日本歯周病学会会誌
Online ISSN : 1880-408X
Print ISSN : 0385-0110
ISSN-L : 0385-0110
49 巻, 1 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
巻頭言
総説
原著
  • 藤瀬 修, 和田 裕彰, 濱地 貴文, 三浦 真由美, 松本 明子, 井上 健司, 野田 大輔, 甲斐田 光, 前田 勝正
    原稿種別: 原著
    2007 年 49 巻 1 号 p. 20-26
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/10
    ジャーナル フリー
    サポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)開始時に残存していた歯周炎未改善部位の更なる進行を予防するためには,局所麻酔下のスケーリング・ルートプレーニング(SRP)の適用が有効ではないかと考えられる。本研究ではSPT開始から1年以内の歯周炎患者を任意に選択し,局所麻酔下SRPの実施状況についてアンケート調査を行った。集積された結果によると,SPT開始時に未改善部位を残した患者が多く確認され,SPT期間中に約30%の患者が局所麻酔下のSRPを受けていた。そのSRP実施の臨床的根拠としては,64.3%がポケット深さ(PPD)の増加を予防するために行われている実態が明らかになった。しかし,SPT期間中の予防的な局所麻酔下SRPをどの程度の間隔で行えばよいのかは未だに確立されていない。そこで,SRPを伴わないSPTによる歯周病原細菌の抑制効果を平均4.5ヶ月間調べてみた。その結果,SPT期間中にPPDの変化がなかった部位であっても Porphyromonas gingivalisP.g ) の有意な増加が確認された。特にSPT開始時に4mm以上のPPDが残存していた部位では, Pg 細菌数は初診時に近いレベルまで後戻りしていた。従って,SPT開始時に残存していた未改善部位に対しては,後戻りした歯周病原細菌の除去を目的とする予防的な局所麻酔下SRPを,SPT期間の早期に実施する必要性が示唆された。
  • 高井 英樹, 小方 頼昌
    原稿種別: 原著
    2007 年 49 巻 1 号 p. 27-36
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/10
    ジャーナル フリー
    骨シアロタンパク質 (BSP) は,リン酸化及び硫酸化をうけた非コラーゲン性タンパク質で,その配列中のArg-Gly-Asp (RGD) 配列で細胞に接着し,グルタミン酸連続配列でハイドロキシアパタイトに結合する。石灰化初期に石灰化結合組織特異的にBSPmRNAは発現し,アパタイト結晶形成能を有することから,BSPは初期の石灰化において重要な役割を果たすと考えられる。アンドロゲンは骨の発達に重要なステロイドホルモンである。アンドロゲン受容体(AR)は,ステロイド受容体スーパーファミリーの一員であり,転写因子としても作用し,男性生殖器の分化や前立腺での細胞増殖に関与する。本研究では,BSPの転写調節機構を検索する目的で,ラット骨芽細胞様細胞であるROS17/2.8細胞を用いてアンドロゲンおよびARがBSPの転写に及ぼす影響について検索した。ARを過剰発現させるベクターをROS17/2.8細胞に導入すると,ARタンパク量は核内および細胞質内で増加した。ARをROS17/2.8細胞で過剰発現させると,BSP mRNA量は増加したが,ARを過剰発現せずに,ROS17/2.8細胞を10-8Mのアンドロゲン (5α-dihydrotestosterone; DHT) で24時間刺激しても,過剰発現後にDHTで刺激しても,BSPmRNAは変化しなかった。ルシフェラーゼアッセイの結果,-116塩基対上流までのBSPプロモーターを含むpLUC3とそれよりも長いプロモーター配列を含むルシフェラーゼコンストラクトの転写活性は,AR過剰発現により上昇したが,DHTの影響を受けなかった。2塩基対ずつの変異を挿入したミューテーションプラスミドを用いたルシフェラーゼアッセイの結果,ARの作用は,cAMP応答配列 (CRE) およびアクチベータープロテイン1と重複したグルココルチコイド応答配列 (AP1/GRE) の2つの応答配列を介すると考えられた。