日本歯周病学会会誌
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49 巻, 3 号
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巻頭言
原著
  • 大橋 顕二郎, 鈴木 桃子, 今荘 雅秀, 小山 朱美, 齋藤 綾一朗, 若林 健史, 増永 浩, 小方 頼昌
    原稿種別: 原著
    2007 年 49 巻 3 号 p. 191-197
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/07
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,口臭と臨床症状の関係について調査し,歯周基本治療による臨床所見と口臭の改善度の関係について検討することである。口臭測定器ブレストロン®を用い,日本大学松戸歯学部付属病院歯周科に通院中の軽度の慢性歯周炎患者87名を対象として臨床パラメーターと口臭の関係について検討を行った。歯周基本治療前後における臨床的改善度と口臭の改善度との関係について慢性歯周炎患者38名について検討した結果,以下の結論を得た。
    (1)ブレストロン値を用いた口臭測定では,臨床パラメーターのうち,BOP,PCRとの関連性を認めた。舌苔の付着を認めた患者が少なかったため,舌苔と口臭との関連性は特定できなかった。
    (2)歯周基本治療により口臭の減少を認め,その傾向は他の臨床所見の改善と一致していた。
    (3)口臭の改善率は,PD, BOP,PCRの改善率と多くの部位で一致することを認めた。
    ブレストロン®による口臭測定値を利用することにより口臭を臨床における動機付けを向上にもちいることは有用であることが示された。
  • 伊藤 弘, 沼部 幸博
    原稿種別: 原著
    2007 年 49 巻 3 号 p. 198-206
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/07
    ジャーナル フリー
    歯周組織破壊と喫煙の関連は,疫学的に報告されているものの,そのメカニズムは不明であるが,宿主の反応が関与していると考えられている。本研究の目的は,喫煙および受動喫煙が顆粒球由来GCFエラスターゼ活性に対する影響と歯周組織破壊に関連する生化学的マーカーの検索を目的とした。
    被験者は,中等度慢性歯周炎患者68名(非喫煙者34名,喫煙者34名,すべて男性)を対象とした。検索項目は,臨床パラメーターとしてPD,PlI,GI,GCF量を,生化学的項目は,唾液中コチニン量,細胞外エラスターゼ活性,α1-antitrypsin(A1AT) 量,elastase A1AT complex (E-A1AT) 形成量とし,Enzyme assayとELISAを用いた。
    本研究の結果より以下の結論を得た。
    1,喫煙者は,非喫煙者と比較してGIは有意に低かった。
    2,唾液中コチニン量から,自己申告による非喫煙者中受動喫煙者は22名,非喫煙者は12名であった。
    3,非喫煙者に対して受動喫煙者・喫煙者は,細胞外エラスターゼ活性が有意に低かった。
    4,非喫煙者・受動喫煙者,喫煙者に対して,E-A1AT形成量とA1AT 量は有意差を認めなかった。
    5,喫煙者の唾液中コチニン量に対し,A1AT 量は弱い負の相関を示した。
    以上の結果より,受動喫煙・喫煙より顆粒球由来GCFエラスターゼ活性が変化し,歯周組織防御機構の不均衡を示し,インヒビター量の変化が関与していると考えられた。すなわち,GCF中におけるインヒビター量の変化が,受動喫煙・喫煙に対する歯周組織破壊の生化学的なマーカーの一つと考えられた。
  • 湯浅 茂平, 松井 康太郎, 吉田 拓正, 山口 博康, 新井 高
    原稿種別: 原著
    2007 年 49 巻 3 号 p. 207-214
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/07
    ジャーナル フリー
    この研究の目的は,同一患者におけるフラップ手術でのNd : YAG レーザー照射,Er : YAGレーザー照射,消炎鎮痛剤の内服での術後疼痛緩和効果をVASにて比較することである。
    今回の研究は11名90歯を対象とした。この研究は3群を設定した。実験群1(11名33歯)は,Nd : YAG レーザーを歯根面,骨欠損内部,歯肉弁内面におのおの3.0W,30秒,3回照射した。実験群2(11名29歯)は,Er : YAG レーザーを歯根面,骨欠損内部,歯肉弁内面におのおの1.0W,30秒,3回照射した。さらに,実験群1および2は術直後に1.5W,1分,3回歯肉頬移行部に照射した。対照群(11名28歯)にはレーザー照射をおこなわず,術直後に消炎鎮痛剤を内服させた。VAS は術直後から6時間後まで1時間ごとに,2日目は起床後から6時間後までとした。
    統計学的分析の結果,術後1時間において実験群1が対照群と比較して有意(p<0.05)に高値であったが,これ以外に統計学的有意差は認められなかった。
