財政研究
Online ISSN : 2436-3421
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研究論文
  • 宮錦 三樹, 木村 真樹
    2022 年 18 巻 p. 79-103
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/10/17
    ジャーナル フリー

     少子化や労働力人口の減少が進む日本では教育支出の充実が求められている。公教育支出と民間教育支出はお互いに影響を与えていると考えられ,より効率的な教育投資を実現するには,公的部門と民間部門を統一的視点から分析する必要があるが,日本において,そうした研究は少ない。本稿では,公的部門と民間部門の教育支出の相互関係について,民間部門の教育支出を選択余地の大小から3つに分類し,1975~2018年度の長期時系列データを用いてVARにより検証を行った。約40年間を通した分析と,公的・民間部門ともに教育支出の拡大傾向が鈍化し始めた2000年度を境に期間を区切って分析した結果,サンプルサイズが限られているため結果は幅を持って見る必要があるが,1999年度以前は民間教育支出が公教育支出に正の影響を,2000年度以降は負の影響を与える可能性が示唆された。一方で,公教育支出が民間教育支出に影響を与えるクラウド・アウトは確認できなかった。

  • ―ラッファーの減税提案を中心に
    松井 克明
    2022 年 18 巻 p. 104-125
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/10/17
    ジャーナル フリー

     アメリカ・カンザス州は2012年と2013年に成長促進のための大規模な税制改革を行い,パススルー事業体などによる非賃金事業所得への課税を除外した。しかし,州経済は改善しなかったため,2017年,改革は見直された。カンザス州の「大いなる実験」とも称される改革の背景には,州共和党内の2つの勢力の動きや,レーガン連邦政権におけるアドバイザー的な役割を果たし,「サプライサイド経済学の父」ともされるラッファーやアメリカ立法交流評議会の影響がある。一連の改革の結果,州財政においては売上税の比重が,郡財政においては地方財産税の比重が増したことを明らかにした。

  • 沓澤 隆司, 赤井 伸郎, 竹本 亨
    2022 年 18 巻 p. 126-148
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/10/17
    ジャーナル フリー

     新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行は,感染を防ぐための都市内におけるソーシャル・ディスタンスの確保やテレワークの推奨などを促し,その結果として住宅や商業施設,オフィスへの需要が変化する可能性がある。そして,この変化は住宅地や商業地の地価に反映されると考えられる。

     そこで,COVID-19の人口当たり感染者数や死亡者数の違いが,住宅地や商業地に対する選好の変化を通して地価にどのような影響を与えたかについて,地価公示のパネルデータをもとに,感染者数等の内生性を踏まえた操作変数を用いた固定効果分析を行った。

     分析の結果,①COVID-19の人口当たり感染者数や死亡者数が多い地点ほど流行後の地価の下落度合は大きい,②容積率が高く土地利用が高度化している地点ほど感染による地価の下落度合は大きいことが明らかとなった。

  • ―イギリスを事例として
    西村 拓哉
    2022 年 18 巻 p. 149-171
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/10/17
    ジャーナル フリー

     2010年代までの世界の法人税率は,引下げ傾向が続くなかで,イギリスは,2010年代の与党保守党が大幅な法人税率の引下げを実施し,これが日米等の税率引下げに影響を与えたが,2021年3月予算で約半世紀ぶりに法人税率の引上げを決定した。本稿では,「底辺への競争」を主導する国であったイギリスによる法人税率引上げを検討した。

     法人税改正の主要事項は,法人税率の引上げおよび時限的な特別償却制度の導入である。当該改正は,イギリスのユニークな政治的意思決定制度のなかで,先行研究で想定されていた政権交代に起因する政策の大幅な変更によるものではなく,保守党内閣の方針変更による改正であった。この改正がなされた背景として,国際税制の動向および,コロナ禍という外生的ショック,EU離脱後のイギリス経済の方向性という国内問題があったことが,議会での議論からわかった。

  • 田代 歩
    2022 年 18 巻 p. 172-195
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/10/17
    ジャーナル フリー

     本稿では,年齢階級別の視点から限界的消費税改革を評価することを目的として,DCD曲線を用いて分析を行った。「保健医療」の減税と他の費目の増税を組み合わせた限界的消費税改革のシミュレーション分析を行った点が本稿の大きな特徴である。分析の結果,所得階級別と年齢階級別では,望ましい限界的消費税改革が異なることが検証された。とくに,年齢階級別において「保健医療」を減税する場合,「食料」「家具家事用品」「教養娯楽」「その他の消費支出」の増税による組み合わせが望ましいことが明らかになった。

     本稿の分析結果より,今後,少子高齢化社会において年齢階級別の視点から低所得者世帯を対象として必需品と考えられる「保健医療」を減税できるのであれば,「食料」「家具家事用品」「教養娯楽」「その他の消費支出」のいずれの増税も望ましく,これらを組み合わせた限界的消費税改革を検討する余地も残されていると考えられる。

  • 安永 雅
    2022 年 18 巻 p. 196-222
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/10/17
    ジャーナル フリー

     本稿は,ミード報告の改革案の検討を通して,支出税理論の再検討を行い,税制改革案と租税理論との関係について考察する。ミード報告を理論書としてのみ扱うのではなく,その実践的側面に注目し,かつミードの財政思想を踏まえることで,この報告書の改革案が3つの要素のコンビネーションであったこと,支出税の根拠は公平性などの租税原則に基づいたものではなく,経済停滞打破という具体的なものであったことを明らかにする。一方で日本の支出税論においてはミード報告が頻繁に言及され,税制改革案として支出税の研究も進んだが,原則論に基づいた評価がおもであり,公平性の観点からミード報告は評価されてきた。このような,改革案の形成やその後の解釈における支出税像の相違は,支出税の理論的優位性が一義的に定まるものではなく歴史的状況に大きく依存していることを示唆している。

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