PAIN REHABILITATION
Online ISSN : 2759-3355
Print ISSN : 2186-2702
14 巻, 1 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
総説
  • 尾川 達也
    2024 年14 巻1 号 p. 1-6
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/09/09
    ジャーナル オープンアクセス
    Evidence-Based Medicine(以下,EBM)とは,最善のエビデンスを基に,臨床家の専門性・経験,患者の価値観,患者や臨床環境の多様性を統合し,より良い医療を目指すための方法と定義されている。この「患者の価値観」とは複数ある治療選択肢の中からどの治療を希望するかという意味が含まれ,患者の自律性を尊重するリハビリテーション医療においては特に重要な要素である。そして,タイトルにもある共有意思決定(Shared Decision Making;以下,SDM)とは,この「患者の価値観」を特定しながら意思決定を進めるコミュニケーション方法であり,EBM を適切に実践するためには欠かすことができないものとされている。しかし,ペインリハビリテーションの領域では,SDM による意思決定の難しさも明らかにされている。例えば,慢性疼痛治療ガイドラインの中では,徒手療法よりも運動療法や教育的介入の方が推奨されているが,臨床現場で患者に提供する際,これら治療を行う難しさを経験したことはないだろうか。つまり,エビデンスとして報告さている治療であったとしても,必ずしも患者が希望するとは限らないのである。特に,疼痛患者の場合,自身の経験や信念,期待などから医療者と異なる治療を希望することも少なくなく,患者が望む治療を受けられなかった場合,ネガティブな帰結と関連することも分かっている。疼痛という生物心理社会的な要素によって発現する不確実性の高い現象に対し,エビデンスだけで対峙していくことは現実的でなく,患者と医療者が互いの情報を共有しながら,治療方針の合意を目指していくことが重要になると考える。
  • 佐藤 剛介
    2024 年14 巻1 号 p. 7-15
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/09/09
    ジャーナル オープンアクセス
    脊髄障害を引き起こす代表的な疾患に脊髄損傷がある。脊髄損傷後には,運動麻痺や知覚麻痺,自律神経障害だけでなく,様々な随伴症状・合併症が出現する。その中の一つに脊髄損傷後疼痛があり,投薬によるコントロールが難しく,難治性であることが知られている。脊髄損傷後疼痛の有訴率は,約8割と高く,Quality of life や気分,生活機能の低下を引き起こすことが指摘されている。しかし,脊髄損傷後疼痛への対処法には明確なものが確立されていない現状があり,要因としては病態に合わせた介入手段が明らかになっていない点が挙げられる。実際,脊髄損傷後疼痛は知覚が麻痺している領域に疼痛が出現することが多く,その原因や病態を解釈することは難しい。また,運動障害により生活状況の変化も強いられるため,社会的要因の影響は無視できず病態はより複雑なものとなる。脊髄損傷後疼痛の評価としては,包括的かつメカニズムに基づいた国際的な分類法が作成されており,臨床的にも有用である。脊髄損傷後疼痛は,動作や随伴症状・合併症によって疼痛が修飾される可能性があり,これらと疼痛との関係性を十分に検討する必要がある。脊髄損傷後疼痛への介入については,カナダでCanPain SCI clinical practice guideline というガイドラインが作成されており,投薬を中心に経頭蓋直流電気刺激や経皮的電気刺激といった非薬理学的介入が取りあげられている。ガイドラインの中では,脊髄損傷後疼痛に対する介入手段の選択方法は提示されておらず,将来的には病態に応じた介入法を適合させていくことが求められる。
原著論文
  • 高石 翔, 森下 元賀
    2024 年14 巻1 号 p. 16-24
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/09/09
    ジャーナル オープンアクセス
    【緒言】変形性膝関節症(Knee Osteoarthritis:膝OA)の有病者数は2,500 万人であり,加齢に伴い有症率は上昇する。膝OA の痛みが長期化すると,求心性情報が入力される大脳皮質が再編成され,運動イメージ想起能力が低下することで,疼痛が増悪しうる。脳の再編成による疼痛に対しては,標準的なリハビリテーションによる効果が得られにくく,運動イメージに着目した治療が報告されている。一方で,効果的な運動イメージ治療の内容や適応基準,疼痛と関連する運動イメージの種類は不明である。本研究では,疼痛に関連する運動イメージの種類を調査した。 【方法】膝OA と診断されて高位脛骨骨切り術目的に入院した者のうち,研究目的・内容の理解困難,デー タ不備,研究参加に関して同意を得られなかった者を除外した27 名を対象とした。運動イメージ評価には,Timed Up and Go test(TUG)とTUG をイメージするのにかかる時間であるiTUG との所要時間差の絶対値であるiTUG-gap,2 回測定したiTUG-gap の変化量,Kinesthetic and Visual Imagery Questionnaire-10(KVIQ-10)を採用した。