのように影響してくるか考えることは,ヒトの感覚の多様性への理解や受容の一助になると考えられる。本シンポジウムでは,種の感覚の多様性と関連する生態や遺伝的要因の研究を取り上げ,進化の観点から,その生物学的基盤を考える。また,認知神経科学・実験心理学的な研究から,種内の感覚の多様性について取り上げる。なかでも,遺伝的多様性や,自閉症スペクトラム障害のような発達障害に着目することで,分子生物から心理・行動までの連続的な理解を試みる。

  • 野田 昇太, 渡邉 美紀子, 加藤 伸弥, 西内 基紘, 大川 翔
    セッションID: SS-008
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    社交不安症(Social anxiety disorder: SAD)は,他者の注視を浴び得る社交場面に対する著しい恐怖や不安を本質的な特徴とする疾患である。本邦におけるSADの生涯有病率は1.4%である。女性の有病率は男性より高いことが明らかになっている。また,SADは他の不安症やうつ病などの精神疾患と併存しやすいことが指摘されている。これまで,SADの基礎理解に関する検討が進められてきた。回避行動と否定的認知がSADの維持要因であることが確証され,学習理論と情報処理理論の観点からSADにおける治療アプローチが展開されてきた。しかしながら,エビデンスの蓄積のため,基礎研究を踏まえた治療アプローチとその臨床研究のさらなる検討が必要である。本シンポジウムでは,SADの治療に活かす基礎研究とその臨床応用について議論する。基礎研究としては,種々の進化心理学的理論を足掛かりとして,社交不安という感情の適応的機能を考察する。さらに,臨床研究から基礎研究を生かしたSADの治療的アプローチとその有効性について発表する。指定討論では,SADの治療的アプローチに基礎研究の知見を活かす際の留意点等を議論したい。

  • 田中 彰吾, 嶋田 総太郎, 村田 憲郎, 宮崎 美智子
    セッションID: SS-009
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    科学的な自己研究では,しばしばミニマル・セルフとナラティブ・セルフの区別に言及がなされる。前者は,時間的な広がりをほぼ持たず,最小の要因とともに成立している自己である。過去約20年の間,身体所有感や運動主体感に着目してミニマル・セルフの研究が盛んになされてきた。近年,VRなどを用いた研究法の広がりと相まって,ナラティブ・セルフもまた科学的な自己研究の対象になりつつある。ただし,ナラティブ・セルフは「物語的自己」とも訳される通り,個々人のライフストーリーを反映した物語的文脈のもとで成立する自己である。記憶や想像のような個人的要因を始め,社会・文化・歴史といった集合的要因とも複雑に絡み合うため,科学的研究のアプローチも多様になりうる。本シンポジウムでは,従来のミニマル・セルフ研究との連続性を念頭に置いて,今後のナラティブ・セルフ研究の方向性を模索する。田中は理論心理学の観点から論点を整理する。村田は現象学的観点からナラティヴ・セルフの哲学的意義を論じる。嶋田は,VR等を用いた新たなナラティヴ・セルフ研究の成果を報告する。また,自己意識の発達を扱う宮崎を指定討論者に迎えて議論を行う。

  • 太幡 直也, 佐藤 拓, 菊地 史倫, 讃井 知, 上野 大介, 村井 潤一郎
    セッションID: SS-010
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    「隠す」という欺瞞的行為は社会生活に深く根差しており,「隠す」心理を研究するためには知覚,記憶,社会,発達,臨床など領域横断的な議論が必要となる。本シンポジウムでは,「隠す」心理に関連するさまざまな分野の研究の話題提供を行い,嘘や欺瞞に関する議論を深めてきた。本年度は,「隠す」心理に基づいて他者から利益を搾取する行為として詐欺に着目し,詐欺を行う側,詐欺を受ける側の両者に着目した研究を紹介する。最初に,詐欺を行う側について,欺瞞研究の視点から詐欺の手口をまとめる(太幡・佐藤)。続いて,詐欺を受ける側について,詐欺を受けた後の行動を踏まえた詐欺被害対策に関する研究として,家族や地域コミュニティの単位で詐欺を看破するメカニズムとその可能性(讃井),高齢者の詐欺被害防止活動(上野)に関する研究を紹介する。最後に,総合的な討論において,詐欺に関する心理に関する今後の研究の展望について議論する。

