別冊パテント
Online ISSN : 2436-5858
76 巻, 29 号
選択された号の論文の12件中1~12を表示しています
  • ドイツの長くつ下のピッピ事件を契機として
    茶園 成樹
    2023 年76 巻29 号 p. 1-14
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/17
    ジャーナル フリー

     キャラクターの保護には様々な法律が関わるが、不正競争防止法に関しては、裁判例では、キャラクターの商品化事業が行われている場合に、キャラクターの図柄や名称が商品等表示に当たるとして、2条1項1号・2号による保護が認められている。本稿は、ドイツにおける最近の長くつ下のピッピ事件を契機として、不正競争防止法による新たな保護の可能性を検討するものである。

     成果保護の観点から、同項3号による保護について検討するに、同号はキャラクターの保護方法として適しておらず、また、その構造に照らせば、法改正により、同号を基礎としてキャラクターの保護に適合した規定を新設しようとすることも成功しそうにない。次に、名声の利用・毀損の観点から、2号による保護について検討するに、同号を基礎として、商品等表示としての使用の要件を削除し、そのような使用ではなくても不正競争が成立するように改め、その一方で、名声の不当な利用・毀損を要件として明定するとともに、規制を及ぼすべきでない場合について検討し、そのような場合を適用除外規定の対象に含めるようにすべきであろう。

  • ―「知的財産法と不法行為法」をめぐる議論の到達点―
    上野 達弘
    2023 年76 巻29 号 p. 15-42
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/17
    ジャーナル フリー

     著作権法、特許法、実用新案法、意匠法、商標法等の権利付与型の知的財産法による保護を受けない場合であっても、不正競争防止法による保護を受けられる場合があるが、さらに、不正競争防止法による保護を受けない場合に、なお民法上の不法行為が成立する場合があり得るか。平成20年頃までは、知的財産法による保護を受けない場合に不法行為の成立を認める裁判例が多数見られたが、著作権法に関する北朝鮮事件の最高裁判決(最一小判平成23年12月8日)が結論として不法行為を否定して以降の下級審裁判例においては、著作権法のみならず、知的財産法一般について広く同判決を「参照」した上で、「○○法が規律の対象とする利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り、不法行為を構成するものではない」というフレーズを転用的に反復するものが多く、結論として不法行為の成立を肯定したものは見当たらない。しかし、同判決からそのような一般論を導くことはできるのであろうか。本稿は、この問題に関する議論の到達点と残された課題を明らかにする。

  • 横山 久芳
    2023 年76 巻29 号 p. 43-55
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/17
    ジャーナル フリー

     不正競争防止法2条1項1号は、周知表示の冒用行為により「混同」が生じたことを不正競争の成立要件と規定し、1号の不正競争により他の事業者の「営業上の利益」が侵害されることを差止請求及び損害賠償請求の成立要件と規定している。1号の不正競争は「混同」が認定される限り成立するが、「混同」により他の事業者の「営業上の利益」が侵害されなければ、周知表示の冒用行為は同法の規制対象とはならない。ゆえに、1号は、「混同」の防止により事業者の「営業上の利益」の保護を図り、それによって事業者間の公正な競争秩序を維持することを目的とするものと捉えられる。このように、「混同」と「営業上の利益」は密接に関係する要件であり、両要件を通じて1号の最終的な規制範囲が画されることになる。本稿は、両要件の意義と関係性に留意しつつ、両要件に関わる諸問題について具体的な検討を行うものである。

  • ―セカンダリー・ミーニング、混同のおそれ、普通名称化―
    井上 由里子
    2023 年76 巻29 号 p. 57-78
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/17
    ジャーナル フリー

     不正競争防止法のうち標識の保護に係る諸規定の要件該当性判断において、需要者の認識が考慮される場合がある。需要者の認識を直接的に測定する需要者アンケートは裁判官の心証形成を助ける有力な手段となりうる。

     需要者アンケートが妥当なものと認められるために特に重要なのは、各要件の判断に資する需要者の認識とはどのようなものかを明確化し、それを踏まえて質問票を設計することである。その点についての十分な分析のないままに作成された質問票を用いた調査の証拠価値は乏しいものにならざるをえない。

