財政研究
Online ISSN : 2436-3421
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研究論文
  • ―各税制改正が与えた影響のマイクロシミュレーション分析
    土居 丈朗
    2023 年 19 巻 p. 85-108
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/12/04
    ジャーナル フリー

     本稿では,日本で2010年代に実施された所得税制の累次にわたる改正(所得税改革)が所得格差に及ぼす影響を,「日本家計パネル調査(JHPS/KHPS)」の個票データを用いたマイクロシミュレーション分析により明らかにする。本稿の対象は,各種所得控除の見直し,配当・譲渡所得課税の軽減税率廃止,所得税の最高税率の引上げなどである。

     一連の所得税改革により,等価世帯可処分所得のジニ係数は0.3278から0.3253に低下し,所得格差が縮小したことが確認された。また,各税制改革のうち所得再分配効果が最も大きいのは,2020年所得に対する税制改正とそれに連動する社会保障制度の改正だった。所得税改革を通じた所得再分配効果の要因として,税率効果よりも課税ベース効果の方が大きかった。ただ,ジニ係数の低下が限定的だったのは,所得税改革で税額控除は拡大させず所得控除の縮小にとどまったためと考えられる。

  • ―増値税の源泉地主義について
    徐 一睿
    2023 年 19 巻 p. 109-130
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/12/04
    ジャーナル フリー

     本稿では,中国の地方税制度,特に共有税に焦点を当て,増値税,個人所得税,企業所得税の3つの共有税における地域間の格差を分析している。さらに,地方の自主財源であった営業税が増値税に統合された後の地域間格差の変動についても調査している。これらの調査は都市の税収データをもとに行っている。さらに,地方政府の最大の税収源である増値税の源泉地主義に注目し,営業税(地方政府の独自税源)が増値税(共有税)に統合される前後での,生産活動が行われた場所への税収還元と消費活動が行われた場所の税負担の乖離がどのように変化したかを推計している。

  • 足立 泰美
    2023 年 19 巻 p. 131-154
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/12/04
    ジャーナル フリー

     本稿は,国の長期債務対GDP比が高まるなかで起こる臨時財政対策債の債務水準の上昇が,地方公共団体の市場公募地方債を利用した資金調達に及ぼす影響を明らかにする。臨時財政対策債は,将来の地方交付税で措置が可能となるが,見込めない場合には,交付税から負債へと変わり,各団体の債務発行に対して垂直的外部性が発生するおそれがある。現行のマイナス金利政策によって国債の利回りが低下し,地方債の利回りに影響をもたらす可能性が高い。推計結果より,マイナス金利の導入以降,臨財債標準財政規模比および臨財債標準財政規模比(交差項)とスプレッドには有意性が認められた。このことから,投資家は臨時財政対策債の増発を各団体のリスクとみなしスプレッドを拡大させるが,国の長期債務残高対GDP比に対して臨時財政対策債現在高の対標準財政規模比を考えた場合に,国債より利回りが期待される地方債の信用力が高まり,スプレッドが小さくなる傾向が示唆された。

  • 中野 英夫, 稲岡 亮
    2023 年 19 巻 p. 155-166
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/12/04
    ジャーナル フリー

     本稿は,急速な少子化と教育財政の分権化が,公立義務教育諸学校の正規・非正規教職員の任用とその管理運営に及ぼす影響について実証的に明らかにした。近年,非正規教職員の増加が著しい要因として,本稿は正規教職員を過大に抱えるリスクに着目し,これを回避するための教職員の管理運営行動の観点から分析を行った。

     義務教育費国庫負担制度においては,国は基礎定数と加配定数からなる教職員定数を定め,これを国庫負担の対象としている。地方による教職員の任用は,少子化の進展と加配定数の配当の不確実性から,正規教職員数は児童数等に応じて算定する基礎定数を目安として管理され,個別の教育課題に応じて配当する加配定数については非正規教職員の任用・充当によって教職員人件費の流動化がはかられている。

     基礎定数と正規教職員数の比率が,各都道府県で一定の比率に収束するかをβ収束の概念を用いた回帰式によって推計した結果,収束を示す係数の符号は負で統計的に有意であり,各都道府県の正規教職員数は,長期的に基礎定数に等しいか,これを下回る水準を目標に管理運営されていることを実証的に明らかにした。

  • ―2006年の税制改革におけるアクターの影響
    高山 寛
    2023 年 19 巻 p. 167-189
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/12/04
    ジャーナル フリー

     ノルウェーは1992年の税制改革で二元的所得税を導入している。ただし,1992年以降,2006年と2016年に税制改革が実施され,二元的所得税は修正されていく。本稿では2006年の税制改革に焦点を当てているが,同改革の主な変更点は,公平性の改善を目的としたスプリット・モデルの廃止とシェアホルダー・モデル(株主所得税)の導入であった。同改革において,なぜ二元的所得税の原則が維持されたのかをアクターの主張を時系列で観察し,Hackerの政策転換をもとに考察した。ノルウェー政府は,二元的所得税の当初の効率性を重視した制度から公平性を重視する制度に制度転換を試みる。政治的環境の現状バイアスは低いが,制度転換に対する抵抗が強く,二元的所得税の原則から外れる政策を一度実施するも失敗に終わる。その後,根本的な制度転換をせず「制度併設」という改革形態で制度の効果を根本から変化させている。このようにして,二元的所得税の原則は逸脱せず維持されたのである。

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