「付着歯肉の獲得を目的とした低侵襲歯肉結合組織移植術」を考案し, その臨床応用を試みた。新たに開発した手術器材は3種類で (1) 14ゲージ吸上針の先端をシャープニングした歯肉採取器, (2) 小型ディスポーザブルメスに, 把持用のプラスチック板を取り付けた移植片切断用メス, (3) 18ゲージの注射針を改造した移植. 床形成剥離子である。
術式は, (1) まず供給側の口蓋部に歯肉採取器を回転しながら10mm程度押し進め, (2) 次に移植片切断用メスを口蓋歯肉に刺入して歯肉採取器の中に入った結合組織を周囲の組織から離断する。 (3) さらに受容側の歯肉歯槽粘膜境にメスで小切開を加えた後, そこから移植床形成剥離子を骨膜上に挿入して, 歯肉歯槽粘膜境に並行にトンネル状の移植床を形成し, (4) 採取した移植片を小型ピンセットを用いて挿入し, 小切開部を縫合する。本術式を臨床応用した症例では,
(1) 術中と術後の出血や, 患者の疼痛はわずかで, 創傷の治癒も早く, 外科的な侵襲はきわめて少なかった。
(2) 手術は短時間で終わり, 手技も簡単であった。
(3) 新術式は付着歯肉と角化歯肉を獲得できた。 付着歯肉は術後2週で観察されたが, 上皮の角化は初期には起こらず術後6週頃から観察され始め, 1年後には角化が明確になったことから, 上皮の角化充進には時間が必要であった。
以上より, 従来の上皮下結合組織移植術等の歯肉歯槽粘膜手術に比較して, 新術式は低侵襲で付着歯肉と角化歯肉をともに作製できる有効な手術方法であることが示唆された。
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