殺鼠剤,ノルボルマイドによるラットの中毒過程に伴う循環系,呼吸系の機能の変化及び2,3の臓器の肉眼的変化が調査され,次の知見が得られた.
1) 本剤の一次作用は血圧の上昇作用であり,この昇圧作用は心電図,呼吸曲線に無影響な30g/kgの静脈内投与によって速やかに現れた.
2) 本剤中毒による特徴的かつ普遍的な心電図所見は,心筋の虚血性変化を示すT液の増高であった.
3) 本剤中毒後の呼吸曲線の変化から,肺換気量が減少することが明らかとなった.また,血液ガス/pHの分析からPaco2の著明な上昇と、pHの低下(呼吸性アシドーシス)が認められ,肺うっ血が肺自身の換気力学的特性を大きく変化させていると思われた.
4) 本剤中毒ラットの胸腔内諸臓器の肉眼的所見では,血管収縮によって行き場を失った血液が肺,心臓及び周辺の大動脈,大静脈に集中し,これらの部位では高度のうっ血が観察された.しかし,心実質は蒼白となった.
5) 本剤によるラットの致死経過の調査により,冠動脈を含めた全身の細動脈系の著明な収縮により,心筋及び全身組織の虚血性変化とそれによる低酸素状態を招来し,さらに肺循環の悪化による呼吸不全と心拍出力の低下が致死経過に拍車をかけることが明らかとなった.
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