本研究の目的は,無作為化クロスオーバー試験により,歯周ポケット内に表面麻酔ゲルを注入塗布する麻酔方法(ゲル麻酔)のスケーリング・ルートプレーニング(SRP)時の鎮痛効果と歯周組織の改善効果を,浸潤麻酔を対照として比較することである。
5~9 mmの歯周ポケットを4歯以上有する患者27名(男性16名,年齢37~77歳)を無作為に2群に分け,A群は初回に1歯にゲル麻酔,別の1歯に浸潤麻酔の順,2回目には浸潤麻酔,ゲル麻酔の順で麻酔後,SRPを行った。B群はA群とは麻酔の順序を逆にした。SRP中の痛みについてVisual Analogue ScaleとVerbal Rating Scaleで評価し,研究終了時に麻酔の好みと理由を尋ねた。SRP実施平均1か月後に歯周組織の再評価を行った。
対象者単位の属性,歯単位の臨床データにおいて,A群とB群の間に有意差はなかった。痛みの指標はいずれもゲル麻酔の方が浸潤麻酔よりも有意に高かったが(p<0.01),ゲル麻酔を好む者が16名(59%)と多く,理由は麻酔針刺入時の疼痛や術後のしびれなどの不快感がないことであった。麻酔の種別に関わらず,歯周組織の炎症は再評価時に有意に改善した(p<0.001)。
これらの結果から,SRP前に歯周ポケット内に表面麻酔ゲルを注入塗布する方法は,浸潤麻酔よりも患者にとって好ましい選択肢であることが示唆された。
糖尿病と歯周病はその関係性が示されており,超高齢社会を迎えている日本では,高齢糖尿病患者の医科歯科連携をさらに推進する必要がある。特に高齢糖尿病患者は,認知障害,日常生活動作障害,低血糖,多疾病合併などを有する可能性が高いため,糖尿病診療ガイドラインでは,年齢,機能状態,低血糖リスクに応じた血糖目標値を個別に決定する必要があるとされている。本症例は糖尿病を有する広汎型慢性歯周炎(Stage IV,Grade C)の高齢患者に対して医科歯科連携の下,歯周基本治療を行うことによって,良好な予後を得た症例を報告する。
患者は当院入院中の74歳女性,上顎前歯部の脱離を主訴に整形外科から紹介された。歯周炎症表面積(PISA)は1341.5 mm2で,全顎的に発赤,腫脹,排膿および多数歯動揺を認め,血糖コントロール不良な歯科未受診の高齢糖尿病患者(HbA1c:8.2%)であった。そこで,内科主治医に歯周病の情報提供のもと,患者の同意を得て歯周治療開始となった。
歯周治療開始から患者は生活習慣の改善をさらに意識するようになり,歯周基本治療のみでPISAの顕著な減少とガイドラインにおける高齢糖尿病患者の血糖コントロール目標範囲内にHbA1cは改善された。医科歯科連携によって医療従事者が両疾患の相互関連性を認識することは,特に超高齢社会において重要であることがわかった。
神奈川歯科大学附属病院では,2020年より認定試験に合格し口腔清掃用品への一定の知識を有する職員に対し「ハブラシコンセイエⓇ」を認定している。ハブラシコンセイエⓇの活動は,従来行ってきた口腔清掃指導だけではなく,患者が日常に使用する口腔清掃用品の選択に際して積極的な情報提供を行うことである。
本認定後のハブラシコンセイエⓇの意識の変化を,アンケートにより調査した。その結果,「清掃用品への意識が向上した」,「自身の知識の向上につながった」,「本制度は病院職員に対する教育効果がある」という回答が60%以上の回答者から得られた。さらに,ハブラシコンセイエⓇによる自主的な活動の広がりも認められる。
医療従事者として意欲的に学び続けることは,生涯学習において非常に重要である。ハブラシコンセイエⓇの認定にともない,多くの病院教職員の知識や意欲の向上につながった。