静脈学
Online ISSN : 2186-5523
Print ISSN : 0915-7395
ISSN-L : 0915-7395
21 巻, 1 号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
巻頭言
総説
  • 由谷 親夫
    2010 年 21 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2010年
    公開日: 2022/07/30
    ジャーナル オープンアクセス

    静脈疾患は臨床的にはたいへんありふれた病気であるが,疾患単位としては少ない.静脈瘤と静脈血栓症を合わせると臨床的な静脈疾患の90%になる.静脈疾患の臨床的重要性は次の2点である.第1は血管内血栓症と塞栓症を引き起こすため,肺塞栓症や肺梗塞に結びつくことである第2に静脈血栓症,狭窄,異常拡張は結果として静脈弁の閉鎖不全を起こし,静脈うっ滞の原因となることである.古くから肺塞栓症といえば急死の原因として有名な急性肺塞栓を意味してきたが,線溶療法などの進歩もあって,むしろ肺高血圧を呈する肺血栓塞栓症が近年注目を浴びている.本症は内科的治療に極めて抵抗性であり,最近では欧米を中心に外科的に器質化肺血栓塞栓症を摘出することが行われ,良い成績をおさめつつある.日本病理剖検輯報による25年前までの統計では,全剖検例に対する肺梗塞の比率は1.5%であった.国立循環器病センター病理部門での,昭和53年から平成2年までの過去14年間の剖検例1,700例中,肺血栓塞栓症が確認された症例が188例(10.7%),肺梗塞を伴っていた症例が81例(4.8%)であり,急激に増加していることが理解できる.その後の検討では18%にまで上昇している.本総説では,(1)血栓の形成機序,(2)深部静脈血栓症,(3)肺血栓塞栓症,(4)肺梗塞,(5)慢性肺高血圧性血栓塞栓症,(6)肺動脈内膜剥離術,などについてこれまでのデータをまとめ,今後の方向性などを探った.

  • 國吉 幸男
    2010 年 21 巻 1 号 p. 9-16
    発行日: 2010年
    公開日: 2022/07/30
    ジャーナル オープンアクセス

    58例のBadd-Chiari症候群(BCS)に対して,直視下に閉塞下大静脈,肝静脈の再開通を行った.2例を手術で失った(手術死亡率;3.4%).術後退院時にはIVC圧の低下,肝機能の改善を認め,また可及的多くの肝静脈の再開通により術前の門脈圧亢進症が改善して食道静脈瘤の消失を12例で認めたさらに術後遠隔期においても5例で食道静脈瘤の消失を確認した.術前後を通じて14例に肝細胞癌(HCC)の合併を認め,うち術前から合併を診断されていた3例はBCS直視下手術時に肝部分切除術を併施した.術後遠隔期に発症した11例中,2例はtrans-catheter chemoembolization(TAE)を行い,8例に対してはTAE後肝部分切除を行った.術後遠隔期において15例を,肝不全(n=2),HCC (n=2), Behçet病関連死(n=2),ほか(n=9),であり,術後最長29.7年までの累積生存率は5,10,15,20,25年には,87.2%(n=37),74.9%(n=22),64.3% (n=17),60.5%(n=8),39.7%(n=1)であった.これをHCC合併症例群(n=14),非合併群(n=40)の両群に分けて比較すると有意差を認めず,術後遠隔期においても綿密な術後経過観察によりHCC合併症例においても良好な経過を示すことが明らかとなった.

  • 小泉 淳, 橋本 毅, 明神 和紀, 折井 正博, 西部 俊哉
    2010 年 21 巻 1 号 p. 17-27
    発行日: 2010年
    公開日: 2022/07/30
    ジャーナル オープンアクセス

    下肢静脈疾患に対し,足背静脈からの駆血下の上行性下肢静脈造影により深部静脈血栓症(DVT)や静脈瘤の原因となる不全交通枝が,またその後の足踏み運動により伏在静脈などからの表在静脈瘤への逆流や深部静脈弁不全も判明する.しかしながら複雑な重なり合いから不全交通枝の同定は時に困難であり,被曝,造影剤の腎毒性・抗原性,迷走神経反射などは侵襲的である.一方SSFP法によるMRIでは,造影剤を使用することなく全血管像を描出可能である.DTI法ではDVTのagingが可能であり,少量のGd製剤静注により陰影欠損・血管閉塞像として血栓を検出でき,壁在血栓・口峡不整や側副路形成所見の描出から血栓後遺症の診断も可能となりつつある.肺血栓塞栓症に関しては急性期患者管理がMRIでは難しく,DVTや鑑別診断も併せて迅速に診断可能なCTの有用性が高い.肺動脈・下肢静脈造影は血管内治療の手段として応用されつつある.

  • 星 俊子, 蜂谷 貴, 叶内 哲, 松本 寛子, 上田 みゆき
    2010 年 21 巻 1 号 p. 29-26
    発行日: 2010年
    公開日: 2022/07/30
    ジャーナル オープンアクセス

    静脈血栓塞栓症の診断にMDCTは欠かせないものとなっている.適切な撮影と読影がなされれば,多くの場合は診断が確定できる.また,CTの結果を判断するには臨床的な情報を合わせてするということも重要である.CTを用いて静脈血栓塞栓症の診断をする際の注意点について要点を述べた.

