ヒトのリンパ球に, Phytohemagglutinin (以下PHA) に代表される各種のMitogenを添加して培養すると, リンパ球はいわゆる芽球様化現象を起こすことはすでによく知られている.
我々もリンパ球の生化学的研究の一環として, 特に核酸, 蛋白代謝の面からの芽球様化現象の細胞生物学的解析を行ない, 種々報告して来た.
今回は, 各種の血液造血器疾患, 自己免疫疾患, アレルギー疾患などにおける, いわゆる免疫不全を呈する患者末梢血リンパ球の, PHAをMitogenとした芽球様化現象をそのRNA合成の促進をもって観察したが, そこで得られた所見はこれらの疾患の病態の解明, および治療の面で役立つものと考えられたので報告する.
実験方法は患者末梢血リンパ球を分離し, 1.0×10
6個/mlとなるようにTC 109中にsuspendし, PHA-P 100μ9を添加し, RNA合成の指標として, H
3-Uridine 1μCiを加え, 24時間の静置培養をCO
2 Incubator中で行ない, 培養ののち, disc法でassayし, 核酸中に取り込まれたH
3の放射線活性を測定し, RNA合成の指標とした.
実験結果は, まず正常人群のリンパ球培養24時間後のRNA合成の促進の度合を, PHAを加えない場合を100%とする% increaseで表わすと, PHA添加群では380±70%と強く促進された.
つぎに, 各種疾患患者群で同様に検索したところ, 再生不良性貧血, 白血病, 多発性骨髄腫, 悪性リンパ腫などの血液造血器疾患においては, すべての症例で, PHA添加のもとでRNA合成促進は弱く, かつその病態の増悪によりさらに弱くなることが認められた.
ザルコイドーシスにおいては, その病態の増悪期において, きわめて強いRNA合成の抑制がみられたが, 寛解期には正常人に近いところまで改善されることが明らかであり, 同様の現象はMitogenとしてPPDを用いて同様に行なった実験においても認められた.
重症筋無力症においては, 全体に軽度のRNA合成の抑制がみられたが, とりわけBrittle typeの症例において, その傾向が強かった.
SLEをはじめとする種々の膠原病においては, 病勢の増悪期におけるリンパ球のRNA合成の促進はほぼ全例できわめて強く抑制されていることが認められたが, 一方寛解期においてはかなりの改善がみられた.
また急性ウイルス性肝炎では明らかに, PHA添加リンパ球のRNA合成は弱かったが慢性肝炎では逆に, 強いRNA合成の促進がみられた.
さらに, 肝硬変症においては, RNA合成は著るしく抑制されていることが認められた.
急性化膿性炎症では全例できわめて強いRNA合成の促進がみられた.
とりわけ本実験において注目されたことは, 伝染性単核症である. 頻回にわたって検索したにもかかわらず, 本症患者リンパ球は, PHAに対する反応性を全く欠いていた.
しかしながらこの現象に関しては, 未だ症例数が少いため, その解明には今後の検討を待たねばならないものと思われる.
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