    今回の研究の範囲内では,フラップ手術におけるNd : YAGレーザー照射,Er : YAGレーザー照射,および消炎鎮痛剤の内服での術後疼痛緩和効果はほぼ同等であることが示唆された。
  • 関野 愉, 沼部 幸博, 鈴木 史彦, 中嶋 大誠, 宮尾 益佳, 築舘 勇樹, 今村 恭也, 池田 祥恵, 中山 大輔, 岡本 浩
    原稿種別: 原著
    2007 年 49 巻 3 号 p. 215-223
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/07
    ジャーナル フリー
    本後ろ向き研究の目的は喫煙者における種々の臨床的パラメータと歯周治療期間中の付着の喪失との関連を評価することである。奥羽大学歯学部附属病院にて,動的歯周治療とメインテナンス治療を2年以上受診した喫煙者(喫煙群 : 男性11名,女性1名,平均年齢54.5±12.4歳)と非喫煙者(非喫煙群 : 男性9名,女性3名,平均年齢54.4±9.8歳)からそれぞれ12名のデータを抽出し分析を行った。ベースライン(BL)診査時に,すべての被験者の喪失歯(MT)数,プロービングポケットデプス,(PPD),臨床的アタッチメントレベル(CAL),プロービン時の出血(BOP),プラークスコア(PCR)を記録した。診査の後,全ての被験者に対し,口腔衛生指導および原因除去治療を行い,それらの治療終了後,1~3カ月の間隔で,リコールプログラムに組み入れた。BL診査から平均約2年後に同様の臨床的パラメータについて再評価を行った。各群の観察期間中の臨床パラメータと2年間で2mm以上付着の喪失が起こった部位の頻度(%)との相関をSpearmanの順位相関により解析した。喫煙群においては,全ての臨床的パラメータは弱い相関しか認められなかった。他方,非喫煙群においては,全歯面の分析では,再評価時のMT数およびCAL≧5mmの頻度(%)が,BL時PPD≧4mmの部位の分析では再評価時のPPD≧6mmの頻度(%)およびBL時と再評価時のCAL≧5mmの頻度(%)が付着喪失部位の頻度と有意に相関した。したがって,喫煙患者では,歯周治療の予後予測が困難になるので,より厳密な診査が必要であると考えられた。
  • 廣島 佑香, 板東 美香, 片岡 正俊, 永田 俊彦, 木戸 淳一
    原稿種別: 原著
    2007 年 49 巻 3 号 p. 224-232
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/07
    ジャーナル フリー
    カルプロテクチンはS100A8とS100A9の2つの蛋白複合体から構成される抗菌ペプチドであり,上皮において発現している。カルプロテクチン発現は,炎症性サイトカイン,細菌産物や上皮細胞分化調節因子により調節されている。上皮細胞で恒常的に産生されるインターロイキン-1α( IL-1α) は上皮細胞分化を誘導し,カルプロテクチン発現を上昇させる。上皮細胞の分化は基底膜や結合組織の相互作用により制御されている。本研究では,細胞外基質(ECM)蛋白やIL-1αによるカルプロテクチン発現について検討した。ヒト上皮細胞株HaCaTをECM蛋白(I型とIV型コラーゲン,フィブロネクチン,ラミニン)コートディッシュに播種し,IL-1αの存在,非存在下で培養した。また,基底膜抽出物(マトリゲル)コートディッシュや線維芽細胞フィーダー層でも培養した。カルプロテクチンの発現は,免疫組織染色,ノーザンブロット法およびELISA法により分析した。その結果,4種のECM蛋白ディッシュで培養を行った場合,カルプロテクチン発現に変化は認められなかった。一方,IL-1αは培養ディッシュに関わらずカルプロテクチン発現を有意に上昇させたが,ECM蛋白はこの効果に影響を及ぼさなかった。また,マトリゲルや線維芽細胞フィーダー層ではカルプロテクチン発現の軽度の減少が認められた。これらの結果より,上皮細胞でのカルプロテクチン発現は上皮-間葉系においてサイトカインにより調節されていることが示唆された。
症例報告
  • 種田 祐子
    原稿種別: 症例報告
    専門分野: -ベストハイジニスト賞受賞-
    2007 年 49 巻 3 号 p. 233-238
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/07
    ジャーナル フリー
    本報では,系統的な歯周治療を受け入れなかったが,繰り返しのモチベーションにより,また下顎大臼歯の崩壊や生活環境の変化を機に,受け入れるようになった重度慢性歯周炎の一症例について報告する。患者は43歳の女性で,当初は下顎左側第一小臼歯の齲蝕による歯冠崩壊と歯肉出血を主訴に来院した。診査の結果系統的な歯周治療が必要と診断されたが,症状が緩解すると来院がとぎれた。しかし7年経過後に下顎大臼歯部の歯周病悪化により再来院して以来,系統的な歯周治療を受け入れ,歯周基本治療,歯周組織再生療法,インプラント治療が遂行された。その後メインテナンスに移行し,全顎的な歯周組織の健康状態が良好に維持された。同時に,全身の健康状態に対する意識が高まり,運動や定期検診を積極的に受けるようになった。地域医療に従事する歯科衛生士にとって,歯科治療を通じて,患者の健康に対する意識を向上させる事が,重要な役割の一つと考えられた。
