パーソナリティ研究
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16 巻, 1 号
(2007)
選択された号の論文の15件中1~15を表示しています
原著
  • ――自尊感情との関連,および領域間の関連に注目して
    若本 純子
    2007 年 16 巻 1 号 p. 1-12
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/30
    ジャーナル フリー
    本研究は,中高年期成人2026名を対象に,自己評価と自尊感情との関連,自己評価の5下位領域間の関連,それらの関連における年齢段階差を検討した。自尊感情との関連を検討した重回帰分析では,中高年期全体を通して内的自己が,中年前期・ポスト中年期では社会的自己・生活的自己(経済面)も有意な説明変数であることが明らかにされた。領域間の相関分析では,各領域に対する自己評価は独立して付与されることが示唆された。領域間の関連における年齢段階差の検討では,男性は生活的自己の経済面,女性では経済面・健康面と他の自己領域との関連において有意差が示された。そして,中年前期は他の年齢段階と比べて,領域間の相関が有意に強い傾向にあった。一方,中高年期後半は経済面と他領域との関連をめぐって,中年前期よりも有意に領域間の相関が弱く,領域間の独立性がより顕著と考えられた。これらの自己評価の構造面の特徴は,“well-beingの逆説”や“危機”という中高年期の発達的現象を説明しうると示唆された。
  • 稲垣 実果
    2007 年 16 巻 1 号 p. 13-24
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/30
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,土居の「甘え」理論の観点から自己愛を捉え,自己愛的甘えの概念を整理し,自己愛的甘えを測定する尺度を作成することであった。自己愛的甘えは,「屈折的甘え」「配慮の要求」「許容への過度の期待」の3つの下位概念が設定された。32項目からなる自己愛的甘え尺度を大学生及び専門学校生515名に施行し,因子分析を行った結果,上記の3つの下位概念に相当する3因子が得られた。さらに確認的因子分析でも十分な適合度を示し,α係数においても高い信頼性が確認された。また,自己愛的甘え尺度は,Narcissistic Personality Inventory-S (NPI-S) で測定している自己愛とは弱い関連性を持ちながらも,「自己主張性」を含まない,別の構成概念を捉えているということ,そして多次元自我同一性尺度 (Multidimensional Ego Identity Scale: MEIS) とは各下位尺度間のいずれにおいても負の相関を示し,対人恐怖的心性尺度,被害観念尺度,疎外観念尺度とはいずれにおいても正の相関を示したことからも,構成概念的妥当性が確認された。
  • ――閾下感情プライミングパラダイムを用いて
    小田部 貴子, 加藤 和生
    2007 年 16 巻 1 号 p. 25-35
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/30
    ジャーナル フリー
    従来の「トラウマ」研究の中で,非常にストレスフルな出来事を体験しPTSDのような重篤な症状を呈するような場合については,症状を引き起こす異常なスキーマ(情報処理の枠組み)の存在が実証されてきている。しかし,臨床的なケアの対象として取り上げられないような「比較的軽度」の出来事でも,特にそれが反復的に繰り返されるつらい出来事である場合,人の心にスキーマを形成し,ネガティブな影響を及ぼしている可能性がある。本研究の目的は,過去に比較的軽度かつ反復性のつらい出来事を体験した人が,その体験にもとづく「心の傷スキーマ」を形成しているかどうかについて,閾下感情プライミングを用いて実験的に検討することであった。実験協力者は,過去にいじめられた経験をもつ者(以下,いじめ有群;N=23)ともたない者(いじめ無群;N=48)であった。実験協力者は,プライム刺激としてポジティブ語,ブランク,ニュートラル語,ネガティブ語,いじめ関連語を閾下呈示され,後続する中性のターゲット刺激に対する好意度評定を行った。その結果,いじめ有群においてのみ,ニュートラル語よりもいじめ関連語が閾下呈示されたときのほうが,直後の中性刺激(ターゲット)を好ましくないと評定した。結果は次のように解釈できる:「いじめられ体験」に関わる刺激によって「心の傷スキーマ」は活性化され,そのことによって,中性な情報がネガティブに歪められた。このことより,いじめ有群が過去の「いじめられ体験」にもとづく「心の傷スキーマ」をもっている可能性が示唆された。ただし,想定される基本的な閾下感情プライミングの効果が現れにくかったため,注意深く考察を行った。
  • 阿部 美帆, 今野 裕之
    2007 年 16 巻 1 号 p. 36-46
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/30
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,状態自尊感情尺度の開発である。尺度は,Rosenberg (1965) の自尊感情尺度(山本・松井・山成,1982)を参考にして作成された。研究1では,尺度が高い内的一貫性を有することが明らかにされた。また,状態自尊感情は他者から受容もしくは拒否されているといった感覚と関連することが示された。研究2では,評価的フィードバックを用いた実験を行なった。その結果,肯定的な評価に伴って状態自尊感情は上昇し,否定的な評価に伴って状態自尊感情は低下することが明らかにされた。研究3においては,構成概念妥当性の検討のために不安との関連を検討したところ,状態自尊感情と状態不安との間に有意な負の相関が示された。以上から,状態自尊感情尺度の信頼性および妥当性が確認された。
  • 勝間 理沙, 山崎 勝之
    2007 年 16 巻 1 号 p. 47-55
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/30
