1)新東京国際空港構内で数時間かけて採取した蚊の種類は,アカイエカ Culex pipiens pallens,トラフカクイカ Culex vorax,ヒトスジシマカ Aedes albopictus,チカイエカCulex pipiens molestus の 4種であった.この中で外国から侵入したと特定出来る種は認められなかった.
2)採取した種の中で,薬剤感受性試験を実施したのは,多数採取された2種で,空港滑走路周辺の雨水枡由来のアカイエカと空港駅地下汚水槽由来のチカイエカである.
3)薬剤感受性試験は浸漬試験で行った.供試薬剤は fenitrothion,temefos, permethrin, pyriproxyfen,その他 Bti 剤を選定した.その結果,供試したアカイエカ幼虫は2種の有機燐剤 6~8倍の抵抗性が認められた.しかしその他の薬剤 permethrin と Bti剤には抵抗性は全く認められず,pyriproxyfen についても抵抗性を示す明確な数値は得られなかった.従ってこの集団は,薬剤抵抗性の発達度合の低い低感受性の蚊集団であると思われた.
4)一方空港駅地下汚水槽から採取したチカイエカ集団は,Bti 剤を除いた4薬剤に9~35倍の抵抗性獲得が確認された.すなわちこの集団は中等度に複合抵抗性を持っている蚊集団であると云える.
5)以上の結果から,今後の薬剤による防除を考慮すると野外採取アカイエカ集団は,有機燐剤に低感受性であるがその他の薬剤にはほぼ感受性を示す集団なので,現行の薬剤を用いた用量通りの処理で効力が得られるものと思われる.もう一方の屋内採取チカイエカ集団は,中等度の複合抵抗性を獲得している集団なので,現行の薬剤を用量通りに使用しでも,効力や有効期聞が不十分であることが考えられる.また抵抗性のさらなる上昇が予測されるので,今後の対策には薬剤のローテーション処理の実施が望まれる.
6)薬剤のローテーション処理としては,グループ別に分けた薬剤群を1グループ例えば6か月間継続的に使用する.期日がきたら次のグループの製剤と交代する.このように5グループの処理が終了したら再びもとのグループに戻る.このように抵抗性を獲得している薬剤を断続的に使用することで,発生蚊を常時低密度に管理し,薬剤の抵抗性の上昇を抑制し,かつ抵抗性の低減化を促す可能性も期待したい.
7)今回の調査範囲では,幸いなことに外国からの侵入蚊に起因すると考えられる問題点は指摘されなかった.今後もこういった調査や監視を続けることは,昆虫媒介性疾病の侵入防止に繋がる意義深いものと考える.
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