ゲルシフトアッセイの結果,ARを過剰発現させると,CREおよびAP1/GREへの核内タンパク質の結合量が増加した。CREに結合するタンパク質は,抗リン酸化CREB抗体で結合バンドの位置が高分子領域へ移動 (スーパーシフト) し,抗CREBおよびAR抗体で結合量が減少した。一方,AP1/GREへ結合するタンパク質は,抗c-Fos抗体で結合バンドの位置がスーパーシフトし,抗c-JunおよびAR抗体で結合量が減少した。以上の結果から,ARはCREおよびAP1/GRE配列を介してBSPの転写を調節し,CRE配列にはCREB,c-Fos,c-JunおよびARの複合体が,AP1/GRE配列には,c-Fos,c-JunおよびARの複合体が結合していると考えられた。
  • 牧野 正敬, 村岡 宏祐, 横田 誠
    原稿種別: 原著
    2007 年 49 巻 1 号 p. 37-46
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/10
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,歯周基本治療が咬合力などの機能改善をもたらすかについて検討することである。今回,九州歯科大学歯周病科を受診し広汎型慢性歯周炎と診断された患者,20名(男性11名,女性9名)を被験者とした。縁上スケーリングおよび0.2%乳酸エタクリジン(アクリノール®)を用いたシリンジでのポケット内洗浄,その後のルートプレーニングの治療前後で,臨床パラメータの変化と,デンタルプレスケール®を用いて測定した咬合力,咬合接触面積の変化を検討した。また,前歯,臼歯の部位別にも比較検討を加えた。結果1.両治療ともに,臨床パラメータの有意な改善を認めた。2.両治療ともに,咬合力の有意な増大,および咬合接触面積の有意な減少を認めた。3.1)ポケット内洗浄後の動揺度の改善は,臼歯が前歯に比べ,有意に大きかった。2)両治療後の咬合力の増大は,臼歯が前歯に比べ,有意に大きかった。3)ポケット内洗浄後の咬合接触面積の減少は,前歯が臼歯に比べ,有意に大きかった。4)ルートプレーニング後の咬合接触面積の減少は,臼歯が前歯に比べ,有意に大きかった。これらのことにより,歯周基本治療による歯周組織の改善に伴い,咬合機能が改善されることが示唆された。また,前歯と臼歯ではその治療効果に差が出ることが示唆された。
症例報告
  • 滝口 尚, 宮下 元, 山本 松男
    原稿種別: 症例報告 -専門医最優秀ポスター賞受賞-
    2007 年 49 巻 1 号 p. 47-54
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/10
    ジャーナル フリー
    重度慢性歯周炎は進行性の付着の破壊と骨喪失が生じる感染性疾患である。本報では,重度慢性歯周炎と診断された患者に対して,歯周外科を含む歯周治療を行った。患者は35歳の男性で,初診時臨床検査およびエックス線写真検査の結果,高度なアタッチメントロスと歯槽骨の吸収が多くの部位に認められた。特に歯周基本治療期間においては,歯肉縁下う蝕により破壊された生物学的幅径の回復を目的に,限局矯正(挺出)を行った。歯周外科手術には,歯槽骨整形術を併用した歯肉弁根尖側移動術を行った。外科手術の治癒後,動揺歯への対応として連結全部鋳造冠,硬質レジン前装冠および固定性ブリッジによる最終補綴とした。その結果,術後の付着歯肉量の減少を最小限に抑え,歯槽骨の改善が得られた。術後2年間のメンテナンスを行っているが経過は良好である。
  • 久保田 玲子
    原稿種別: 症例報告 -ベストハイジニスト賞受賞-
    2007 年 49 巻 1 号 p. 55-60
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/10
    ジャーナル フリー
