今回われわれは, Polymerase Chain Reaction (PCR) とドットブロット法を応用することにより, 泌尿生殖器感染症の原因となる
Chlamydia trachomatis (CT) 感染を検出し, そのCTの血清型 (D-K型, 8種類) を簡便に診断する方法を開発した. 各CTは菌体外膜蛋白をコードする遺伝子領域内の4つのvariable domain (VDI-IV) の一部に型特異的塩基配列を持つ. そこでPCRの標的DNA領域としてこのVDI-IVを含む領域を選び, このDNA領域を増幅するために, その前後を挟むプライマーとしてCTの全ての型, および
Chlamydia psittaci (CP) に共通する塩基配列を選びDNAを合成した. 各型のCTおよびCP感染培養細胞より抽出したDNAを用いた場合, PCRによりこれら全ての試料で特異的増幅が認められ,
Chlamydia感染が証明された. 実際に子宮頚管粘膜材料94例について検討した結果, この方法で調べたCT感染陽性率 (35.1%) は従来のChlamydiazyme法 (25.5%) に比べて高く, より高感度であった. 続いてD-K型のCT8種類を識別するために, PCR増幅後の標的DNAとわれわれが合成したDNAプローブを用いたドットブロット法を行った. 用いたDNAプローブは, 8型のCTのVDI-IV遺伝子領域内から7箇所の型特異的核酸配列領域を選び合成した. 各型のCT感染培養細胞より得た標的DNAを検討した結果, D-I・K型の7種類で既知の核酸配列から予想される結果と一致するドットハイブリッド形成を認めた. 一方, J型においては予想外の結果が得られたが, これについては, 用いたJ型CTに突然変異が存在するためか, 報告された核酸配列に問題があるのか, なお課題を残した. 以上より, PCRを応用することで高感度にCT感染の診断が可能となり, さらにドットブロット法を組み合わせることで従来の方法に比べてより簡便, かつ信頼性のある型別診断ができることが示された.
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