  • 滑田 明暢, 町田 奈緒士, 樋口 亜瑞佐, 河野 禎之, 葛西 真記子, 松並 知子
    セッションID: SS-011
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    昨今では,SOGI(性的指向と性自認)という言葉の広がりとともに,私たちは必ずしも異性を好きになるわけではないこと,そして,戸籍や身体的特徴をもとに他者から認識される性とは異なる性自認がもたれる場合があることが共有されてきていると考えられる。一方で,現状でどのような課題があり,その課題にどのように対応したらよいのか,ということについての知見は今も加えられ続けている状況にあるといえるだろう。本シンポジウムでは,教育現場におけるSOGIをめぐる現状や課題に関する知見を共有し,議論することに焦点を当てたい。安心して学ぶことができる環境が想定される教育現場において,SOGIをめぐる現状や課題にどのようなものがあり,どのように対応できるかについて,理解を深める機会としたい。

  • 渡邊 ひとみ, 河越 隼人, 稲垣 勉, 水野 邦夫
    セッションID: SS-012
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    様々な工夫をこらしながら研究計画を立案する作業は心理学研究の魅力のひとつである。しかし同時に,思い描いていた通りに研究を遂行できない,あるいは得られた結果の一般化に限界を感じることも多い。そこで本シンポジウムでは,研究をする中で直面する課題や限界点を共有し,妥当なサンプル対象/数の確保の問題,研究知見の一般化の限界,各種研究法の長短,コロナ禍で課される制約等々について広く議論する。

    話題提供では,まず心理カウンセリングに関する研究を取り上げ,実験場面における参加者のロールプレイ反応のぎこちなさや,要因が複雑化する臨床実践場面への知見応用の難しさについて紹介する。続いて,潜在連合テストなどの潜在的測度に関する研究を紹介し,コロナ禍でのウェブ調査の利点と制約(従来のように行動指標を測定できない等々)について紹介する。最後に,過去の出来事やその経験への意味づけに関する研究を取り上げ,それぞれに異なる個々人の経験をカテゴリ化あるいは数値化して量的に分析することの難しさや問題点について紹介する。多様な視点からの議論が今後の研究の方向性の提示やヒントにつながることを期待したい。

  • 森口 佑介, 渡部 綾一, 川島 陽太, 中村 友哉, 森本 優洸聖, 石原 憲, 土谷 尚嗣
    セッションID: SS-013
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    主観的で現象的な「○○であるという感じ」を意識と呼ぶ。近代心理学を創設したヴントやジェームズは,意識を心理学のテーマとしたが主観的な意識は実証主義を目指した心理学から排除されてきた。しかし近年は計算論的アプローチの導入や脳活動計測技術や心理学的実験パラダイムの発展により,主観的な意識を客観的な行動や脳活動と結びつける取り組みが進められてきた。これらの取り組みにより神経科学や工学,心理学等複数の分野にまたがる学際性を持つ重要なテーマとして意識の研究が進められている。

    本シンポジウムでは様々な視座から意識の理解・解明に挑戦している5人の若手研究者が,現在最前線で意識研究を行っている土谷と議論する。川島は意識の神経相関とその階層性,中村は錯視の時間形成,森本は知覚処理と運動・決定に関する処理の分離,石原は身体と外環境のインタラクションの熱力学的定式化,渡部は意識の発達について話題提供する。本領域のトップランナーである土谷を迎え,現在の心理学研究は意識に迫ることができるか,また迫るためには何が必要かを皆さんと一緒に考えたい。

  • 島田 貴仁, 高木 大資, 古村 健太郎, 讃井 知, 浦 光博, 中谷 友樹
    セッションID: SS-014
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    日本の犯罪被害の規模は,交通事故や労働災害を上回り,その未然予防は社会的課題である。既遂の犯罪者・被害者を取り扱う犯罪の三次予防では,公認心理師科目の司法・犯罪心理学によって,一定の教育研究が行われるようになったが,潜在加害者・潜在被害者を対象とした一次・二次予防では,社会心理学・教育心理学・環境心理学といった有望な方法論が存在するにもかかわらず,専門職域の未整備もあり教育研究は立ち遅れていた。しかし,近年,警察の防犯分野と大学研究者との協働コンソーシアムの設立,個票のオープンデータ公開等,教育研究の環境が急速に整いつつある。 このため2019年以降日心大会でシンポジウム「地域での犯罪予防」を開催し,各地での心理学研究者と実務家との協働事例および教育事例のショーケースを積み重ねてきた。4年目になる本年は,高齢者の世帯構成に注目した被害リスク分析,社会参加に注目した日常活動調査,社会ネットワーク分析の結果に基づく新たな地域介入の可能性を中心に検討する。