  • 平井 正文, 新美 清章, 岩田 博英, 杉本 郁夫, 石橋 宏之, 太田 敬, 中村 久子
    2010 年 21 巻 1 号 p. 37-43
    発行日: 2010年
    公開日: 2022/07/30
    ジャーナル オープンアクセス

    上肢リンパ浮腫と下肢リンパ浮腫の病態の違いと,アンケート調査に基づく弾性ストッキング,スリーブへの患者の不満の検討から,弾性着衣の臨床応用について考察を加えた.弾性着衣のコンプライアンスが低いことから,その改良と患者教育が継続使用のために大切である.

  • 平井 正文, 新美 清章, 宮崎 慶子, 岩田 博英, 杉本 郁夫, 石橋 宏之, 太田 敬, 中村 久子
    2010 年 21 巻 1 号 p. 45-51
    発行日: 2010年
    公開日: 2022/07/30
    ジャーナル オープンアクセス

    リンパ浮腫治療のなかで圧迫療法は大きな比重を占めている.そのなかでも弾性包帯はリンパ浮腫治療に欠かせない治療法であるが,最近はとくに多層包帯法がしばしば臨床応用されている.多層包帯法には下肢への圧迫圧が比較的均一になること,緩みにくく長時間圧迫圧が低下しにくい利点がある.しかし,一定かつ正確な圧迫圧を得ることが難しく,美容的に外観がよくないという短所もある.リンパ浮腫治療においては,長所と短所を考えて圧迫療法を選択することが大切である.

原著
  • 広川 雅之, 栗原 伸久
    2010 年 21 巻 1 号 p. 53-59
    発行日: 2010年
    公開日: 2022/07/30
    ジャーナル オープンアクセス

    フォーム硬化療法は1939年にMcAuslandが初めて報告し,2001年にTessariらが発表した作製方法が最も広く行われている.われわれの施設で行っているフォーム硬化療法の手技を標準化した“簡単”フォーム硬化療法を報告する.【対象】2008年1月より12月までにフォーム硬化療法を施行した522例を対象とした.【方法】一定の条件で行うフォーム硬化療法を“簡単”フォーム硬化療法とした.条件は1)硬化剤の濃度は0.5%,2)硬化剤の量は最大10 ml,3)穿刺部位は3カ所,4)治療後の圧迫は弾性ストッキングとした.【結果】計643回のフォーム硬化療法を施行した.対象疾患は下肢静脈瘤627回,血管腫7回,その他9回であった.平均硬化剤量は8.7 mlであった.重篤な合併症は認められなかった.【まとめ】手技を標準化した簡単フォーム硬化療法は,下肢静脈瘤の治療において非常に有用であると考えられた.

  • 中川 登, 伊藤 孝明, 武井 怜子
    2010 年 21 巻 1 号 p. 61-69
    発行日: 2010年
    公開日: 2022/07/30
    ジャーナル オープンアクセス

    Klippel-Trenaunay症候群(KTS)は片側肢の「血管腫・VM」,異常静脈/静脈瘤,軟部組織/骨の過形成を3徴とする比較的稀な先天性の疾患である.兵庫医科大学皮膚科で2007年度1年間に診療を行ったKTSは男性6例,女性5例,年齢は2歳から69歳であった.KTSの3徴のうち「血管腫・VM」は10/11例(90.9%),異常静脈/静脈瘤は11/11例(100%),軟部組織/骨の過形成は5/11例(45.4%)であった.7例に外科的治療を,4例に保存的治療を行い,整容的にも機能的にも良好な結果を得た.

症例
  • 内田 智夫
    2010 年 21 巻 1 号 p. 71-76
    発行日: 2010年
    公開日: 2022/07/30
    ジャーナル オープンアクセス

    【症例1】83歳男性.右肘窩部の腫瘤を自覚して受診.肘正中皮静脈が最大径約2cmに紡錘状に拡張していた.血管造影検査を行ったところ,上腕動脈から比較的早期に腫瘤を介して静脈が造影され,微小な動静脈瘻の存在が疑われた.局所麻酔下に腫瘤を切除した.病理所見は動脈系と静脈系血管の混在がみられarteriovenous malformationと診断された.【症例2】59歳女性.左肘窩部の腫瘤を自覚して受診.最大径約2cmの扁平円盤状を呈していた.超音波検査では内部に隔壁を有し,静脈との交通が確認された.局所麻酔下に腫瘤を切除した.病理所見は肥厚した血管壁を有したvenous malformationと診断された.2症例はいずれも病理学的には形成異常であり,生下時よりあった無症候性の小さな腫瘤が徐々に増大したものと推測される.しかし,患者本人の申告では採血を繰り返ししたことが誘因となっており,成人してからの発症であることから後天的な要因を否定しきれない.きわめてまれではあるが,針穿刺が誘因となって無症候性の小さな血管形成異常が増大した疑いがある.同一部位への針穿刺はなるべく避けることが望ましいと考えられる.

委員会報告
feedback
Top