目的: 胃粘膜損傷の修復過程における各種温度の細胞の遊走能と増殖能の役割を温度感受性細胞を用いたモデルより検討した.
対象: SV40のT抗原遺伝子を遺伝子導入したtransgenic mouseの胃粘膜細胞を株化したGSM06を用いた.
方法: GSM06細胞をDaigo's T培地で37℃, 5%CO
2環境下で72時間培養しconfluentなcell sheetを作製した. 既報の方法に従い人工的損傷作製後, 異なる温度環境下で培養を行った. さらに, 同一の人工的損傷を用いて対照群 (33℃), 培養12時間後に37℃に上昇させた群, 同様に39℃に上昇させた群に分けて温度変化の影響を検討した.
評価方法と成績: 損傷修復能の評価は, 位相差顕微鏡下に損傷の修復過程を12時間ごとに48時間にわたり記録し, 損傷部面積を画像解析装置を用いて計測した. 細胞増殖能はBrdUを用いた免疫組織化学的手法に従って, BrdU陽性率を算定して解析した.
各温度において損傷は時間経過とともに修復したが, 培養温度において修復速度には有意差が認められた. 33℃が最も遅く, 培養温度を上昇させるに従い修復速度は増したが, 41℃では, ほぼ37℃と同じ修復過程を示した. 培養経過中の温度変化に対する反応を観察した群では33℃から37℃上昇群, および33℃から39℃上昇群とも上昇後に修復速度の増加が認められた. BrdU染色では, 損傷修復にともなってその陽性率は高値を示した. しかし, 培養時間の経過とともに増殖能には有意差が認められ, 33℃群は37℃群・39℃群・41℃群に比して, 36時間・48時間で有意に高かった.
結論: 正常胃粘膜細胞と同様にGSM06細胞でも損傷修復能は細胞遊走と増殖によって成立していた. しかし, この細胞の遊走, 増殖能は培養温度によりいちじるしく異なり, 損傷修復には33℃環境下では増殖が大きな役割をはたし, 39℃環境下では遊走が大きな役割をはたしていた.
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