  • 角舘 直樹, 菅谷 勉, 小野 芳男, 木村 康一, 福島 千之, 藤澤 雅子, 永山 正人, 森田 学, 野村 和夫, 川浪 雅光
    原稿種別: 症例報告
    2007 年 49 巻 3 号 p. 239-249
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/07
    ジャーナル フリー
    Papillon-Lefèvre症候群(PLS)は手掌,足蹠の過角化症と重度の歯周病を主徴とする常染色体劣性遺伝病である。筆者らは,cathepsin C遺伝子の変異が判明したことがきっかけでPLSと診断した姉弟の歯周病症例を経験した。
    患者は24歳女性および21歳男性の姉弟で,1999年に青森県立中央病院皮膚科でPLSと診断され,2000年に歯周病精査依頼により同院歯科口腔外科を受診した。皮膚症状として,姉弟ともに両手掌,足蹠,肘頭,膝蓋部に角化性紅斑が認められた。姉の歯周病はプラーク性歯肉炎と診断したのに対し,弟は歯肉の発赤や腫脹,深い歯周ポケット,著しい歯の動揺が多数歯に認められ,遺伝性疾患に伴う広汎型歯周炎と診断した。姉には口腔清掃指導のみを行い,弟には口腔清掃指導,スケーリングに続き,17歯を抜歯,10歯に歯周外科手術を行った。その結果,弟の歯周ポケットの深さはほぼすべて3mm以内に改善し,現在,初診より6年以上が経過しているが歯周病の再発は認められず,良好にメインテナンスされている。
    姉は弟と同様にcathepsin C遺伝子の変異を認めたにもかかわらず,歯周組織破壊は軽度であったことから,同遺伝子の変異があっても重度の歯周病を発症しない症例が存在することが明らかとなった。また,弟は通常の歯周基本治療,歯肉剥離掻爬手術を行うことにより良好な改善が得られたことから,遺伝的要因の強い患者でも通常の歯周治療によって歯周病の進行を抑制できることが示唆された。
  • 安藤 和枝, 日比 麻未, 千田 美和, 早川 純子, 山口 みどり, 稲垣 幸司, 野口 俊英
    原稿種別: 症例報告
    2007 年 49 巻 3 号 p. 250-256
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/07
    ジャーナル フリー
    患者は,上顎右側側切歯部の歯肉出血を主訴に,1989年6月に来院した45歳男性である.歯周炎の進行に伴う2次性咬合性外傷による上顎前歯部の病的移動,正中離開や臼歯部の咬合崩壊が進行しつつある慢性歯周炎と診断した.歯科医師と歯科衛生士による歯周基本治療により,炎症と咬合をコントロールし,正中離開は自然閉鎖した.その後,サポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)により17年間安定した予後を得ている.すなわち,初診時,現在歯数28歯,クリニカルアタッチメントレベル(CAL)とプロービングデプス(PD)平均およびPD4mm以上の部位は,それぞれ,3.0mm, 2.9mm, 37部位(22.2%)であった.2006年10月には,PD4mm以上の部位はなく,CAL2.7mm, PD2.3mmと付着を喪失することなく経過している.歯周炎に関する主訴が改善されるとSPTが中断することがあるが,本症例では,初診時より17年間,治療を中断することなく継続できた.その背景には,患者の健康を維持したいという思いに対して適切に対応することで,歯周組織が長期的に良好に維持できることが示唆された.
技術紹介
  • 土田 祥央, 井上 Katarzyna Anna, 横山 三紀, 深澤 加與子, 石原 章弘, 柳下 正樹, 吉成 伸夫
    原稿種別: 技術紹介
    2007 年 49 巻 3 号 p. 257-263
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/07
    ジャーナル フリー
    プロテオミクスは,タンパク質の構造,機能を網羅的に解析することであり,ヒトゲノム解読が終了した現在,タンパク質の機能情報を明らかにすることを目的としている。プロテオミクスに必須の道具は,タンパク質の大きさを測定する質量分析計であり,この装置を使用して,疾患の原因や発症のメカニズムを解明し,診断と治療法の開発に結びつけることができる。
    近年,疾患に関わるタンパク質を検索し,全身疾患の病因や,発症のメカニズムの解明,さらには診断マーカーを探索する疾患プロテオミクスが発展している。
    今回,歯周病研究に対するプロテオミクスの可能性を期待して,ウシ血清アルブミン(BSA)を用い,質量分析計(MALDI-TOF-MS : Ultraflex, BRUKER DALTNIC, Germany)の限界濃度を測定した。その結果,1.52 pmol(100ng/μl)の濃度まで計測可能であった。すなわち,口腔内から採取される微量なサンプルも,質量分析計を用いることによりタンパク質を検索可能であり,歯周病診断,治療への応用が期待される。
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