  • 浅見 祐香, 村瀬 華子, 野村 和孝, 荒木 龍彦, 嶋田 洋徳, 古根 俊之
    セッションID: SS-015
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    海外において,司法・犯罪分野の依存症に対する認知行動療法に基づく心理的支援のエビデンスが蓄積されており,本邦においても,刑事施設や保護観察所などの公的施設において認知行動療法に基づくプログラムの展開が進められている。さらに,再犯防止施策の一環として,出所後の受け皿となる民間施設である自助グループや医療機関などにおいても認知行動療法を導入する動きが広がっている。この点に関して,依存対象ごとに開発された標準プログラムなどが活用されているものの,認知行動療法の実践者養成や各施設の特徴を踏まえた運用などについては課題が残る状況にあり,認知行動療法のプログラムをこなすこと自体が目的化してしまうことも懸念されている。実際に,自助グループにおける従来の支援(12ステップ)との統合の困難さや,医療機関における犯罪経験のある依存症者の受け入れに対する抵抗感などが報告されている。そこで,本シンポジウムでは,民間施設における司法・犯罪分野の依存症に対する認知行動療法の実践に関する研究や取り組みなどを通して,手続きのみではなく枠組みとしての認知行動療法を確立させるための要件について検討する。

  • 牟田 季純, 越川 房子, 大住 倫弘, 村越 琢磨, 吉田 和子, 菅村 玄二, 伊藤 悦朗
    セッションID: SS-016
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    痛覚は生物個体が生命の危機を回避するために欠かせない感覚である。しかし,我々は日常の中で,怪我をしていることに気づいて初めて痛みを感じたり,あるいは何かに没頭していると痛みがほとんど気にならなくなるといったことを経験している。傷病を知らせる痛みシグナルは基本的には末梢神経系由来であり,痛みに気づいたりあるいは経験される痛みの強さを増減させる作用を中枢神経系(脳)が担っている。つまり,痛みが知覚されるメカニズムは,中枢末梢間のフィードバック・フィードフォワードの相互作用によって捉えることができる。そこで本シンポジウムでは,とくに痛み緩和という観点から,痛み知覚の中枢末梢連関を考えたい。それぞれの登壇者には,マインドフルネス認知療法と予測的符号化モデル,認知神経リハビリテーションとプロジェクション科学,コントロール可能性と能動的注意,オフセット鎮痛効果とニューロフィードバックについて話題提供をいただく。これらの臨床と基礎の各領域から提供される知見を参照しながら,痛み緩和のための非薬理的介入の発展に資する痛み知覚の中枢末梢連関のメカニズムを理解したい。

  • 小山 慎一, 緑川 晶, 月浦 崇, 梅田 聡, 弘光 健太郎
    セッションID: SS-017
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    脳機能画像研究の発展に伴い,神経心理学における症例研究の手法や脳科学における神経心理学の位置づけも変化を続けている。HMのような単一症例の研究から生まれた仮説が脳機能画像研究によって検証される一方で,lesion symptom mappingやconnectivityなどの新たな画像解析の手法を導入することによってより精度の高い神経心理学研究が行われるようになり,互いに進化を続けている。本シンポジウムでは,従来型の症例研究として,覚醒下手術の術中やその前後に体外離脱様の体験を訴えた症例(弘光)や,てんかんや認知症などで確認される非特異的な病態(緑川)を通じて,症例研究が持つ可能性について考察する。脳画像研究との融合に関しては,神経心理学における症例研究から示された仮説が脳機能画像研究によって検証された事例(月浦),新たな画像解析手法を駆使して行われた感情障害の症例研究の事例(梅田)を紹介する。最後に症例研究と脳機能画像研究が担った役割について考察するとともに,従来型の症例研究でわかることとその限界について考察する。

  • 松島 公望, 辻本 耐, 西脇 良, 川島 大輔, 白岩 祐子, 藤井 修平, Takahashi Masami
    セッションID: SS-018
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    掘り起こされていない研究分野を開拓するにはどのようにすればよいのか。「研究する」という行為が先行研究を始め既存の理論をもとに組み立てていく作業であることを考えると「掘り起こされていない(未開拓な)状態」で研究を行うということは様々な困難に遭遇することになる。それは何をどのように手をつけたらよいのかといった状態でもあり,卒業論文でそのようなテーマをやろうとした際には指導教員に「そのテーマはやめなさい」と言われて終わってしまうように思われる。同様に研究者の多くが未開拓なテーマに対して手を出すことに躊躇し,時に諦めてしまうこともあるのではないだろうか。そこで本シンポジウムでは「いかに掘り起こされていない研究分野を開拓することができるのか」について,私たちの挑戦の姿(現在進行中)を示したいと考えている。これまで行ってきた「研究会の設立・運営」「研究プロジェクトの立ち上げ・展開」「本の出版」「学術誌の創刊」「近接領域(宗教学)との連携」について話題提供,指定討論を行い,様々な角度から提案・検討したいと考えている。

