日本歯周病学会会誌
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43 巻, 4 号
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  • 川瀬 俊夫
    2001 年 43 巻 4 号 p. 347-352
    発行日: 2001/12/28
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    歯周病治療の多くは, 歯周組織再生を目指し, 再生医工学を応用している。GTR膜を用いた歯周組織再生法は早い時期から臨床の現場で行われている。生体材料学的見地からGTR膜を評価し, 非吸収性の膜から吸収性の膜への開発がなされてきた。その中でも, 異種動物由来の成分を材料にしているものから, 人工合成による材料に移行している, あるいはその気配が感じられる。一一例をあげればポリーL一乳酸に期待がもたれている。これと平行して, GTRの一つであるエナメル基質タンパク質 (エムドゲイン ® に) よる再生療法が開発され, 臨床的には良好な成績を収めている。術式は異なるものの, 歯根膜の組織性幹細胞の動態が鍵を握っている点では共通している。すなわち, この組織性幹細胞がどのように歯周組織の線維芽細胞, 骨芽細胞そしてセメント芽細胞に分化するのかを, ニッチェの概念を導入し, その実態に迫る必要がある。エナメル基質タンパク質が作用するには, 第一に, 歯根膜の細胞の存在が必須である。それは歯根膜の細胞自ら, 多くの組織再生因子を産生しているので, エナメル基質タンパク質はこれらの因子を介して骨髄由来の間葉系幹細胞に働き, 歯根膜の組織性幹細胞を骨系の細胞に分化誘導するものと思われる。
  • 鈴木 麻美, 和田 真太郎, 柳川 義勢, 甲斐 明美, 伊藤 武, 鴨井 久一
    2001 年 43 巻 4 号 p. 353-360
    発行日: 2001/12/28
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    Helicobacter pyloriと胃粘膜疾患との関連について, 研究が進むにつれ, 経口感染が有力視されるようになってきた。それに伴い, H. pyloriの口腔内での存在の有無や歯周疾患との関連についての問題が提起されている。そこで, H. pylori菌液の経口投与により, H. pylori胃内定着スナネズミを用い, 口腔内でのH. pyloriの存在について, PCR法によって検索を行った。
    PCR法の結果, H. pyloriの胃内定着直後では, 口腔内からH. pyloriは確認されなかったが, 胃内定着60日目以降では舌から, 120日目では下顎から確認された。上顎からは, 120日目までのすべてにおいてH. pyloriは確認されなかった。さらに, 大柴胡湯の経口投与により, 胃内定着菌数を減少させたスナネズミにおいて, 舌からはH. pyloriの存在が確認されなかったが, 下顎からは確認された。
    以上より, H. pyloriは口腔内に定着することは難しく, H. pyloriを含んだ胃内容物の逆流等により, 口腔内で確認されたと推測される。特に下顎については, 胃内定着菌数減少後もH. pyloriが確認されたことから, 逆流物の停留や菌の定着の可能性も示唆される。
  • 村木 緑, 伊藤 正満, 近藤 富貴子, 向井 順子, 松岡 成範, 大口 祐子, 吉成 伸夫, 稲垣 幸司, 加藤 一夫, 中垣 晴男, ...
