静脈学
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30 巻, 3 号
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総説
  • 北川 晃, 成田 晶子, 松永 望, 池田 秀次, 泉 雄一郎, 萩原 真清, 太田 豊裕, 古川 洋志, 鈴木 耕次郎
    2019 年 30 巻 3 号 p. 299-304
    発行日: 2019/11/29
    公開日: 2019/11/29
    ジャーナル オープンアクセス

    静脈奇形は,胎生期における血管内皮細胞の低形成などで静脈成分が拡張し,海綿状・囊胞状に拡張した静脈腔を有する低血流の血液貯留性病変である.無症状の場合は経過観察でよいが,疼痛・腫脹などの症状を有する場合は治療が考慮される.硬化療法は内腔の存在する病変で有効率が高く,外科的切除よりも低侵襲でもあることから,静脈奇形治療の第一選択と考えられている.本邦では硬化剤として,無水エタノール,ポリドカノール,モノエタノールアミンオレイン酸塩が用いられることが多い.近年の画像診断装置やIVR(Interventional radiology)治療器具の進歩に伴い,IVR治療が有効との報告が成されてきている.本稿では静脈奇形の分類とIVR治療の実際を,自験例を交え概説する.

原著
  • 草川 均, 小津 泰久, 井上 健太郎, 駒田 拓也, 片山 芳彦
    2019 年 30 巻 3 号 p. 259-265
    発行日: 2019/08/19
    公開日: 2019/08/19
    ジャーナル オープンアクセス

    現在大伏在静脈型の下肢静脈瘤の標準治療としては血管内焼灼術が主体となっている.その背景として,欧米では大伏在静脈ストリッピング時の深部静脈接合部高位結紮後にできる新生血管に起因する再発率の高さが強調されてきたが,日本では同様の中長期成績はほとんど示されていない.今回,血管内焼灼術が自分の選択肢になかった2011年9月~2014年3月に,自身が術者として同一手技で行った大伏在静脈ストリッピング症例連続305例413肢に5年後連絡を取り,うち連絡のついた生存例287例391肢で再発,再手術について調査した.臨床症状を有する再発は29肢(7%),うち再手術は調査後に行った15肢を含め23肢(6%)であった.270肢(69%)に静脈エコーを施行して再発部位を分析した結果,とくに深部静脈接合部付近の再発に限ると,臨床症状を有する再発は3肢(新生血管2肢,高位結紮遺残部側枝1肢)で,そのうち再手術は1肢と,欧米の諸報告よりかなり少なかった.

  • 大賀 勇輝, 杉山 悟, 松原 進, 因來 泰彦, 松永 匡史, 進藤 明
    2019 年 30 巻 3 号 p. 279-283
    発行日: 2019/09/05
    公開日: 2019/09/05
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    変形性膝関節症を合併した下肢静脈瘤の患者で,血管内治療の術後に膝関節症状が改善することをしばしば経験する.下肢静脈瘤の治療における両疾患の相互関係を知ることは,下肢静脈瘤の手術適応を決定する上で重要であると考え,自覚症状の改善度を評価するために問診票による調査を行った.2014年12月から2015年5月までの6カ月間および2018年10月から2019年3月までの6カ月間の計12カ月間に変形性膝関節症を合併した下肢静脈瘤の患者35例(男性7例,女性28例)を対象とした.変形性膝関節症を進行度別に分類し,血管内治療後の膝関節症状の改善度について比較検討した.進行度が高くなると改善度が低くなるが,すべての病期において改善を示した症例が認められ,全体では25例(71.4%)の患者で膝関節症状が改善した.変形性膝関節症を合併した症例は,膝関節病変の進行度にかかわらず,下肢静脈瘤の手術治療を行うことを推奨したい.

  • 田村 尚三, 山本 麻衣, 北川 敦士, 長尾 俊彦
    2019 年 30 巻 3 号 p. 285-293
    発行日: 2019/09/25
    公開日: 2019/09/25
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    われわれは,肺塞栓症(PTE)の院内発症回避を目的に,多職種からなる深部静脈血栓症(DVT)予防チームを結成後,DVT予防プロトコルを策定し,全診療科にて運用した.当院のプロトコルは,16歳以上の患者の入院当日に看護師がWell’s score for DVTを用いてDVTの臨床的可能性を判定することから始まり,Well’s score≧2点(高確率)ならDVTを精査し,Well’s score≦1点(低確率)ならDVT発症リスク評価を行った後に予防対策を行う.プロトコル運用前後の9カ月間,約3,000名の患者を対象に後ろ向きに調査した結果,DVT診断率は運用前0.06% vs運用後0.56%(p=0.0017)とプロトコル運用後に有意に上昇した.一方,PTEの発症率には差がなかった.当院のDVT予防プロトコルとDVT予防チームによる多面的な介入はDVT診断率を上昇し,早期にDVT治療を行ったことで,PTEの未然回避に有用であった.

