別冊パテント
Online ISSN : 2436-5858
76 巻, 28 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
  • ―序論―
    小田切 宏之
    2023 年76 巻28 号 p. 1-7
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/18
    ジャーナル フリー

     中央知的財産研究所は、それまでの法学・実務分野での研究部会に加え、2018年度より「知的財産と経済=知的財産競争とイノベーション=」研究部会を発足させ、経済学者・法学者・実務家(弁護士、弁理士)をメンバーとして、最初の成果を2020年に『別冊パテント』第24号に公表した。

     それに引き続き、第2期の成果として公表させていただくのが本号である。タイトルにあるように、今期はインフラ産業を対象とした。そこで、この序論ではインフラ産業とは何か、どのような特性を持つ産業か、そして知財政策、知財戦略としてどのような問題が重要になるか、などを概説した後、各論文を概観する。

  • ―インフラ産業における競争の進展と知財の位置づけの変容―
    松田 世理奈
    2023 年76 巻28 号 p. 9-19
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/18
    ジャーナル フリー

     電力産業においては、地域ごとの法定独占事業であった時代から、規制緩和の流れを受けて、徐々に競争原理が取り入れられてきた。供給する財(電気)が同質的であり最終製品・サービスにおいて知財による差別化が図れないことや、公益事業として技術独占という発想に馴染みにくかったこと等から、従来は、知財による競争力の強化というインセンティブが十分に働いてこなかった。その後、自由化による競争の進展及び東日本大震災による財務状況の悪化から、大手電力会社における研究開発投資の金額は全体的に減少し、次第に知財に対する捉え方が分かれてきた。主として安定供給の観点から品質の維持・向上やコスト改善の目的に向けられていた知財活動は、競争優位性の確保や新規ビジネス創出の目的などにも向けられるようになってきた。競争の激化により知財活動のコストを削る事業者がいる一方で、知財の積極的な活用に市場競争の活路を見出す事業者もいる。電力産業における競争原理の導入は、それを一つの契機として、研究開発や知財を事業戦略上どのように位置づけるかという点において、各事業者に各様の検討を迫ったといえる。

  • PATSTATによる国別比較
    中村 健太
    2023 年76 巻28 号 p. 21-34
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/18
    ジャーナル フリー

     本稿では、欧州特許庁の統計解析用データセットであるPATSTATを用いて、鉄道関連産業(メーカー)の特許出願動向に関する国レベルの包括的な分析を行った。結果は以下のとおりである。鉄道関連技術の特許化は、2000年代の初めまでのおよそ100年の間、増加傾向かつ安定的に推移していた。ただし、2000年代半ばから、中国が爆発的な勢いで出願を増加させている。中国発特許の急増に伴い、現地企業等による模倣や権利化を抑制するために、日米欧の企業が防衛的に中国への特許出願を増やしていることが示唆された。また、中国国内の急速な出願増加に反して、中国発のパテントファミリーについては、自国外への出願が非常に限られていることも明らかになった。このことは、少なくとも中国特許の質が高いことを示すものではない。ただし、すべての発明が特許化されているわけではなく、革新的な技術が戦略的に秘匿されている可能性も否定できない。加えて、世界最大の鉄道車両メーカーである中国中車が国外市場で一定のシェアを獲得していることは事実である。設備・車両の高度化や安全性の要請によって、当該産業における技術開発の重要性が高まっていることに疑念の余地はない。

  • 蟹田 昌之
    2023 年76 巻28 号 p. 35-58
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/18
    ジャーナル フリー

     近年は、ネットショッピングの普及により、宅配便を利用する機会が増加している。宅配事業は、伝統的にはインフラ産業とはみなされていなかったと思うが、現代社会においては、インフラ産業化しているという見解もある。その一方、近年は、ドローン、AI、及びロボットなどの最先端の技術が、宅配業界においても利用及び開発されているというニュースがよく目につく。これらの新技術は、今後、続々と実用化されることが見込まれ、これらに関する特許権や実用新案権は、今後、無視できない存在になり得る。そうすると、宅配業界における知財活動は今まで以上に活発化すると考えられ、宅配業界における競争と知的財産権は、今後、非常に興味深いテーマとなる。では、現状、宅配業界における知財活動、特に技術開発の成果を確保するための特許出願や実用新案登録出願の動向はどのようになっているのだろうか、これが本稿の調査・分析を行うに至った筆者の動機である。