    2001 年 43 巻 4 号 p. 361-373
    発行日: 2001/12/28
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    グレーシータイプのスケーラーの効果を検索する第一歩として, 使用する器具の種類, および経験年数により, スケーリング・ルートプレーニング (SRP) の効果に差があるか否かを, 模型上にて比較検討した。
    人工着色剤を歯根面に塗布した学生実習模型をマネキンに装着し, SRPを施行した。器具にはHu-Friedy社製グレーシーキュレットのオリジナル®, アフターファイブ®, ミニファイブ®を使用した。人工着色剤除去部分に対して画像解析を行い, 到達度, 除去率を算出し, 器具別, 術者の経験年数別に比較した。なお, 臨床経験年数が2年未満の術者8名を初心者群, 臨床経験年数が6年以上の術者4名を経験者群とした。
    器具の違いによる比較では, 下顎前歯部の初心者群で, 到達度, 除去率に統計学的に有意差が認められ, ミニファイブ ®, アフターファイブ®, オリジナル®の順で到達度, 除去率が高かった。臼歯部においては, 上顎第一小臼歯の近遠心側面の除去率は, 上顎第二小臼歯よりも低かった。また, 下顎第二大臼歯遠心部では経験者群で, オリジナル®, アフターファイブ®に対してミニファイブ®の到達度が高かった。経験年数の違いによる比較では, 下顎前歯部においてオリジナル®使用時に, 経験者群が, 到達度, 除去率が高かった。また, 下顎臼歯部のアフターファイブ®, ミニファイブ®使用時に, 経験者群が, 除去率が高い歯面が認められた。
    以上より, グレーシータイプの中でもアフターファイブ®, ミニファイブ®はオリジナル®タイプに比較して歯肉縁下でのSRPに有用であり, また, その効果と有用性は臨床経験によって差があることが示唆された。
  • 難波 崇
    2001 年 43 巻 4 号 p. 374-387
    発行日: 2001/12/28
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    本研究は, e-PTFE膜を用いて再生される組織の誘導, 増殖期間が, 歯周組織の再生能に及ぼす影響を検索した。12頭の雑種成犬の24歯を用いた。下顎第二前臼歯遠心根 (P2D) を除く前臼歯を抜歯した。3カ月後に, P2D周囲の歯槽骨を除去した。実験群は骨欠損をe-PTFE膜で被覆した。対照群はe-PTFE膜を応用しなかった。実験群は, e-PTFE膜を設置した期間によって3群に分け, A群は2週間, B群は4週間, C群は8週間とした。対照群は4週間とした。各期間終了後, 再生された組織と歯根を一塊として摘出し, 下顎の別の部位に, 形成した歯槽骨体部の骨欠損に移植した。両群とも移植期間は4週間とした。骨再生, セメント質再生とアンキローシスの発現, 細胞の増殖状態をproliferationg cell nuclear antigen (PCNA) を用いて免疫組織化学的に検索した。その結果, 対照群の, 移植歯根面には, 新生セメント質の再生は認められなかった。B群の移植歯根面には歯根膜組織と歯槽骨の再生とセメント質の再生が認められた。C群では再生骨と歯根面問に多くのアンキローシスが認められた。A群とC群では, 再生骨と歯根面問の新生組織にはPCNA陽性反応は認められなかったが, B群では再生骨と歯根面問の歯根膜組織に多くのPCNA陽性細胞を認めた。
    以上の結果より, 膜応用期間4週の新生組織は, 再生セメント質の形成能が高く, アンキローシスを誘発しにくい組織であることが示唆された。
  • 木戸 淳一, 片岡 正俊, 大石 慶二, 淺原 洋士, 永田 俊彦
    2001 年 43 巻 4 号 p. 388-395
    発行日: 2001/12/28
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    高血圧症および狭心症治療薬ニフェジピンを服用している患者の一部に歯肉増殖症が発現することが知られている。ニノェジピンはカルシワム拮抗作用を有し, 他のカルシワム拮抗剤 (ベラパミル, ジルチアゼムなど) でも同様の副作用が発現すると言われている。本症例報告ではカルシウム拮抗剤・塩酸マニジピンを服用している69歳男性にみられた歯肉増殖症の症例について紹介する。増殖歯肉は全顎的に認められ, 下顎前歯部と下顎右側臼歯部で著明であった。この症例は成人性歯周炎を伴った歯肉増殖症であることから, 徹底的な歯周基本治療を行い, 同時に服用薬剤をアンギオテンシン変換酵素阻害剤に変更した。さらに歯周外科治療の結果, 増殖歯肉は除去されプロービング値もすべて3mm以内に改善した。現在, 再発も認められずメインテナンスを行っている。本症例を通じて, 成人性歯周炎を伴う歯肉増殖症における歯周基本治療の重要性と歯周外科治療の必要性を確認するとともに, 今後ニフェジピン以外のカルシウム拮抗剤で歯肉増殖症を起こす患者が増加する可能性が示唆された。