    本報はCa拮抗剤(ニフェジピン)による歯肉増殖を,歯周基本治療により外科的処置を行うことなく改善した症例報告である。患者は54歳男性。歯肉出血を主訴に来院したが,高血圧症のため4年前よりニフェジピンを服用しており高度な歯肉増殖を認めた。慢性歯周炎を併発しており,Total PDは1,482mmと深く,歯槽骨吸収も進行していたが,歯周基本治療により歯肉増殖は著明に改善し,Total PD は39%に減少した。メインテナンスに移行してから,同じCa拮抗剤(ベシル酸アムロジピン)を服用しているが再憎悪は認めず,5年後,Total PDは27%まで減少している。薬剤性歯肉増殖症はその薬理作用のみで発症するのではなく,口腔清掃不良による歯肉炎が関連していること,また的確な歯周基本治療,メインテナンスがなされていれば充分制御し得ることが示された。
  • 下江 正幸, 岩本 義博, 新井 英雄, 西村 英紀, 高柴 正悟
    原稿種別: 症例報告
    2007 年 49 巻 1 号 p. 61-70
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/10
    ジャーナル フリー
    糖尿病・高血圧・高脂血症・肥満といったインスリン抵抗性を基盤に持つマルチプルリスクファクターシンドローム(MRFS)を有する患者は,心筋梗塞に代表される虚血性心疾患を高頻度に発症することが知られている。今回,歯周治療に伴い血糖コントロールは改善したものの,SPT中に心筋梗塞・脳梗塞を発症,さらに,心不全を合併したMRFSを基盤にもつ慢性歯周炎患者の治療経過から,歯周炎が全身に及ぼす影響について考察する。患者は,62歳・女性。全身疾患として,2型糖尿病・高脂血症・高血圧症・重度慢性歯周炎を有していた。初診時,ヘモグロビンA1c(HbA1c)値は8.1%と血糖コントロールは不良で,歯周病原性細菌に対する血清IgG抗体価は健常者の2SDを超えて高値を示していた。肥満度を示すBody Mass Index(BMI)は21.3 kg/m2であり,糖尿病性合併症は有していなかった。したがって,これらのことより本患者をインスリン抵抗性を背景に有している歯周炎患者と捉え,感染源を徹底的に除去することを目的に歯周治療を行った。長期的にみると,歯周治療に伴い歯周組織の臨床症状および,歯周病原性細菌に対する血清IgG抗体価は改善し,血糖コントロールの指標である HbA1c値は6%台後半を推移していた。しかしながら,本患者はSPT中に心筋梗塞を発症した。2型糖尿病患者では冠状動脈疾患の発症リスクは健常者の2-3倍と報告されている。本患者の場合,重度慢性歯周炎を含め高血圧症,高脂血症といった危険因子の蓄積が結果的に心筋梗塞の発症につながったと考えられる。MRFSを有する患者は,生活習慣病予防の一環として,より積極的に歯周疾患の予防,治療を行うべきであると考える。
調査・報告
  • 冨山 高史, 岩本 義博, 吉住 和歌子, 清水 明美, 河野 隆幸, 新井 英雄, 西村 英紀, 高柴 正悟
    原稿種別: 調査・報告
    2007 年 49 巻 1 号 p. 71-76
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/10
    ジャーナル フリー
    近年,多血小板血漿(PRP)に骨移植材を併用した歯周組織再生療法の有効性が示唆されている。骨移植材には,自家骨,他家骨,異種骨,人工骨があるが,骨伝導能,骨誘導能,骨増殖能すべてを有する自家骨をPRPに併用した歯周組織再生療法に関する臨床報告はない。本研究は,歯周疾患によって生じた垂直性骨欠損部を対象として,PRPと自家骨を併用した歯周組織再生療法の治療効果を評価することを目的とした。歯周基本治療が終了した垂直性骨欠損を有する非喫煙者で,慢性歯周炎患者17名22部位に対してPRPと自家骨を併用した歯周組織再生療法を施行し,術前および術後6ヵ月における臨床所見およびレントゲン線写真を評価した。その結果,プロービング深さ(PD)減少量とクリニカルアタッチメントレベル(CAL)獲得量は,それぞれ3.20±1.28mm,2.52±1.08mmであった。レントゲン写真における評価では,術前の骨欠損程度を100%と規定すると,術後の骨欠損程度は54.4±8.9%であった。すなわち,45.3±9.3% 骨が改善していることがわかった。これらのことから,PRPに自家骨を併用した方法は,歯周組織再生に有効な術式であることが示唆された。
feedback
Top