財政研究
Online ISSN : 2436-3421
13 巻
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研究論文
  • ―Lucas-Stokeyモデルにおける生産性の変化
    小林 航, 高畑 純一郎
    2017 年 13 巻 p. 117-131
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/08/28
    ジャーナル フリー

     本稿では,公債の課税平準化機能に関するLucas and Stokey(1983)のモデルから,不確実性を除去したうえで生産性をパラメータ化し,消費と余暇に関する分離可能な効用関数のもとで,最適税率が異時点間で一定になる条件を導出する。閉鎖経済では,消費の限界効用の弾力性と労働供給の限界不効用の弾力性がそれぞれ時間を通じて一定となることがその条件となる。他方,開放経済では,割引因子と債券価格が等しいという仮定のもとで,労働供給の限界不効用の弾力性が一定であることが条件となる。そして,関数型を特定化し,政府支出や生産性の変化が最適税率に与える影響を分析する。その結果,准線型関数や開放経済においても,生産性が変化する場合には最適税率はかならずしも一定とならないことなどが示される。

  • 鈴木 崇文
    2017 年 13 巻 p. 132-155
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/08/28
    ジャーナル フリー

     本稿では,2000年代に行われた三位一体改革が地方自治体の公共サービス歳出にどのような影響を与えたか分析する。まず自治体の歳出意思決定モデルを構築し,消費者需要の推定に広く用いられているAlmost Ideal Demand System(AIDS)を適用して変数の内生性を考慮したうえで行動パラメータの推定を行う。次に推定したパラメータを用いて,三位一体改革が行われなかった場合の歳出水準をシミュレートする。シミュレートした歳出水準と実際の歳出水準を比較することにより,改革が歳出に与えた影響を分析した。目的別歳出の分析からは,改革によって自治体は民生費,教育費およびその他の費目で相対的に大きい歳出の削減を行っていた。民生費は特定補助金の削減と税源移譲およびそれに伴う交付税調整の両者を原因として歳出が減少していた一方で,教育費とその他では前者の影響は小さく,主に後者の影響によって歳出の減少がもたらされたことが明らかになった。また,農林水産費,商工費および土木費では前者と後者の歳出に与える影響は相殺する方向に働いていた。

  • 栗田 広暁
    2017 年 13 巻 p. 156-176
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/08/28
    ジャーナル フリー

     本稿では,所得税および住民税において2011年以降実施された年少扶養控除廃止・特定扶養控除縮減による実質的な増税が,家計の消費行動に与えた影響について,「日本家計パネル調査(Japan Household Panel Survey:JHPS)」の個票パネルデータを用いて検証する。分析では,JHPSで調査している1月の非耐久消費財の支出額(食料費,外食・給食費,光熱・水道代,交通費の4項目,それらの合計額)と1月分の増税額の関係を検証した。その結果,すべての分析結果において増税によって家計の消費は変化しないことを支持する結果が得られた。これは,家計が恒常所得仮説に従い,増税に対して消費の平準化を行って消費水準を変えなかったことを示唆するものである。

  • 掛貝 祐太
    2017 年 13 巻 p. 177-197
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/08/28
    ジャーナル フリー

     1990年代のスイス財政は債務残高増加のなかで緊縮路線・新自由主義路線を基調としていた。同時期の欧州では地方政府の実質負担増がみられるが,90年代に議論されたスイスの財政調整制度改革(NFA)は,最終的にむしろ財源力の弱い州からの支持を集めて成立した。この政治的過程について連邦・州間の合意形成に焦点を当て,制度・歴史・政治的考察を図ることで,当初の目標から部分的に乖離しながら政治的妥協と協調が前景化する過程を追跡し,なぜ極端な地方政府の弱体化を避けることができたのかを明らかにする。

  • 島村 玲雄
    2017 年 13 巻 p. 198-217
    発行日: 2017年
    公開日: 2021/08/28
    ジャーナル フリー

     本稿は,1982年のワセナール合意を契機とする「オランダモデル」による経済回復において,財政制度がどのように変化し,どのように「成功」に寄与したのか,財政の視点から再検討するものである。政労使の政策協調による雇用政策として知られるオランダモデルに対し,財政再建が課題であったルベルス政権,コック政権の2つの政権がいかなる財政改革を行ったのか,制度の視点から明らかにした。その結果,両政権の財政再建策の手法は異なるものであったが,その後の経済回復への貢献は大きいものであった。またオランダモデルとして理解される新たな雇用制度が単独で機能したというわけではなく,政府による抜本的な財政改革によって実現したと理解されるべきものであった。

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