     本稿では、不正競争防止法2条1項1号の①「周知性」、「特別顕著性(セカンダリー・ミーニング)」、②「混同のおそれ」、③「普通名称化」の3つの論点について、実務的・学術的知見の蓄積のある米国を参照し、また調査技法の検証のために筆者らが実施した実証研究の結果にも触れつつ、質問票の設計を中心に需要者アンケートの方法論を検討する。

  • 宮脇 正晴
    2023 年76 巻29 号 p. 79-87
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/17
    ジャーナル フリー

     本稿は、商品形態が機能的であるが故に不正競争防止法上の商品等表示性が否定される具体的なケースについて検討する。米国判例においては、「競争上の必要性」(代替の形態が限定されていること)が機能性の一般的な基準であることを否定したTrafFix最高裁判決以降も代替の形態については機能性を判断する事情として有力視されている一方で、代替の形態の選択肢について検討することなく機能性を肯定する判決も存在する。

     我が国の不競法上の商品等表示性の解釈論においても、代替の形態の選択肢については、「競争上似ざるを得ない」形態か否かを判断するための有力な事情といえるが、米国判例に見るように、出所識別以外の識別手段として形態(色)が機能しうる特殊なケースにおいては、代替の選択肢を考慮せずに商品等表示性を否定することに合理性はある。

  • ―「無体物保護の可能性」と「保護期間」―
    安立 卓司
    2023 年76 巻29 号 p. 89-105
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/17
    ジャーナル フリー

     本稿では、不正競争防止法第2条第1項第3号(形態模倣商品の譲渡等行為)に関し、2つのテーマを扱う。第一に、無体物の商品価値が加速度的に高まっている現在の社会状況に鑑み、画像デザインやタイプフェイスなどの無体物が3号で保護されるか否かについて検討する(テーマ1:無体物保護の可能性)。3号の趣旨、3号の「商品」要件、「商品の形態」要件の各観点から検討した結果、本稿は3号で無体物の保護が可能であるとの立場に立つものであるが、さらに、画像デザインやタイプフェイスを3号で保護する場合の実効性や、他の法律・規定での保護の現状についても述べる。第二に、3号による保護期間の終期及び始期について判示した注目すべき裁判例であるスティック状加湿器事件控訴審判決を踏まえ、3号の保護期間の終期及び始期について考察する(テーマ2:保護期間)。なお、令和4年12月に産業構造審議会から出された「デジタル化に伴うビジネスの多様化を踏まえた不正競争防止法の在り方(案)」についても、適宜言及する。

  • ―民事上の救済と刑事罰―
    外川 英明
    2023 年76 巻29 号 p. 107-130
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/17
    ジャーナル フリー

     知的財産基本法は「我が国産業の国際競争力の強化を図ることの必要性」(1条)を強調して平成15年に施行され、我が国の知的財産立国政策が実行されてきた。しかし近年、我が国の産業競争力は依然として弱体化傾向をたどっており、世界経済の中での日本のプレゼンスは低下している。そして、この競争力弱体化の一因は、技術の海外流出といっても過言ではない。

     ノウハウ・営業秘密をめぐる事件で裁判所は、「グローバル化する社会において企業の競争力を維持・強化するための技術的優位の重要性」「アジア諸国の技術的台頭」を叫び、「一般予防の見地から厳しい態度で臨む必要がある」と述べ、事の重大性を訴えている。

     平成の時代に入ってから、我が国のノウハウ・営業秘密をめぐる裁判例は数多あるが、近年の裁判例のキーワードを列挙すると、「海外流出」「我が国産業の国際競争力の低下」「企業競争の激化」「国際的提携関係」「転職」「刑事事件」…。

     本稿では、いくつかの裁判例(和解を含む)の検討を通して、裁判所がどのような点に注目して民事上の救済や刑事罰を科しているのかを精査し、実務上の留意点を示すこととする。

  • ―我が国のデータ戦略の経緯と課題―
    林 いづみ
    2023 年76 巻29 号 p. 131-149
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/17
    ジャーナル フリー

