静脈学
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17 巻, 5 号
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巻頭言
総説
  • 杉本 貴樹
    2006 年 17 巻 5 号 p. 265-269
    発行日: 2006年
    公開日: 2022/07/06
    ジャーナル オープンアクセス

    過去5年間に当院で経験した,他科手術に伴う静脈合併病変に対する手術は9例で,年齢41~76(平均62)歳,男8例,女1例であった.膵腫瘍の門脈浸潤4例に対しては,1例が単純遮断,3例がアンスロン®バイパスチューブによるシャント(上腸間膜静脈―大腿静脈)下に腫瘍切除とともに門脈・上腸間膜静脈合併切除・再建(端々吻合3例,浅大腿静脈による置換1例)を行った.このうち1例ではePTFEによる浅大腿静脈置換部が術後早期血栓閉塞したため,対側大伏在静脈にて再建した.腎癌の下大静脈浸潤3例に対しては,腫瘍切除とともに下大静脈内腫瘍栓の摘出を行った.後腹膜線維症による尿管・腸骨静脈閉塞例に対しては腫瘍生検,尿管剥離に加え,著明な静脈圧上昇による下肢腫脹に対し外腸骨静脈―下大静脈バイパス(14mm ringed ePTFE)を行った.子宮筋腫圧迫による腸骨大腿静脈血栓症に対しては一時留置型下大静脈フィルター挿入下に筋腫摘出術を行った.しかし,術後フィルターの90゜捻転と多量の血栓捕獲が確認されたため,手術的にフィルターの摘出を行った.結果は腎癌症例と膵体部癌の1例を原疾患の転移で術後4カ月~1年4カ月で失ったが,他の5例(膵頭部癌2例を含む)は術後6カ月~5年を経過した現在,外来通院中であり,良性疾患の3例では良好なQOLが得られている.

症例
  • 渡辺 正明, 近藤 俊一, 若松 大樹, 猪狩 次雄
    2006 年 17 巻 5 号 p. 271-274
    発行日: 2006年
    公開日: 2022/07/06
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は64歳,男性.小脳梗塞の診断で入院中,心雑音を指摘され,大動脈弁閉鎖不全症と診断された.当院で大動脈弁置換術を施行したが,術中左腕頭静脈の存在は確認できなかった.術後遠隔期の左肘静脈からの造影では,左上大静脈遣残や副半奇静脈,肋間静脈などの胸腔内静脈との交通が造影されず,左上肢の静脈還流は,左総頸静脈から頭蓋内の静脈交通を介し右総頸静脈から上大静脈を経て右心房に還流する稀な形態を示していた.既往に左上肢の浮腫はなく,静脈性高血圧症は否定されたが,左上肢静脈血の頭蓋内還流と小脳梗塞発症との明らかな因果関係は不明であり,今後注意深い経過観察が必要である.

  • 内田 智夫
    2006 年 17 巻 5 号 p. 275-280
    発行日: 2006年
    公開日: 2022/07/06
    ジャーナル オープンアクセス

    ウロキナーゼの局所持続注入が奏効した鎖骨下・腋窩静脈血栓症を経験したので報告する.【症例1】43歳女性.マッサージを受けた翌日より右上肢の腫脹が出現し,発症後3日目に受診.右肘窩よりカテーテルを挿入して造影したところ鎖骨下静脈の閉塞を認めた.カテーテルの先端と側孔が血栓に当たるように留置し,ウロキナーゼ24万単位とヘパリン1万単位を24時間で持続注人した.3日後の造影検査では一部血栓が溶解し上肢の腫脹も軽減した.【症例2】16歳男性.左投げ野球投手.左上肢の腫脹が出現し,発症後2日目に受診.左肘窩より造影検査を施行し,鎖骨下静脈血栓症と診断.症例1と同様の局所持続注入を施行した.5日目の造影で血栓は一部溶解しており腫脹も軽減した.父親に左下肢深部静脈血栓症の既往があり,AT Ⅲ活性が本人と父親ともに低く,type ⅡのAT Ⅲ欠乏症と診断した.2例とも現在ワーファリンを服用中である.上肢静脈血栓症はまれだが,急な上肢の腫脹が出現した場合はそれを疑い,早急に診断治療を行うことが重要である.

  • 渡部 芳子, 重松 宏, 小櫃 由樹生, 小泉 信達, 槇村 進, 岩橋 徹, 内山 裕智, 山本 謙吾, 松岡 宏昭, 服部 宏行
    2006 年 17 巻 5 号 p. 281-286
    発行日: 2006年
    公開日: 2022/07/06
    ジャーナル オープンアクセス

    血管合併切除を伴う大腿部悪性骨・軟部腫瘍の患肢温存手術における静脈再建の必要性について,静脈切除を要した2症例の経験を,文献的考察を加えて報告する.症例1は浅大腿静脈の切除を要したが組織の切除範囲が小さく,大腿深静脈,大伏在静脈ともに温存可能であり,浅大腿静脈再建は施行しなかったが下肢腫脹もなく良好に経過した.症例2は,広範な筋群切除に加え大腿―浅大腿静脈および大伏在静脈の切除も伴ったため,大腿―浅大腿静脈をePTFEで再建した.大腿深静脈は再建困難にて結紮した.術後は腫脹が持続し,4カ月後に再建静脈の閉塞が認められたが,静脈血は大腿深静脈―内腸骨静脈系を介して遠流していた.重篤なうっ滞性障害は認めなかった.静脈再建の長期開存率は不良であるが,側副血行路発達までのつなぎの意義はあると考えられ,大腿深静脈の温存が不可能な場合,および大腿深静脈が温存可能でも大量の組織が切除され大伏在静脈をはじめとする皮静脈系が温存不可能である場合には,再建が望ましい.ePTFEも,再建材料の選択枝になりうる.

  • 村上 厚文, 加藤 盛人
    2006 年 17 巻 5 号 p. 287-291
    発行日: 2006年
    公開日: 2022/07/06
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    症例は63歳,女性.約13年間に及ぶ慢性静脈鬱滞症,下肢静脈瘤に対し加療を受けるも軽快せす,さらに最近4年間で両側の難治性下腿潰瘍がさらに悪化したため受診となった.来院時両下腿の著明な腫脹,感染を伴った潰瘍形成,色素沈着,皮膚硬化を認めた.直ちに局所の薬浴,デブリードマン,強力な圧迫療法を開始,同時に順行性および逆行性静脈造影検査,エコー検査などの評価を行った.深部静脈はKistner分類Ⅲ度の逆流を認めた.潰瘍形成部分の不全交通枝評価が難しく初回手術として大伏在静脈高位結紮術および,膝直下部分までの不全交通枝結紮術,静脈瘤切除術を行った.二期的に潰瘍部分に存在する不全交通枝の評価後,結紮処理を行い軽快せしめることができた.われわれは深部静脈の弁不全が関与していても,鬱滞の原因と潰瘍に関与する不全交通枝が完全に処理できれば治癒可能という方針の下に治療を行ってきたので,若干の文献的考察を加えて報告する.

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