季刊個人金融
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特集 金融経済教育の将来展望
  • 荒木 宏子
    2025 年 19 巻 4Winter 号 p. 14-27
    発行日: 2025/01/30
    公開日: 2025/02/10
    研究報告書・技術報告書 フリー
    生涯に渉る資産管理の責が政府企業から個人へと急速にシフトする中、学校教育もこれに対応すべ く、実践的な投資教育を含む広範な金融教育の実施が学習指導要領に明記された。今後、金融教育効 果を測定する実証研究の蓄積と、その政策的知見への活用が求められよう。本稿では、金融教育が金 融行動に与える影響を分析した既存研究をご紹介する。これら研究によれば、金融教育の経験がその 後の金融行動に与える影響は、教育の内容や対象、タイミング、さらには直接観測できない個人の選 好の異質性によって不均一であることが示されている。とりわけ、低所得、低学歴、経済的に脆弱な 層では、金融知識の向上や金融教育が、適切な投資行動に結びつかない可能性も指摘された。また、 学齢期の金融教育が長期的な金融行動の改善に効果を発揮するには、教育内容の継続的なフォローアッ プや、適切なタイミングでの実務的教育が功を奏す可能性がある。日本の金融教育においても、この ような課題を明らかにすべく、個人レベルの長期的な金融教育と金融行動を補足したデータの蓄積が 望まれる。
  • 上山 仁恵
    2025 年 19 巻 4Winter 号 p. 28-35
    発行日: 2025/01/30
    公開日: 2025/02/10
    研究報告書・技術報告書 フリー
    本稿では、高齢者を対象にした2 時点間のパネルデータを用い、金融リテラシーの変化の要因分析 を行った。その結果、心身機能の低下の自覚が高い人ほど金融リテラシーの水準が低く、金融リテラシー の低下も大きいことが明らかになった。現在、金融機関における高齢顧客との金融取引では、高齢者 の状況に合わせた判断が求められているが、心身機能の低下の自覚の状況から、金融リテラシーの状 況を捉えられると考えられる。 そして、金融リテラシーの変化と金融トラブルに対する対処との関係を検証した結果、金融リテラ シーが高い層でも、金融リテラシーが低下するほど、相談や解約といった望ましい行動を取る人が少 なくなっていた。金融リテラシーが高い層ほど、証券市場に参入したり、様々な金融取引を行ったり するため、金融トラブルに合う確率が高い。金融リテラシーが高い層は、知識の低下する余地が大き いため、アフターフォローやモニタリグなど、より注意が必要である。
  • 大藪 千穂
    2025 年 19 巻 4Winter 号 p. 36-44
    発行日: 2025/01/30
    公開日: 2025/02/10
    研究報告書・技術報告書 フリー
    わが国においても金融経済教育が普及し始めている。特に学校教育では、高校家庭科において2022 年から資産形成の内容が含まれるようになり、急に脚光を浴びだした。学校教育でや勤労者に対しては、 ある程度の金融経済教育が提供されるようになってきたが、生活困窮者やその支援者に対する金融経 済教育までは実施されていないのが現状である。 本稿では、生活困窮者の中でも特にひとり親世帯と、支援者側としてこども食堂の経営者を対象に、 実態調査からどのような金融経済教育が必要であるか、またそのために必要な枠組みについて考察し た。その結果、生活困窮者が自分で試行錯誤できる「生活設計ゲーム」の普及や家計簿記帳の研修と促進、 生活困窮者が共に相談しあえ、専門家にも気軽に相談できるプラットフォームが必要であることを提 案している。また支援者側に対しても金融経済教育プログラムと支援者間で相談しあえ、専門家とつ ながるプラットフォームが必要であることを示唆した。
  • 小関 隆志
    2025 年 19 巻 4Winter 号 p. 45-53
    発行日: 2025/01/30
    公開日: 2025/02/10
    研究報告書・技術報告書 フリー
    日本に住む外国人(在留外国人)は年々増加し、今後もさらなる増加が見込まれる。外国人は日本 で生活するうえでも、また祖国に送金するうえでも多様な金融サービスを利用する必要があるが、言 語の壁や金融に関する知識の欠如、価値観の相違、身分上の制約などから金融サービスにアクセスで きないという金融排除も生じている。 外国人の金融ケイパビリティを高めるひとつの手段として金融教育の必要性が指摘されているが、 日本では外国人への金融教育が極めて断片的で、体系化にはほど遠い状態である。他方で外国人の間 では金融知識の不足と、金融教育の必要性の認識が一定程度共有されていることがうかがえた。 国際機関や移民の送り出し国・受け入れ国では移民への多様な金融教育の実践が行われている。そ れらの先行研究を参考にしながら、日本国内でも政策の立案、実践、研究を進めていくことが期待さ れる。
  • 瀬戸 佑基
    2025 年 19 巻 4Winter 号 p. 54-62
    発行日: 2025/01/30
    公開日: 2025/02/10
    研究報告書・技術報告書 フリー
    「GIGA スクール構想」の下、日本の学校では急速にICT 環境が整備された。それに伴い学校教員 からは、ICT を活用した金融経済教育用教材の提供を求める声があがっている。 米国や英国においては、金融経済教育を推進するNPO などが、教員向けのオンライン学習コンテ ンツを提供したり、ライフプランニングや金融に関する情報を提供する記事・シミュレーターを提供 したりする例がある。 他方、日本における取り組みを見ると、海外と同様のコンテンツがすでに提供されている例が多く、 コンテンツの充実度合いが諸外国に比べて大きく劣っているわけではない。それにもかかわらず、教 員からICT を活用した教材の提供を望む声があがっているということは、単純に周知不足の可能性が 高い。金融経済教育推進機構などが提供する講師派遣事業や教員向けセミナー等で、ICT を活用した 授業の可能性が積極的に発信されることが望まれる。
  • 橋爪 麻紀子
    2025 年 19 巻 4Winter 号 p. 63-72
    発行日: 2025/01/30
    公開日: 2025/02/10
    研究報告書・技術報告書 フリー
    若年層への金融経済教育の必要性が高まるなか、著者は、若い世代が金融経済とサステナビリティ とを同時に学ぶほうが、個別に学ぶよりも実践的な知識になると考える。なぜなら、金融経済教育の 目的は金融リテラシーを身につけ、正しい金融行動によってファイナンシャル・ウェルビーイングな 状態になることであり、それは単に個人の経済的安定や、安心感だけではなく、あらゆるステークホ ルダーとの調和というサステナビリティ要素も含まれるからだ。そして、サステナビリティを軸に金 融経済を学ぶことで、長期的視点の獲得や、社会的責任の理解が進み、個人の経済活動が社会や環境 に与える影響を認識し、責任ある金融行動をとる意識が芽生える契機になる。本文では、金融経済教 育の役割と若者への影響や、サステナビリティと金融の交差点について触れた後、諸外国の事例や著 者の講義での取り組みなどを紹介し、サステナビリティを軸とした金融教育の課題や展望を述べる。
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