距離による被ばく防護は,線量が線源からの距離の二乗に反比例する逆二乗の法則に基づいている。しかし,簡易型放射線測定装置と標準・線源を用いた学生実験では,この逆二乗の法則に従わない結果が得られてきた。本研究では新しい実験システムを作製し,放射線強度と距離の関係を調べる実験を行った。そして,モンテカルロシミュレーションコードPHITSを用いて,本実験と真空中に線源と検出器だけを置いた場合の体系をモデル化してシミュレーションを行い,エネルギースペクトルを比較することで散乱γ線の影響を評価した。
ピア・インストラクション(PI)における議論で,生徒間の相互作用がどのように機能しているのかを示すことを目的として,「物理基礎」で実践したPIの議論の発話プロトコル分析を行った。分析の結果,議論が「PI成立型」,「リーダー主導型」,「未解決型」,「分裂型」,「PI失敗型」の5つのパターンに分類でき,「PI成立型」と「非成立型(「リーダー主導型」を除く「PI成立型」以外の3つのパターン)」とでは議論前後の正答率に有意な差があること,生徒の理解度と問題の正答率とが対応しているわけではないことが見出された。また,誤概念に基づく発言によってPIの議論が収束せず終了したケース,良くない影響を与えたケースなど,具体例で議論の実態を明らかにした。
2つの福島県立高校にて福島の現状と放射線についての授業を行った。授業前に行ったテスト及び意識調査の結果,基礎知識が乏しかったり放射線への危惧が大きかったりする生徒がいることが分かった。テストで誤りが多かった概念の理解が進むよう実験を中心に授業を行い,最後に地域や地元高校生の取り組みを中心に福島全体の復興のあゆみを伝えた。授業後アンケートの結果から,生徒の福島の現状についての認識を深め,かつ放射線への関心を高めることができたことが分かった。
基本実験を含めた理科教育の充実は開発途上国のラオスでも課題だが,2015年9月からラオス国立大学教育学部にJICAシニア海外ボランティアとして2年5か月派遣されていた期間,ラオス国立大教員の2名とチームを組んでラオス国内8校の教員養成校等を巡回するサイエンスキャラバンを行った。教育省教員養成局が各校に新たに配備した実験器具を用いた『物理基本実験講座』と附属小学校や児童センターで養成校の学生を中心にした『科学の祭典指導者講座』等を行い,物理教員養成支援に関する活動を実践したので報告する。
物理の授業で観察・実験が重要視される事情は昔も今も変わらない。戦後の高等学校学習指導要領の変遷を追うと,各時代の要請により物理教育が質的に変化していったようすがわかる。しかし,物理教育の理念を最も真剣に考えていたのは,一番最初の学習指導要領だったのではないか。30年間の「ゆとり教育時代」に型崩れしてしまった物理教育を再考し,再構築すべき時期が来ている。
大阪工業大学工学部の2年次生に,物理学,地球科学,生物科学の分野横断型PBL(ProblemあるいはProject-Based Learning)授業を提供し,2015年度から2018年度まで「火星移住計画」を題材にして進めてきた。そして,2019年度からは,火星の枠を飛び出して,「太陽系ツアー」をテーマにしたPBL型授業を進めている。PBL型授業は,学生の様々なスキルを広げ,さらなる可能性を持つことが認識される一方で,PBL型授業の特長や問題点を十分に意識しながら,授業を運営する必要がある。
目に見えない物理現象の学習・教授は難しい。そこで2017年以降,新しいICTであるゴーグル式の拡張現実:AR(厳密には複合現実:MR)技術によって,目に見えない物理現象を可視化する教材を開発する研究が始まっている。しかし,教材の実践に関する研究は見当たらない。本研究では,目に見えない物理現象として磁界を取り上げ,マイクロソフトHololensを用いて,これを可視化する体験学習を開発した。これを5カ国,10の学校と6の機会で実施し,実施可能であることを明らかにした。
力の作用・反作用の関係は物理学の基礎的で重要な法則である。電磁気力についても成立するが,電荷や電流だけでなく,電磁場も含めて考える必要がある。本論文では近接作用の立場から,電流と磁場の作用・反作用について考察する。特に一様磁場に直交する定常電流の場合について,応力テンソルを用いて解析した結果を報告する。また高等学校の理数探究の課題とする可能性を考える。
アインシュタインによる1916年の予言以来,人類は長らく重力波の直接観測を目指してきた。アメリカとヨーロッパの重力波望遠鏡は,2015年にブラックホール合体からの重力波を初めて直接検出し,2017年には中性子星合体からの重力波検出に成功した。さらに電磁波望遠鏡による追観測で中性子星合体からの電磁波放射が観測され,鉄よりも重い元素の約半分を合成するrプロセスが起こっていることが明らかとなった。こうして,重力波天文学,さらに重力波と電磁波を用いたマルチメッセンジャー天文学が華々しく幕を開けた。
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