静脈疾患は臨床的にはたいへんありふれた病気であるが,疾患単位としては少ない.静脈瘤と静脈血栓症を合わせると臨床的な静脈疾患の90%になる.静脈疾患の臨床的重要性は次の2点である.第1は血管内血栓症と塞栓症を引き起こすため,肺塞栓症や肺梗塞に結びつくことである第2に静脈血栓症,狭窄,異常拡張は結果として静脈弁の閉鎖不全を起こし,静脈うっ滞の原因となることである.古くから肺塞栓症といえば急死の原因として有名な急性肺塞栓を意味してきたが,線溶療法などの進歩もあって,むしろ肺高血圧を呈する肺血栓塞栓症が近年注目を浴びている.本症は内科的治療に極めて抵抗性であり,最近では欧米を中心に外科的に器質化肺血栓塞栓症を摘出することが行われ,良い成績をおさめつつある.日本病理剖検輯報による25年前までの統計では,全剖検例に対する肺梗塞の比率は1.5%であった.国立循環器病センター病理部門での,昭和53年から平成2年までの過去14年間の剖検例1,700例中,肺血栓塞栓症が確認された症例が188例(10.7%),肺梗塞を伴っていた症例が81例(4.8%)であり,急激に増加していることが理解できる.その後の検討では18%にまで上昇している.本総説では,(1)血栓の形成機序,(2)深部静脈血栓症,(3)肺血栓塞栓症,(4)肺梗塞,(5)慢性肺高血圧性血栓塞栓症,(6)肺動脈内膜剥離術,などについてこれまでのデータをまとめ,今後の方向性などを探った.
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