N-Ethyl-N'-Nitro-N-Nitrosoguanidine投与により発生した犬胃癌の全身性転移
すでに発表 (栗原稔, 安井昭共著, 実験胃癌, 医学図書出版ほか) してきたように, 犬の実験胃癌作製に, 従来用いられたN-methyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine (MNNG) に変えてENNGを用いただけでなく, 杉村らの飲料水として発癌剤を投与する方法を, 固型飼料に発癌剤溶液を浸漬して, 一度に摂取させるように変えたわれわれの方法では, 従来の方法より早期にかつ進行した胃癌をつくることに成功した. しかも雑犬1頭とピーグル犬3頭に所属リンパ節のみならず, 遠隔リンパ節転移が, ビーグル犬No. 7に肝転移が発生した.
今回は, 実験開始後1591日にメレナで死亡したビーグル犬No. 8に全身のリンパ節および臓器転移, 癌性腹膜炎を認めたので報告した. 死亡直前の検査成績でも, GOT 96u, GPT 256u, Al-P28.6K. A. u., LDH 311u, Hb 9.4gr/dl, Hct 27.8%など, われわれが調べた正常ビーグル犬の正常値と比較して明らかな異常値を示した.
剖検時, るいそう著明で膨隆した腹部を切開すると黄色透明な腹水180mlを認めた. 細胞診では印環型癌細胞を認めてclass Vであった. 胃は, 噴門直下後壁将膜側で腫大したリンパ節塊と硬く癒着していた. 胃を小彎側で開くと, 噴門直下後壁には108×77mm大の深いKraterを存するBorrmann 3型癌があり, 組織学的には低分化型腺癌で漿膜に浸潤していた. 他に胃角部にびらん, 前庭部に2個の隆起性病変を認めたが, 特染により精査中である. なお, 犬がまだ生存中の1190日にBorrmann 3型癌のKraterから生検した組織片2個が, ヌードマウスに移殖された. この成功は, 1974年秋, フローレンスで開かれた第11回国際癌学会で発表し, また上記著書やJ. IRCSで報告した. その後, 藤田らも犬実験胃癌のヌードマウスへの移殖に成功した (私信). 犬No. 8のリンパ節転移は, 腹腔内, 胸腔内などに大小無数認められた. 肝には, 30×20mm, 20×17mmの大きさの2個の転移, 肺には多発性の小結節性転移, 両側の下肢に骨転移, 無数の全身皮下転移なども認めた. これら転移形式から, 犬胃癌は人胃癌と同程度に悪適であることが明らかになった. しかもわれわれの方法では, 従来のMNNGを飲料水として経口投与した場合の欠陥であった, 小腸の肉腫発生による犬の斃死は全く認めなかったので, 標的臓器は「胃」だけである. 以上のようなわけで我々の方法による発癌は実験胃癌モデルとして最適である.
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