  • 横光 健吾, 山本 晃輔, 田中 勝則, 曽我 千亜紀, 入江 智也, 新川 広樹
    セッションID: SS-019
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    我々の生活において,スマートフォンゲームで行われるゲームは息抜きやストレス発散だけではなく,コミュニケーションツールの一端を担ってもいる。それに熱中し,それを続けようとするメカニズムは心理学的な理解が可能であると言える。一方,過度のゲームは,オンラインやテレビゲームに没頭し,生活や健康に指標をきたすこともある。さらに,ゲーム内課金は,過度のゲームとも関連する重要な問題と認識されており,ゲーム内課金の中でも潜在的な問題をはらんでいるものが,ルートボックス(通称「ガチャ」)である。ルートボックスが問題視されている理由は,間違いなくそれが現実のお金を介して行われるものであり,過度のルートボックスは精神的な問題とも関連する。本シンポジウムでは,ゲームに関連する様々な側面に焦点をあて,その概要及び関連する研究報告をまとめ,今後の研究,及び臨床心理学的課題について,そして,ゲームとどのように付き合っていくことが重要かについて,研究者,臨床家の方々と議論したい。

  • 藤 桂, 阿部 晋吾, 大塚 泰正, 落合 由子, 丸山 淳市, 鈴木 文子, 一色 翼, 縄田 健悟
    セッションID: SS-020
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    昨今,職場における「心理的安全性」という概念が注目されるようになってきた。Google社の取り組みを発端として,チーム・企業・組織の創造性やパフォーマンスを高め,安定的にマネジメントしていく際に有効であるとして,数多くの分野からの関心が寄せられている。その広がりは,企業組織のみならず学校領域や看護領域などにも及び,国内で行われた心理学的な実証研究も徐々に増加しつつあるが,その応用可能性などについてはまだ検討の途上にあるといえる。本シンポジウムでは,この心理的安全性に関する研究を実施された先生方の研究成果について話題提供をいただきながら,研究と現場の両方の視点から,「いま,何が明らかとなっているか」についてご紹介いただく予定である。そして,各知見を総括し討論を交わしながら,「これから何を行うべきか」について,社会心理学および産業組織心理学の視点から議論を深め,今後の方向性を問い直す機会としたい。

  • 井手 正和, 松島 佳苗, 乾 敏郎
    セッションID: SS-021
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    自閉スペクトラム症(ASD)児・者の多くが感覚過敏や感覚鈍麻などの問題とともに,微細運動や粗大運動について現れる運動の問題によって,日常生活の様々な場面で困難を経験している。これらの問題の背景にあるメカニズムの解明を目指した実証的研究を推し進めることは,科学的に裏付けられた効果的な支援を考案するためにも不可欠である。本シンポジウムでは,ASD者の感覚運動に関連して取り組んできた実験および臨床実践を紹介する。これまでの研究は,ASD者の感覚と運動の問題には,脳における神経活動の抑制に関わるGABAによる調節機能の低下が共通して関係していることを示唆してきた。また,臨床場面では,個々の感覚・知覚の特性を考慮し段階的に運動学習を支援する取り組みがなされている。こうした感覚と運動という異なるASDの側面に跨って影響を及ぼす脳の統一的な処理様式を自由エネルギー原理に基づいて解説し,その理解を基礎とした研究の臨床的意義について議論する。

  • 藤後 悦子, 大橋 恵, 井梅 由美子, 内田 匡輔, 篠原 俊明, 及川 留美
    セッションID: SS-022
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    地域スポーツは,子どもたちの放課後の生活を担う大きな存在である。H24年度の文部科学省の調査では,通常の学級における発達障害の可能性がある児童は6.5%存在するという実態が明らかになった。地域スポーツにおいても発達障害の可能性がある児童が一定数在籍しているであろう。しかしながら,指導者やチームの保護者達は,合理的配慮について研修を受ける機会に乏しく,集団行動や成果を求められる地域スポーツでは厳しい指導を子どもに行うことも多々あり,合理的配慮が必要な子どもにとって適応が難しいこともある。そこで,本シンポジウムでは1)地域スポーツに関わる指導者や保護者を対象とした調査の報告,2)指導者に求められる資質と合理的配慮の理解を促す教材開発や実践活動の紹介,3)学生を対象とした教材の効果を紹介する中で,今後の地域スポーツの運営や指導者や保護者を含めた障害理解のあり方,および今後地域スポーツの指導者に期待される部活動指導員の在り方にまで触れながら,今後の子ども達のスポーツ環境について議論を行いたい。

feedback
Top