     我が国は、データ利活用の促進に向けた環境整備の一環として、限定提供データ制度を創設した。本稿では同制度創設の背景、運用指針の改訂及び制度施行後3年の見直し議論について概観する。また、データ共有が直面する主な障壁と、これらに対処しようとする欧州データ戦略に基づき2022年に発表されたデータ法案及びEHDS法案を紹介し、日本のデータ戦略への示唆について検討する。

  • ―景品表示法、独占禁止法における類似規定との対比も含めて―
    足立 勝
    2023 年76 巻29 号 p. 151-168
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/17
    ジャーナル フリー

     誤認惹起行為を規制する条文は、不正競争防止法2条1項20号だけでなく、景品表示法や独占禁止法にも類似条文が存在する。

     そこで、本稿は、商品や役務の「品質(質)」や「内容」に関する誤認惹起表示行為に対する規制に注目し、それぞれの法の適用範囲や適用状況を検討するものである。特に、不正競争防止法2条1項20号の規制範囲について、過去の裁判例や最近の八ッ橋事件控訴審判決(大阪高裁令和3年3月11日判決)などを分析する。あわせて、同号の請求権者についても、欧州の定めを参考に検討する。これらにより、同号の適用における課題を明確にしようとするものである。

  • 近時の動向及び非登録型知財関係事案を中心に
    金子 敏哉
    2023 年76 巻29 号 p. 169-191
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/17
    ジャーナル フリー

     本稿は、侵害警告についての不競法2条1項21号の虚偽事実告知に該当することを理由とする差止請求・損害賠償請求の可否が問題となった事例について、旧稿で検討対象とした時期以降の近時の裁判例(平成18年8月21日以降)の動向と、当該時期の非登録型知財法制に関する判断事例を中心に検討、概観を行うものである。

     近時の動向については、①21号該当性の判断、②正当な権利行使を理由とする違法性阻却論の主張事例の検討(特に裁判例の現状として過失判断への回帰の傾向が指摘できること)、③過失否定事例では告知時点での非侵害・無効理由等の認識可能性が重要な考慮要素となっているが告知態様などを総合考慮するものも現れていること、④Amazon等のプラットフォーマーへの侵害通知に関する事案の出現が指摘できる。

     非登録型知財法制に係る事案については、著作権について権利の帰属・許諾の範囲に係る事案が多いこと、及び、不競法について商品の形態・包装等の商品等表示該当性(2条1項1号)や形態模倣(3号)に係る事案が多いことが特徴となっている。

  • 中山 真理子
    2023 年76 巻29 号 p. 193-212
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/17
    ジャーナル フリー

     店舗の外観・内装・陳列方法の保護の可否と状況について、不正競争防止法に関する判例と意匠及び商標の出願・登録例を見ながら考察を行った。商品・サービスそのもの以外の周辺の要素も生かしてブランディングを発揮し差別化を図ることが競争力を高めるにあたり重要となってきている昨今の状況において、非登録型制度と登録型制度をうまく活用し、今後より柔軟で効果的な保護が図られ、強みを発揮できる環境となっていくことが期待される。

  • 佐藤 俊司
    2023 年76 巻29 号 p. 213-225
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/17
    ジャーナル フリー

     不競法2条1項1号と商標法4条1項15号においては、前者は類似と混同をその要件とする一方、後者はマルチファクター・テストの一要素として類似性の程度を考慮するが、その類否判断はいずれも動的な類否判断がなされる。特に、不競法2条1項1号においてはあくまでも類似が適用の前提となる以上、そこにおける類否判断は、混同が生ずるか否かに重点をおいた、柔軟で動的な類否判断(confusingly similar)が行われることになり、その意味で同じ類否判断であっても、商標法4条1項11号に見られる静的な類否判断とは必ずしも一致することにはならない。

     商標法4条1項11号と15号の判断においては、15号の括弧書きの趣旨を踏まえ、11号に該当する商品・役務と、それ以外の15号に該当する商品・役務とを精緻に分けて判断することによって、一般化できる静的な類否判断と、一般化にはなじまない、混同の一要素としての類似の程度の高低を考慮した動的な混同の判断との区別も可能となり、商標権侵害の場面や不競法適用可能性の場面においても、矛盾した判断もなくなるものと思われる。

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