財政研究
Online ISSN : 2436-3421
10 巻
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
研究論文
  • ―危機か,再建か
    岩本 康志
    2014 年 10 巻 p. 99-115
    発行日: 2014年
    公開日: 2021/10/26
    ジャーナル オープンアクセス

     本稿では,政府債務が累増した後に再建を果たすか,デフォルトあるいは高インフレによって破綻の道をたどるのか,について歴史的にどのような経験が蓄積されてきたのかを検討する。Reinhart(2010)のデータベースを利用して,政府債務残高が高水準に達した事例を抽出し,その後の帰結を「破綻」と「再建」に分類する。先進国では破綻に至る事例の割合は32%,新興国では96%となり,その帰結は大きく異なっている。先進国では第2次世界大戦以降の事例の多くが再建を果たしている。しかし,大恐慌時やそれ以前の時期には財政破綻の比率は14事例中9例と,64%に及んでいる。先進国の最近時の状況は過去とは異なるものだという解釈のモデルによると,現状のわが国のような状況から今後破綻に至る確率は35%程度であると予測される。一方,現在の先進国にも過去の経験が当てはまるという解釈では,今後破綻に至る確率は80%程度であると予測される。

  • 五嶋 陽子
    2014 年 10 巻 p. 116-142
    発行日: 2014年
    公開日: 2021/10/26
    ジャーナル オープンアクセス

     インドの支出税の失敗はカルドア勧告と支出税法との乖離によってもたらされたという先行研究を踏まえて,その乖離を生じさせたのは何かについて考察した。そこで明らかになったことは,支出税法の立法化を通じて第1に,累進付加税の代替税としての役割を全面的に押し出す動き(所得とのリンクの設定)と抑制する動き(直接税控除の設置)という相矛盾する規定が取り込まれたことである。第2に,総人口の約8割がヒンドゥー教徒で構成されるインドにおいて,ヒンドゥー未分割家族が消費の単位としてのみならず家族事業体という生産の単位でもあり,先祖継承財産の運営管理を行う単位であり,ヒンドゥー教に基づく結婚の儀式を行う主体であったことから,基礎控除,両親の扶養費控除,結婚披露費用控除を認めざるをえなかった。この乖離は建国後の国民統合を国家目標とする流れおよびヒンドゥー未分割家族の税制上の史的取扱いと合致するものであった。

  • ―デンマークとスウェーデンにおける二元的所得税の導入を事例として
    倉地 真太郎
    2014 年 10 巻 p. 143-162
    発行日: 2014年
    公開日: 2021/10/26
    ジャーナル オープンアクセス

     本稿の目的は,北欧諸国の税制改革に及ぼす北欧協力関係の影響を明らかにすることである。1980年代後半以降,北欧以外の先進諸国が包括的所得税を追求するなか,北欧諸国は二元的所得税を連鎖的に導入していった。二元的所得税は経済のグローバル化に対抗する所得税類型であるといわれている。したがって,この課税方式の波及プロセスの分析は,高い所得税収を有する北欧諸国税制がどのようにして共通する特徴を持ったのかを明らかにすると考えられる。そこで本稿では北欧諸国の協力関係に着目しながら,デンマークとスウェーデン間で二元的所得税が波及するプロセスを分析した。その結果,二元的所得税の波及には,北欧諸国の政策担当者や専門家が制度を相互参照したことが影響を及ぼしていたことが分かった。

  • ―1990年改革を中心に
    島村 玲雄
    2014 年 10 巻 p. 163-180
    発行日: 2014年
    公開日: 2021/10/26
    ジャーナル オープンアクセス

     オランダにおける1990年税制改革では,社会保険料と所得税の制度的「統合」が行われた。本稿は,この税と保険料が統合された背景を明らかにし,統合の意義について考察することを目的としている。この統合は保険料と税の一元徴収というだけでなく,課税ベースや税率構造といった点までをも統合したことが特徴として挙げられる。税改正は狭い課税ベースの是正が課題であった。さらに,パートタイム労働を積極的に推進した労働政策によって稼得世帯モデルが変化してきたことで,従来の税制と社会保険料制度に不満が出てきていた。この統合に加えて,社会保険料の事業主負担分が被用者負担となった。そのため「調整加給金」という新たな制度が導入され,使用者はそれまでの負担分に相当する額を被用者に対して賃金に上乗せする形で補償しなければならなくなった。

  • 川出 真清, 石川 達哉
    2014 年 10 巻 p. 181-198
    発行日: 2014年
    公開日: 2021/10/26
    ジャーナル オープンアクセス

