デジタルアーカイブでは収集や共有・利用といった面が注目されやすいが,永続的に管理・保管していく保存の観点を踏まえてデジタルアーカイブを再考する.保存の観点において,保存メディア,マイグレーション,ファイルフォーマット,メタデータといったキーワードとともに,それらを選定する上での要素や導入タイミングについて述べる.
デジタルアーカイブにおいて,データを効率的に管理・運用するためには,メタデータ(データを説明するデータ)の活用が必要不可欠である.本解説では,平成27年度日本写真学会画像保存セミナーのテーマである 「保存のための管理運用保存」 の観点から,具体的なメタデータ活用事例として,文化財・出版物・Webコンテンツのメタデータを取り上げ,その現状を概観する.
東日本大震災において報道や防災機関等に加え被災者自身によって多くのボーンデジタルの映像やナラティブが記録された.それらのコンテンツを人類共有の財産として収集・保存し活用する戦略と方法,課題について 「311 まるごとアーカイブス」 の実践を踏まえて報告する.
近年,映画の製作・流通がアナログ(フィルム)からデジタルへと急速に移行している.この移行は映画の可能性を大きく広げる一方で,生成されたデジタルデータを長期間保存するという面においては,保存媒体やフォーマットがすぐに陳腐化するなど課題も多い.この課題についての調査を進めるため,東京国立近代美術館フィルムセンターでは,文化庁による 「美術館・歴史博物館重点分野推進支援事業」 の補助を受け,『映画におけるデジタル保存・活用に関する調査研究事業』 を実施している. 本稿ではこの調査事業の一環として実施した,4K 映像の長期保存に向けた取り組みについて紹介し,その中から顕在化 した課題について考察する.さらに今後の保存システム構築における重要な要素として,特定技術への依存を回避するための技術動向について触れる.
東京大学史料編纂所では, 過去の史料蒐集にもちいられた大量のガラス乾板をデジタル化し, 保存処置を施す事業を4年にわたりおこなってきた. 本報告ではその調査概要を報告すると共に, 獲得した知見に基づいて着手した, 様々な史料に関するデータおよび画像データを格納・管理する史料情報管理システムの構築の取り組みを紹介する.
昭和10年(1935)に法隆寺金堂壁画を記録した便利堂撮影の一連の写真は,昭和24年の焼損前のオリジナルの姿をうかがい知れる唯一無二の貴重な文化的資料である.撮影に至る経緯と,原板はどうやって80年後の今に伝えられたか.また遺された原板を如何にして保存し,今後如何にして利活用するべきか.
我々は,2011年3月11日に起きた東日本大震災による福島第一原子力発電所事故により炉心溶融が疑われた1号機から3号機の原子炉内部の状況を遠隔非破壊に調査するための手法として,原子核乾板を用いた宇宙線ミューオンラジオグラフィの提案を行って来た.2011年には,日本原子力研究開発機構(JAEA)の高速炉 「常陽」 の観測を実施し,炉心の非破壊イメージングの実証を行った.また,2014年3月から7月,及び2015年1月から3月の期間において,福島第一原子力発電所2号機,及び5号機の観測を実施した.本解説では,原子核乾板を用いた福島第一原子力発電所の原子炉内部の非破壊イメージングへ向けた宇宙線ミューオンラジオグラフィの技術開発とその最新の成果について解説する.
我々は,原子核乾板を用いた宇宙線ラジオグラフィという大型構造物の内部を非破壊でイメージングする技術の開発を進めている.本解説では,宇宙線ラジオグラフィの原理とその歴史,原子核乾板の技術開発とそれに伴う成果,及び将来展望と技術課題について述べる.
近年の原子核乾板はその使用用途の拡大から,より大面積をより早く解析することが重要になっている.我々は従来の625倍の視野面積をもつ超広視野型高速原子核乾板読み取り装置 “HTS” を開発した.原子核乾板画像のデジタル化には72個の撮像素子,3次元画像処理にはGPUを用いることで従来の70倍のスループットを達成した.
原子核乳剤は,感度として最小電離粒子の飛跡を構成する現像粒子数を,ノイズとして体積当りのカブリ粒子数を指標に設計されてきた.しかし,研究ターゲットの電離放射線の飛跡を効果的に記録し,実験で想定されるノイズを最小化するように設計された乳剤を用いる方が合目的である.近年,名古屋大学で実験設備が整備され,目的に応じた乳剤調製が可能となった.本報では原子核乳剤の設計に関する知見の整理を行う.
原子核乾板に用いられる銀塩写真感光材料の像形成のシステムについて解説した.さらに銀塩写真感光材料での感光の原理と増感法について説明した.光と放射線での作用の違いによる,感光過程,像形成過程の違いを含めている.
天体写真は,かつては一部のマニアでないと撮影が難しい分野だったが,近年の写真技術のデジタル化の進展に伴い,一般写真愛好家でも比較的簡単に始められる分野になってきた.しかし,被写体の特殊性のため,撮影・処理・表示方法のそれぞれについて一般写真にはない難しさも有している.この記事では,2015年9月17日に開催された 「日本写真学会第1回天体写真技術セミナー」 で行った講演内容1)をもとに,天体写真の特徴と近年のデジタルカメラの進歩のインパクト・天体写真の質を高める画像処理技術について概説する.
「写真のその場可視化」 はポラロイド社の第二の創業の課題であった.その課題は1972年発売されたモノシートカラー写真SX-70によって,カメラのサイズを除き完成の域に近づいた.しかし創設者Landの引退に伴い,ポラロイド社の方針は大衆化のための廉価版路線に変更され,インスタント写真の輝きは褪めていった.その競合だった一般写真は,小型の全自動カメラ・高感度カラーフィルム・ミニラボ短時間仕上げによって,その魅力を増していった.一方,電子カメラは1981年のマビカ発表以来足踏みを続けていたが,1995年発売されたカシオQV-10が民生品として普及の先駆けとなった.そしてランドの描いた夢は液晶ディスプレー付のデジタルカメラで実現されていく.