  • 川井 英敬
    2001 年 43 巻 4 号 p. 396-408
    発行日: 2001/12/28
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は, 歯周組織の創傷治癒過程における上皮細胞の再生に対するエナメルマトリックスタンパク質 (以下EMPと略す) の影響を検索することにある。上皮細胞の増殖能を検索するためにPCNA免疫組織化学的染色を, また, 創傷治癒過程における基底膜の分布を検索する目的でラミニン免疫組織化学的染色を施した。本実」験には, ウィスター系ラットを40匹使用した。第一臼歯の口蓋側歯槽骨を除去後, 露出根面を注意深くルートプレーニングし, セメント質を除去した。露出させた歯根面をpH1のクエン酸溶液に浸潤させた綿球で15秒間エッチング処理し, その後生理食塩液にて洗浄した。次に実験群である左側第一臼歯にEMPを塗布し, 対照群である右側第一臼歯はエッチングのみとした。その後, 弁を復位した。術後, 1週, 2週, 3週, 4週, 8週目に屠殺し, 顎骨から組織標本を採取した。連続切片を作製し, ヘマトキシリン・エオジン染色およびPCNAとラミニンの免疫組織化学的染色を施した。実験群の再生付着上皮率は対照群と比較して術後1週から8週で統計学的に有意に少なかった (p<0.05)。再生付着上皮におけるPCNA陽性細胞率では, 対照群では術後1週から4週において実」験群と比較して高く, 上に術後3週と4週で有意に高かった。ラミニンの局在は, 実験群では術後1週から4週にかけて付着上皮の基底膜相当部に認められず, 対照群では早期から付着上皮の基底膜相当部に認められた。本研究の結果からEMPは, 上皮細胞の増殖抑制因子として作用し, 上皮の根端側方向への増殖を抑制することが示唆された。
  • -上顎口蓋側歯周ポケットに対する検討-
    菅原 香, 富井 信之, 金谷 一彦, 斉藤 幸枝, 今井 純人, 浜 巧一, 澤口 政治, 西山 俊夫, 長谷川 明
    2001 年 43 巻 4 号 p. 409-415
    発行日: 2001/12/28
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    高出力半導体レーザーによる上顎口蓋側歯周ポケット減少手術の有用性について検討した。成人型歯周炎と診断され, 初期治療終了後上顎口蓋側に深い歯周ポケットが残存した患者16名を被験者 (被験部位20部位, 34歯) とし, オサダライトサージ3000 ® を用い歯周ポケット減少手術を行った。術中の局所麻酔量は, 2% Xylocaine ® 0.36±0.19ml/歯, レーザー照射時間は, 170.5±90.4秒/歯, 手術時間は, 12.3±6.6分/歯であった。術後疼痛の無い部位は13部位, 軽度は5部位であり, 高度は1部位であった。術後診査は, 歯周ポケットの深さ, 歯根露出量, Plaque Indexについて, 術後1, 3, 6, 12ヵ月に行った。術後の歯周ポケットの深さの推移は, 術前の平均4.9±1.6mmに対し, 術後1ヵ月が最少で1.8±0.9mm, 1年経過時でも2.3±1.2mmと良好なレベルに推移していた。術後の歯周ポケットの深さとPlaque Indexとの関係では, プラークコントロール良好群 (プラーク無群) と不良群 (プラーク有群) との問に差はなかった。部位別にみた歯周ポケットの経時的変化については, 口蓋側中央部の歯周ポケットは, 1年後まで同じレベルを維持していたが, 歯間部では, 漸次深化傾向があった。以上の結果より, 高出力半導体レーザーによる歯周ポケット減少手術は, 上顎口蓋側歯周ポケットを減少させるのに有効であると考察された。
  • 大島 光宏, 藤川 謙次, 熊谷 京一, 出澤 政隆, 江澤 眞恵, 伊藤 公一, 大塚 吉兵衛
    2001 年 43 巻 4 号 p. 416-423
    発行日: 2001/12/28