     一般政府や中央政府の政策スタンスを評価する目的で利用されることの多い構造的財政収支は,地域ごとの成長率・人口構成等の多様化と分権の進展が今後見込まれる地方財政においても,その利用が拡大する可能性がある。本稿の目的は,構造的財政収支の作成に不可欠で,国・地方問わず注目される税収弾性値を都道府県別に推計・比較することである。具体的には,道府県税のうち税収ウェイトの高い個人住民税と地方法人2税(法人住民税・法人事業税)について都道府県別弾性値を推計するとともに,地方消費税についても先験的に1と仮定することはせず,全都道府県共通の推定値を得た。推定に際しては,マクロの課税ベースが分配面で相互に制約を受けることに注意を払った簡便かつ標準的な手法として,OECD等によって現在も国際的に利用されている枠組みを日本の地方政府に適用できるように拡張した。税目ごとの推計結果に基づいて税収全体の弾性値を求めると,都道府県による若干の差異はあるものの,平柊値は1.08(2006年以前)および0.95(2007年以降)となり,一般政府および中央政府を対象とする既存研究の税収弾性値に近い値を得ている。

  • 赤井 伸郎, 倉本 宜史
    2014 年 10 巻 p. 199-223
    発行日: 2014年
    公開日: 2021/10/26
    ジャーナル オープンアクセス

     本稿は,将来の港湾の整備・運営の在り方を考えるうえで欠かせない視点として,港湾連携の実態を把握するため,これまでになされた港湾投資のパネル・データから,港湾間競争とも言える国内の港湾同士の相互依存関係の実態を検証するものである。また本稿は,現状把握や分析の工夫により,これまで行われてきた港湾政策を,港湾間の競争の観点(国内の港湾同士の相互依存関係)から,その実態を明らかにする点で意義が高いと言えよう。分析の結果,港湾間で競争がなされてきたこと,また,その競争に影響をもたらす参照先や港湾規模によっては,競争の程度が異なることも見出された。国内の港湾間に競争が存在するという,この結果は,連携の必要性を示唆しており,連携に向けては,港湾間の相互参照先を考慮したうえで,補助政策を含めた,より一層の国家戦略が必要であることを示唆していると言えよう。

  • ―地域金融機関による寡占の弊害と公的資金の役割の検証
    石田 三成
    2014 年 10 巻 p. 224-241
    発行日: 2014年
    公開日: 2021/10/26
    ジャーナル オープンアクセス

     本稿では北海道内の市町村を対象として,①市町村が銀行等引受債を起債するにあたり,地域金融機関同士の競争環境が弱いと,地域金融機関の交渉力が強くなるため,銀行等引受債の金利スプレッド(対財政融資資金貸付金利)が上昇する,②公的資金のウェイトが高い地域では,公的資金が地域金融機関の競合相手として機能するため,地域金融機関による寡占の弊害が小さくなり,銀行等引受債の金利スプレッドも低下する,という2つの仮説を定量的に検証した。その結果,2つの仮説がともに支持された。主要な結論は以下のとおりである。まず,入札や見積合わせに参加する地域金融機関数が多くなるほど,銀行等引受債の金利スプレッドは低下することが明らかとなった。次に,非競争的な随意契約であっても指定金融機関以外の金融機関から資金を調達することで,わずかに金利スプレッドを引き下げることが可能である。最後に,公的資金のシェアが高い地域ほど銀行等引受債の金利スプレッドが低くなる傾向が確認され,公的資金は地域金融機関による寡占の弊害を軽減していることが示唆された。

  • 宮下 量久, 中澤 克佳
    2014 年 10 巻 p. 242-258
    発行日: 2014年
    公開日: 2021/10/26
    ジャーナル オープンアクセス

     合併特例債は「平成の大合併」を推進した財政支援策の1つであり,元利償還のうち70%を基準財政需要額に算入できるため,新自治体の負担や地方債残高の累増,財政規律の弛緩といった問題が生じる可能性が指摘されている。そこで本稿では,合併自治体における特例債と一般地方債の発行を,非合併自治体との対比から定量的に検証した。データの整理と推定を行った結果,以下の点が明らかとなった。合併自治体の9割以上が特例債を合併翌年度より毎年発行しており,一般地方債の代替的財源として活用していた。合併自治体は非合併自治体よりも1人当たり一般地方債残高を減少させており,特例債発行に伴う減少(代替)効果が確認された。また,全体的な一般地方債残高の減少を加味すると,特例債増加の影響はほぼ相殺されている。しかしながら,合併自治体の地方債残高は,特例債発行の影響から,非合併自治体と比較して増加傾向にあった。

  • 山口 隆太郎
    2014 年 10 巻 p. 259-281
    発行日: 2014年
    公開日: 2021/10/26
    ジャーナル オープンアクセス

     現代の日本において,自己決定権を失った地方行財政制度は地方自治の阻害をもたらしている。なぜ今日このような制度を持つにいたったのかについて,本稿では財政調整制度の形成過程の分析を通じて明らかにする端緒として,財政調整制度の「萌芽」とされてきた義務教育費国庫負担制度の1918年における成立と1923年の改正の過程を分析した。1908年の義務教育年限の延長により重くなっていた町村の教育費負担は,義務教育費国庫負担の要求をもたらしたが,1918年の制度成立は「教育の改善」が,1923年の改正は「軍縮」が,それぞれ主な要因となった。それは制度形成に関わった各政治的主体が,「官治的」な地主制地方支配の維持のために,中央と地方の行財政制度の再編を意図したものではなかった。また自己決定権の喪失をもたらすような,人々の「平等志向」が存在したわけでもなかった。

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