    ジャーナル フリー
    本研究では,攻撃性について,反応的表出性攻撃,反応的不表出性攻撃および道具的関係性攻撃の3分類を用い,児童における3タイプの攻撃性から正負感情への影響を検証した。小学校4年生~6年生718名を対象に,日本語版児童用正負感情尺度とP–R攻撃性質問紙を行った。その結果,不表出性攻撃の高い児童は低攻撃児よりも高いネガティブ感情を示したが,表出性攻撃児および関係性攻撃児においてはネガティブ感情との関係は見られなかった。この結果は,先行研究を支持するものであり,不表出性攻撃児の問題性をさらに強調し,将来の抑うつ対するネガティブ感情によるスクリーニングの可能性が論議された。
  • ――行為主判別に対する学習課題を用いた検討
    浅井 智久, 丹野 義彦
    2007 年 16 巻 1 号 p. 56-65
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/30
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,自己主体感の生起メカニズムを考察し,それに対する学習の効果を検討することであった。自己主体感とは,ある行為を自分自身でしている,という感覚のことである。フォワードモデルでは,自己主体感は「実際の結果」が「結果の予想」に合致するときに生起されるとしている。本研究では,キー押しをすると音が鳴る,という仕組みを用いた。その結果,「時間差知覚」と「自己主体感」は同じものではないことが示された。これはフォワードモデルを支持 するものであった。また学習の結果,より高い自己主体感を報告するようになったが,時間差知覚には学習の効果はなかった。これは学習によって「実際の結 果」ではなく,「結果の予想」が変わったために,その結果として自己主体感が変わったと示唆するものであった。本研究はフォワードモデルによる自己主体感の生起モデルの妥当性と,学習が自己主体感に影響をあたえることを示した。
  • ――短期縦断データを用いた相互影響分析
    酒井 厚, 菅原 ますみ, 木島 伸彦, 菅原 健介, 眞榮城 和美, 詫摩 武俊, 天羽 幸子
    2007 年 16 巻 1 号 p. 66-79
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/30
    ジャーナル フリー
    小学校高学年の児童を対象とした2年間の追跡調査データをもとに,彼らの学校での反社会的行動と自己志向性との間の影響関係について,家族に抱く信頼感を調整要因として含めた3変数間の相互影響性の観点から検討した。構造方程式モデリングによる交差遅延効果分析の結果,家族に抱く信頼感の高低にかかわらず,小学校高学年における学校での反社会的な行動経験の多さが,2年後の自己志向性の低下に影響することが明らかになった。
  • 武井 祐子, 寺崎 正治, 門田 昌子
    2007 年 16 巻 1 号 p. 80-91
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/30
    ジャーナル フリー
    育児相談の場などで簡便に使用できる幼児気質質問紙を作成することを目的として,2つの研究を行った。研究1では,6つの既存の質問紙の項目から88項目を選定し,それら88項目について1.6健診を受診する子どもの養育者に回答を求めた。因子分析の結果,7因子60項目が抽出された。次に60項目を1.6健診受診の子どもをもつ養育者に実施した結果,6因子47項目が抽出された。そこで (1) 否定的感情反応尺度,(2) 神経質尺度,(3) 順応性尺度,(4) 外向性尺度,(5) 規則性尺度,(6) 注意の転導性尺度から成る幼児気質質問紙を作成した。研究2では,研究1で作成した6尺度から3項目ずつ選定し,計18項目について再度因子分析を行った。その結果,同構造が確かめられたため6尺度18項目の簡易版気質質問紙を作成した。この質問紙は,短時間で子どもの気質を捉えられる有用な道具となると思われる。
資料
  • 天野 寛, 酒井 俊彰, 酒井 順哉
    2007 年 16 巻 1 号 p. 92-99
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/30
    ジャーナル フリー
    近年,医療事故防止の研究において,組織の改善だけでなく医療スタッフ個々人の特性に応じた安全対策のサポート体制の研究も必要になってきた。本研究の目的は,インシデントレポートと心理検査を組み合わせることによって,インシデントと関連する個人特性を探ることにある。方法は,エゴグラムとPOMSを用い,それがインシデントにどのように関係しているのか,2施設の看護師計790名を対象に,インシデントレポートからH群(高リスク群)とL群(低リスク群)を抽出して2つの心理検査との関係を分析した。結果は,エゴグラムのACおよびPOMSのT–A,D,A–H,CについてH群の値がL群よりも高く,それぞれ有意な差が認められた。このように,緊張感や不安感が高く,過剰適応の傾向のある者は,自己表現を円滑におこなうことが医療事故の予防に効果のあることが示唆された。
  • 内田 香奈子, 山崎 勝之
    2007 年 16 巻 1 号 p. 100-109
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/30
    ジャーナル フリー
    本研究では,感情コーピング尺度(Emotional Coping Questionnaire)の特性版を開発し,ストレッサによって生じた怒りと落胆両感情に対する感情表出によるコーピングが測定可能な尺度の開発を目指した。研究1では,717人の大学生に調査を実施し,他者依存的感情表出と独立的感情表出の2下位尺度が抽出され,構成項目の内的整合性と因子的妥当性が確認された。研究2では,74名の大学生を対象に,5週の間隔で2回の調査を行い,その結果,高い検査―再検査信頼性が示された。また研究2では同時に,50名の大学生を対象に,仲間評定法を用いて構成概念妥当性を検証した。しかし,妥当性は確認されず,今後の課題について論議された。
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