疼痛評価には疼痛強度(VAS)とShort-Form McGill Pain Questionnaire 2(SF-MPQ-2)を用いた。心理的因子として,破局的思考(PCS),運動恐怖(TSK),不安・抑うつ(HADS),自己効力感(PSEQ)を評価した。カルテから年齢,性別,関節軟骨損傷重症度,罹患期間を抽出し,Trail Making Test パートB を用いて認知機能を評価した。相関分析を用いて,運動イメージと他の項目との関連を調べた。 【結果】iTUG-gap およびiTUG-gap 変化量とVAS との間に有意な正の相関を認めた。KVIQ-10 とVASの間には相関がみられなかった。iTUG-gap と,SF-MPQ-2 のすべての痛み表現,持続的な痛み,感情的表現との間に,有意な正の相関があった。 【結論】疼痛強度とiTUG-gap 関連評価が関連し,持続的な痛みおよび感情的表現とiTUG-gap との間に正の相関を認めた。膝OA 患者の疼痛には,単関節の運動イメージよりも実動作のイメージが関連し,痛みの性質によって運動イメージとの関連度合が異なるとわかった。
症例報告
  • 高橋 啓, 野口 萌子, 久木﨑 航, 早﨑 涼太
    2024 年14 巻1 号 p. 25-32
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/09/09
    ジャーナル オープンアクセス
    今回,胸椎・腰椎固定術後に強い疼痛と破局的思考に伴い,日常生活動作(Activities of Daily Living:以下,ADL)に著明な制限を認め,役割であり,価値を置く作業である調理に対して消極的であった70 歳代女性を担当した。  今回,認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy:以下,CBT)や先行研究を参考に考案した活動シートを用いた作業療法(Occupational Therapy:以下,OT)実践を行った。生活行為の中のどの部分で痛みが出たのか動作レベルで事例と共有し,介入すべき問題点の抽出と目標設定を行うなど議論しながら協業を図った。疼痛が出現するタイミングや各動作について気づいたことを活動シートにコメントとして残し,OT の時間に議論を行い,疼痛の出ない方法や動作を確認し解決するという流れで疼痛対処技能やペーシングの学習を促した。  その結果,腰部痛は残存しながらも起居動作や移乗動作,トイレ動作は自立し日々セルフケアは向上した。その後の伝い歩きや段差昇降,お茶を入れることや洗濯物を干す・取り込むどの課題に対しても疼痛対処を行いながら取り組むことが可能となった。また,入院当初は消極的だった調理に対しても流し台に寄りかかりながら作業するなどの工夫を行い取り組むことができ,前向きな発言が聞かれるようになった。  CBT の要素を含む活動シートを用いたOT 実践により,疼痛の破局的思考やADL の改善,自己効力感の向上に繋がった。また,役割であった調理にも前向きに取り組めるまでに至った。本事例におけるCBT の要素を取り入れたOT 実践は,先行研究を支持し,且つ大切な作業の獲得へ向けた介入戦略の1 つとしてなり得ることが示唆された。
  • 足立 功浩, 酒井 直人, 金原 一宏, 永井 量平, 伊澤 伸太郎, 中嶋 研人, 今村 美聖, 有薗 佳代子, 高橋 大生, 有薗 信一
    2024 年14 巻1 号 p. 33-40
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/09/09
    ジャーナル オープンアクセス
    【緒言】本邦における小児及び思春期の一次性頭痛は,有病率や学校欠席率が高く,学業成績低下を来し問題である。本症例は,慢性緊張型頭痛に対し薬物療法単独では不十分で理学療法を併用し,頭痛改善に至ったが,心理的な要因で再度頭痛が増悪して登校困難となった。本症例を経験して小児頭痛患者治療における多面的評価の重要性を認識したので報告する。 【症例】13 歳の中学生男子。頭頂・後頭部の頭痛を訴え来院し,頭頚部周囲の圧痛を伴う慢性緊張型頭痛と診断された。薬物療法単独では治療が困難で理学療法が併用された。理学療法初回時の痛み強度はNRS6 ~ 7,頭痛頻度は15 日/月以上,頚椎X 線画像は頸椎側屈と生理的前弯消失,座位姿勢はフォワードヘッドポスチャーであり,後頚部筋群のトリガーポイントによる関連痛を認めた。 【介入および経過】理学療法介入当初の頭痛は,フォワードヘッドポスチャーが長期に継続されたことで後頚部筋群のトリガーポイントが形成され関連痛を認めた。トリガーポイント改善を目的とした徒手療法を中心とした理学療法介入後に頭痛は一旦改善したが,再度増悪を認めた。多面的評価を施行した結果,PCS 反芻17 点,拡大視11 点,HADS 不安17 点,HIT-6 は69 点,EQ-5D-5L は0.67 であった。登校困難に心理面が関与していると診断され,児童精神科へ紹介となった。現在,頭痛は内服でコントロールされ,学校へも出席可能となっている。 【結語】小児・思春期の慢性頭痛に対しては治療開始前から多面的評価を行い,患者の病状に合わせて治療を施し,適宣,児童精神科と連携することが重要であった。
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