  • 本間 香織, 加賀山 知子, 小泉 伸也, 久米 博子, 岩井 武尚
    2019 年 30 巻 3 号 p. 295-298
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/10/25
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    バージャー病は慢性動脈閉塞症の代表的疾患であるが,逍遥性静脈炎などの静脈病変が伴うという特徴がある.そこで今回,当センターを中心に経験した11年間の34例67肢を対象として,逍遥性静脈炎の実態に加えて深部静脈血栓症・深部静脈不全・下肢静脈瘤の有無を超音波診断装置にて検討を行った.逍遥性静脈炎については足関節以下の足部領域まで検索した.その結果,逍遥性静脈炎がある,またはあったと判断した症例は16例(47.1%),深部静脈血栓症は5例(14.7%),深部静脈不全は9例(26.5%),下肢静脈瘤は22例(64.7%)であった.バージャー病には多彩な静脈病変が存在していることがわかった.また,潰瘍が虚血性であることが除外できた場合,原因が静脈性であるかの鑑別ができる下肢静脈エコーは治療方針の決定に役立つと考えられた.

  • 内田 智夫
    2019 年 30 巻 3 号 p. 305-310
    発行日: 2019/12/26
    公開日: 2019/12/26
    ジャーナル オープンアクセス

    1993から2018年までの26年間に当科で診療した上肢深部静脈血栓症20例を対象に臨床的検討を加えた.男性11例,女性9例,年齢は16~90歳,中央値50歳,患肢は右9例,左11例であった.上肢の過剰な運動が誘因のPaget-Schroetter症候群が最も多く7例であった.悪性疾患が誘因となったものは5例で高齢者に多い傾向がある.発症初期の11例に対してヘパリンとウロキナーゼの静注による治療を行い抗凝固薬の内服治療へ変更した.このうちカテーテル的血栓溶解療法を行ったのは6例で残り5例は点滴静注とした.他の5例はヘパリンのみ使用し抗凝固薬の内服治療へ変更した.発症から相当日数が経過しているなどの理由で4例は無治療となった.症状が改善したものは10例,不変6例であった.他の4例はいずれも悪性腫瘍進行により死亡した.肺塞栓症を合併したものはなかった.上肢深部静脈血栓症はまれだがとくに片側の上肢腫脹が出現した場合は鑑別疾患として念頭において診療に当たる必要がある.

症例報告
  • 内田 智夫
    2019 年 30 巻 3 号 p. 253-257
    発行日: 2019/08/09
    公開日: 2019/08/09
    ジャーナル オープンアクセス

    retroaortic left renal veinは比較的まれな左腎静脈の走行異常である.時にNutcracker症候群と同様の機序による血尿の報告がある.また腹部大動脈瘤手術の際や腎臓移植のためドナーとして採取する場合にその処置に留意するよう注意喚起されている.当院の婦人科で卵巣腫瘍のため傍大動脈リンパ節廓清中に損傷し大量出血を来たしたretroaortic left renal veinの1例を経験したので報告する.症例は61歳女性.卵巣癌の根治目的に傍大動脈リンパ節廓清術中に静脈性の湧き上がる出血を認めた.用手的に圧迫したが出血点が確認できず,大量出血を来たし収拾がつかず血管外科へ対応を要請された.左腎動脈を露出テーピングして血流を遮断することによりようやく視野が確保された.左腎静脈が広範囲に損傷しており修復は困難と判断し縫合を行うことにより止血しえた.幸い術後約2年経過し腎機能は保持され再発の兆候もない.傍大動脈リンパ節廓清の際は術前に腎静脈の走行異常を確認することが重要である.

  • 松田 奈菜絵, 戸崎 綾子, 橋本 紘吉
    2019 年 30 巻 3 号 p. 267-271
    発行日: 2019/08/23
    公開日: 2019/08/23
    ジャーナル オープンアクセス

    段階的圧勾配をもつESを装着時の工夫や重ね履きで非段階的圧勾配になるようにして着用し集中排液治療に有効であった1例を報告する.症例は55歳女性.子宮体癌術後続発性右下肢リンパ浮腫.治療は外来で4回行い,各来院時に下肢3カ所の周径と着圧を測定し圧勾配を観察した.初回はES 1枚履き,2回目以降はESの重ね履きを行った.装着の工夫で初回から安定した高い圧迫圧を得られ,重ね履きの2回目から4回目までは非段階的圧勾配を示し周径は減少を認めた.ESを使用しての高い圧迫圧と非段階的圧勾配での集中排液治療の有効性が示唆された.

  • 内田 智夫
    2019 年 30 巻 3 号 p. 273-277
    発行日: 2019/08/26
    公開日: 2019/08/26
    ジャーナル オープンアクセス

    まれな外頸静脈の静脈性血管瘤の1例を診療したので報告する.症例は45歳女性.急に左頸部の疼痛が出現し当院を受診.造影CT検査を施行したところ最大径43×37×35 mmの囊状腫瘤性病変を認めた.外頸静脈と連続しており,一部壁在血栓を伴う静脈性血管瘤と診断した.自覚症状があるため切除術を行う方針とした.全身麻酔で左頸部に5 cmの皮膚切開を加え,中枢側および末梢側の外頸静脈を結紮して血管瘤を摘出した.術後経過はとくに問題を生じなかった.病理所見は二次的血栓形成を伴う拡張した静脈瘤で,内膜,中膜,外膜三層の高度線維化,平滑筋組織の肥厚と萎縮の混在が認められた.外頸静脈の静脈性血管瘤は内腔に血栓が生じた場合でも肺塞栓症に至ることは少ないが疼痛や美容的観点から切除することが望ましい.1987年以降の国内の報告36例を集計して考察を加えた.

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