胎盤の胎児発育に関する調節機構のうち, 特に胎盤絨毛のc-AMP dependent protein kinase活性の動態と胎盤の発育および機能との関連について検討するため, 妊娠各期のヒト胎盤絨毛c-AMP dependent protein kinase活性を測定した. またヒト胎盤絨毛c-AMP濃度, 蛋白質生合成の一端を担うとされるRNAおよびDNA濃度, さらにステロイド生合成に関与するAromatizing enzyme活性を併せ測定し, 検討考察した.
1. ヒト胎盤絨毛c-AMP dependent protein kinaseのspecific activity (p moles ATP/mg protein/minute) は, 正常妊娠のfirst, secondおよびthird trimesterで, おのおの44.67±5.29, 45.24±9.13および34.19±4.95であった.
2. ヒト胎盤絨毛c-AMP濃度は正常妊娠の各trimesterで, おのおの56.45±9.26, 59.90士15.51および22.54±4.59 p moles/mg proteinであった.
3. ヒト胎盤絨毛のRNA濃度 (mg/g wet tissue) は各trimesterにおいて, おのおの2.48±0.20, 2.57±0.58および2.63±0.42, DNA濃度 (mg/g wet tissue) は, おのおの1.62±0.34, 2.49±0.34および2.92±0.45であり, そのRNA/DNA比は, おのおの1.61±0.10, 1.08±0.17および0.89±0.15であった.
4. ヒト胎盤絨毛のAromatizing enzyme活性 (products n moles/flask/30mimutes) は核を含むtotalhomogenateでは各trimesterにおいて, おのおの2.75±0.70, 3.40±0.11および4.86±0.85であり, 核を含まないcell free homogenateでは, おのおの1.16±0.30, 0.90±0.33および1.80±0.70であった.
以上の成績より, 妊娠の進行に伴い個々の胎盤絨毛細胞は小さくなり, その重量も減少する傾向にあるが, 組織の機能としては必要に応じて増大し得ると考えられる. さらに, c-AMP-c-AMP depedent proteinkinase系は物質の能動輸送あるいは蛋白質代謝を介して, 胎盤の発育, 成長および維持に重要な役割を果たしている可能性が強く示唆された.
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