  • ~公共の利益、事実上の標準と特許法及び独禁法の関係~
    森 康晃
    2023 年76 巻28 号 p. 59-78
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/18
    ジャーナル フリー

     本稿では、インフラ産業における知的財産権について公共性の観点からその限界性を考察し、インフラ産業のライフライン性の定義に着目した。鉄道や港湾といったインフラ基盤から出発した「不可欠施設」の概念は、その源流であった米国では適用されなくなる一方、欧州や中国では明確に法制化され、最近の中国の判決においては標準必須特許のみならず非標準必須特許についても不可欠施設論を適用される事例が出てきている。中国において日本企業の特許ライセンスについて、不可欠施設論を適用されて敗訴した最近の事件などの分析を行ったところ、標準必須特許でなくとも製造工程における必需特許については、一定の条件でライセンス拒絶は違法であるとの判決が出されている。しかしながら、中国における必需特許についての要件はいまだ明確に定義されていないなど課題が残されている。

     また、近年バイオやIT産業の急速な発展に伴って、遺伝子工学や電気通信分野も公共性、ライフラインとしての重要性が高まっており、技術標準を構成する技術やリサーチ・ツールのような技術もインフラ産業としての要素が高まり、特許法における裁定実施権や独禁法における優越的地位の濫用などの観点から今後の動向が注目される。

  • 武田 邦宣
    2023 年76 巻28 号 p. 79-92
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/18
    ジャーナル フリー

     5Gネットワークの展開、IoTの進展によって、SEPライセンスのあり方を巡り新たな問題が生じている。とりわけ問題となっているのは、部品から最終製品に至るサプライチェーンにおいて、誰がライセンス契約の締結主体になり得るのかというものである。これはバリューチェーンライセンスのあり方に関する問題と呼ばれ、FRAND宣言によってSEP権利者は望む者全てに対してライセンス義務が生じるとする立場(LTAの立場)と、FRAND宣言によってもSEP権利者はライセンス先について裁量を失うことがないとする立場(ATAの立場)が鋭く対立している。

     本稿は同問題に関するEU競争法の議論を整理検討する。先例となるHuawei v. ZTE事件判決では、FRAND宣言によって、第三者にライセンスを受け得る「正当な期待」が生じるとされた。LTAの立場の論者は、同「正当な期待」を自らの主張の根拠とする。

     本稿は同「正当な期待」を巡る学説状況を整理するとともに、対立する議論を中立化するためのあり方についての議論状況も検討する。

  • 〜標準必須特許の権利者と実施者の関係性を例にとって〜
    池田 毅
    2023 年76 巻28 号 p. 93-106
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/18
    ジャーナル フリー

     わが国の独占禁止法は従来同じ取引段階の事業者間の水平的な競争にのみ注目してきたが、ビジネスの多様化を踏まえれば、サプライチェーン内で取引を行う異なる取引段階に属する事業者間においてマージン・付加価値を奪い合う垂直的な競争にも着目する必要がある。優越的地位の濫用の規制根拠についても、垂直的な競争を人為的な手段で歪めることを規制するものと捉える垂直的競争阻害説が、対消費者の優越的地位の濫用の説明に課題を有する間接的競争阻害説や、過剰な介入による弱者保護との批判を受けうる搾取説よりも合理的であり、近時の公取委の優越的地位の濫用の適用範囲の拡大もよりよく説明できる。仮に、標準必須特許の権利者がパテントプールの形成や内部的な合意の形成において、実施者との間の垂直的な競争を人為的に歪めていると評価される場合には、優越的地位の濫用を根拠として規制できる可能性がある。

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