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    唾液中の潜血反応を調べるために, 洗口吐出液と改良を施した免疫学的ヘモグロビン検出試験紙 (改良抗体法試験紙) を組み合わせた改良抗体法と, ペルオキシダーゼ試験紙 (酵素法試験紙) を用いた酵素法とで歯周疾患のスクリーニングテストとしての有用性の比較を行った。被検者は全身疾患を有していない成人男性76名, 女性27名, 合計103名で, その年齢は35歳から55歳で, 平均43. 2歳であった。被検者に蒸留水を10秒間含漱させて得た洗口吐出液に改良抗体法試験紙を適用し, 反応終了後に判定を行った。また, 吐唾法により得た安静時無刺激全唾液に酵素法試験紙を適用させ, 30秒後に判定を行い, 両者の結果を比較した。その後, 口腔内診査を行い, probing depth (PD), bleeding on probing (BOP) を記録した。改良抗体法では陽性 (+) が47名, 弱陽性 (±) が9名, 陰性 (-) が47名であった。これに対し酵素法では (+) が57名, (±) が28名, (-) が18名であった。BOPが20%以上または1ヵ所でも6mm以上のPDを有する者を有病者と判断して, gold standardにより分析を行った。その結果, 改良抗体法では敏感度90.9%, 上異度87.5%, 陽性反応的中率89.3%, 陰性反応的中率89.4%であった。これに対し酵素法では, 敏感度94.5%, 上異度313%, 陽性反応的中率61.2%, 陰性反応的中率83.3%であった。以上のことから改良抗体法は酵素法に比べ, 歯周疾患スクリーニングテストの精度を向上させることが示された。
  • 吉森 史
    2001 年 43 巻 4 号 p. 424-432
    発行日: 2001/12/28
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    エナメルマトリックスタンパク (EMD) は近年歯周組織再生療法に使用きれ, 良好な臨床成績を挙げている。EMDは, 歯周疾患により喪失した歯周組織における新たな線維性付着の形成に深く関与するといわれている。線維性付着を獲得するためには歯肉上皮細胞の深行増殖を抑えることが不可欠であるが, そのメヵニズムの詳細は明らかにされていない。本研究の目的は, EMDの上皮細胞の増殖に与える影響とそのメカニズムを明らかにすることである。
    ヒト歯肉由来上皮細胞 (HGK) と上皮系株化細胞 (ヒト口腔由来扁平上皮癌細胞; HSC-2, ヒト唾液腺由来上皮細胞; HSG) を用い, EMDの細胞増殖能に与える影響をBrdUの取込み能で評価したところ, EMDは上皮細胞の増殖を有意に抑制していた。そこでEMDによる細胞増殖抑制が細胞周期のどの段階に作用しているかをフローサイトメトリーで検討した結果, DNA複製準備期 (G1期) で作用していることが判明した。さらにG1期での阻害の機序を明らかにするために, G1 arrestに関与する因子の発現や活性化状態をウエスタンブロット法とRT-PCR法を用いて検討した。その結果, EMDによる上皮細胞の増殖抑制は健常歯肉細胞, 株化細胞の双方に認められたが, そのメカニズムは異なり, HGKではp27の発現の増強によって, HSC-2ではp21発現の増強やCdk2の活性化の抑制によって細胞増殖抑制が誘導されることが明らかとなった。
  • 石川 昭
    2001 年 43 巻 4 号 p. 433-439
    発行日: 2001/12/28
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    歯周病が多くの人に蔓延しているのは, 歯科医師の歯周病に対する知識や技術不足などによるのではないかという仮説を立て, 調査を実施した。静岡県内における講演会 (6回) と下記の浜松市における研修会 (5コース) に参加した開業歯科医師を対象に調査を行った。調査に対して, 158名 (平均年齢; 45.0歳) から回答が得られた。その結果, 平成8年に日本歯科医師会が作成した「歯周病の診断と治療のガイドライン」を読んだことがある者は全体の51.9%であった。歯周精密検査で1歯における歯周ポケット測定を, 6点法で行っている者が34.8%, 4点法が24.1%で, 3点法以下が17.7%, 無記入が21.5%であった。グレーシーキュレット型スケーラーを番号別に使い分けることができる者は31.0%であった。
    さらに, 地域における歯周病対策の一環として, 浜松市内の開業歯科医師を対象に, 浜松市口腔保健医療センターの歯科医師が講師となり, 歯周病診療の向上を目的とした研修会を行った。研修会は1回約2時間, 1ヵ月間隔の2回で終了する形式で開催し, 39名の歯科医師が受講した。研修会によって, 歯周組織検査法や歯磨き法, スケーラーの使用法などの技術の向上がみられた。
    以上のことから, 開業歯科医師の歯周病に対する知識や技術が不足している実態が浮き彫りにされ, 歯周病診療に対する知識技術の向上のための再教育は効果があり, その必要性が示唆された。
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