1997年8月から98年5月にかけて黒部市下水処理場でユスリカの群飛行動の観察を行なった.
1.本処理場で記録された42種のうち14種がカ柱を形成して記録された.カ柱は種構成の上から3タイプあった.汚水処理水系周辺のセスジユスリカ―B. longifurca型,アクアパークのチビクロユスリカ型,場外河川のキョウトナガレユスリカ― C. bicincfus型の3型である.
2.ユスリカはそれぞれ種に特有の形状のカ柱を形成した.C. bicinctusによる飛鳥型,チビクロユスリカやヤモンユスリカは人の頭上で竜巻のような旋回の動きを示した.キョウトナガレユスリカは川面に煙幕のようなカ柱を形成した.セスジユスリカは開けた空間で少数個体の時はお手玉型,放流口の出口ではいつも円盤が回転するような水平面の激しい円運動をした.しかし群飛行動のピークには大群が一面に広がりフェンスの表面・丈の低い植物の直上でマーカー型を形成した.
3.アクアパークのカ柱の80%はチビクロユスリカに優占され通年形成された.しかし,気温12℃以下では低温抑制によって現われなかった.性比の通年の平均値は,チビクロユスリカ20.9,ヤモンユスリカ21.9,C. sylvestris19.0であった.1本のカ柱が単一種で構成されるものはなく,ある種を優占種(80%以上)とする2~4種の混合が多かったが,寡占種集団もあった.
4.放流口に多かったのは,セスジユスリカ・B. longifurca・キョウトナガレユスリカ・C. bicinctus・E. coerulescensであった.最後の3種は放流先の高橋川由来の種と考えられた.気温約10℃以下では見受けられなかった.性比は,セスジユスリカで8,8,B. longifurcaで17.3であった.
5.放流口付近で形成されるカ柱は,構成種によって,それぞれが種特有の形状と位置を示し空間的すみわけがあった.放流口の直前水路上に円盤型のカ柱が垂直方向に3層見られた.最下層にB. longifurca,中間にセスジユスリカ,最上層にキョウトナガレユスリカが形成された.日没前後の群飛行動の最盛期には,セスジユスリカの大群は放流口全体から上流・下流にまで広がり,フェンス全面を覆い,丈の低い植物の頂上にもマーカー型のカ柱を作った.これらの植物上にはE. coerulescensの小さなカ柱も散見された.ほぼ同時刻頃,土手の上にはC. bicinctusの壮大な飛鳥型のカ柱が現われた.
6.セスジユスリカの群飛行動には顕著な日周期性が見られた.5月の時点においては,日の出を挟んだ約2時間と日没前約2時間にピークを持つ2峰型を示し,日没時のピークが高かった.
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