順天堂医学
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44 巻, 4 号
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目次
Contents
特集 再興感染症 ―結核をめぐって―
  • 小栗 豊子, 三澤 成毅, 猪狩 淳
    1999 年 44 巻 4 号 p. 359-371
    発行日: 1999/03/10
    公開日: 2014/11/21
    ジャーナル フリー
    抗酸菌検査は臨床微生物検査の中で最も迅速化が望まれている検査である. 患者検体の塗抹鏡検は短時間で成績が得られるが, 材料中の菌数が104/ml以上でないと検出は難しい. 小川培地を用いた培養検査では2週-2ヵ月を必要とし, さらに薬剤感受性検査には3週間以上を要する. 従来の抗酸菌検査は臨床での有用性がほとんど期待できなかったが, 最近, 感度・正確性ともに優れた遺伝子検査が導入され, また, 培養や薬剤感受性検査にも液体培地を用いた自動検出装置が開発され, 国内での検討が進められている. これにより, 培養検査は1-2週で, 薬剤感受性検査は1週以内に成績が得られる. これらの新技術を含めた検査の特徴を述べ, また, 当検査室での抗酸菌検査の集計成績についても触れた.
  • -肺結核-
    佐藤 一彦
    1999 年 44 巻 4 号 p. 372-382
    発行日: 1999/03/10
    公開日: 2014/11/21
    ジャーナル フリー
    1997年, 新規結核患者数が38年ぶりに増加に転じ, 結核が再興感染症として注目されている. 結核症は感染後すぐに発病する一次結核と長い年月を経てから発病する二次結核という二つの病態があり, 感染と発症の間の大きな時間差が特徴で, 人口の高齢化に伴いこのことが結核再興の要因の一つとなっている. 結核の治療は1996年4月の結核医療の基準の改訂により, ピラジナミド (PZA) を含む4剤併用が標準治療となった. PZAの主な副作用は肝障害と高尿酸血症である. わが国の初回治療例のイソニアジド・リファンピシン・ストレプトマイシン・エタンブトールの4剤に耐性の結核菌の頻度は0.4%である. しかし再治療例では, 多剤耐性例は4.3%におよぶ. 若年者の結核未感染者の増加により, 院内感染 (集団感染) が大きな問題となっている. 十分な感染防止策が望まれる.
  • 荻原 達雄, 小林 修, 大野 康彦, 寺井 毅, 佐藤 信紘
    1999 年 44 巻 4 号 p. 383-387
    発行日: 1999/03/10
    公開日: 2014/11/21
    ジャーナル フリー
    消化管に生じる結核感染症のうち, 最も頻度が高いのが腸結核 (小腸および大腸結核) である. 肺結核の合併症として発症する続発性腸結核は, 近年肺結核とともに減少してきたが, 腸管が初感染巣と考えられる原発性腸結核の割合は増加しており, 最近では, 腎移植・透析・AIDSなどの免疫不全状態に伴う腸結核の増加もみられる. 腸結核はリンパろ胞が発達している回盲部が好発部位である. 症状として下痢を訴える例はむしろ少なく, 下腹部不快・腹部鈍痛・衰弱感などの多様な愁訴を初発症状とすることが多い. 活動期の肉眼形態として, 不整な小潰瘍の輪状配列や輪状・帯状・地図状潰瘍がみられる. 治癒期には, 線状瘢痕の多発, 瘢痕萎縮帯などの特徴的所見が長期間持続する. 腸結核の診断は, 生検組織で結核結節 (乾酪性肉芽腫) の証明および, 便および生検組織の結核菌培養によってなされる. 便の結核菌培養陽性率は低いのに対し, 病変部組織培養の陽性率は高く診断上有用である. 近年は結核菌のDNA増幅法 (PCR) による分子生物学的診断が腸結核に対しても実用化されており, 結核菌表層糖脂質成分のひとつであるcord factorを抗原として用いる血清学的診断も研究されている.
  • 大日方 薫
    1999 年 44 巻 4 号 p. 388-393
    発行日: 1999/03/10
    公開日: 2014/11/21
    ジャーナル フリー
    かつて国民病とまで言われた結核は順調に減少し, もはや過去の感染症という印象がある. しかし最近ではその減少速度は鈍り, 再興感染症として注目されるようになってきた. 小児では粟粒結核・結核性髄膜炎など重篤な結核症として発症することが多く, その診断・治療, および予防対策が重要である. 小児結核は家族内感染が多いことから, 成人患者診断時には迅速な接触者検診を行い, 感染小児の発見と適切な発症予防処置をとらなければならない. また乳児期早期のBCG接種を勧めることにより結核の感染予防に努める. 結核が疑われた場合には一回だけの検査で否定せず, 結核菌の検索を繰り返し行うことが大事である.
  • -結核をめぐって-
    山川 卓也
    1999 年 44 巻 4 号 p. 394-400
    発行日: 1999/03/10
    公開日: 2014/11/21
    ジャーナル フリー
    耳鼻咽喉科領域の結核患者数は, 抗結核剤の普及前に比し, 予防医学の充実の成果で着実に患者数は減少してきた. しかし, 近年の社会情勢やHIV感染症のために, その減少傾向はやや鈍化しており, 依然として外来診療で結核に遭遇する機会は絶えていない. さらに, 結核の診断に際してはその頻度の減少から, 迅速な診断ができずに特に悪性疾患との鑑別に苦慮することが多いと思われる. 今回われわれは, 過去10年間の当施設における耳鼻咽喉科領域の結核症例と文献上調べることのできた症例について検討した. 耳鼻咽喉科領域では喉頭結核と頚部リンパ節結核の症例に関し, 喉頭結核と頚部リンパ節結核1例ずつを症例を挙げて検討を加えた. 結論としては, 耳鼻咽喉科領域においても結核症例は減少したが, その存在を念頭に置いて診療を行う必要があることを再確認した.
原著
  • 組橋 英明
    1999 年 44 巻 4 号 p. 401-409
    発行日: 1999/03/10
    公開日: 2014/11/21
    ジャーナル フリー
    目的: インフルエンザワクチンの有効性は, ワクチン株と流行株の抗原性の一致性に影響されると考えられている. 本研究では抗原変異に対して, どの程度インフルエンザワクチンの予防効果が期待できるかを推測するため, ワクチン被接種者における抗原変異株に対する抗体応答を検討した. 対象および方法: 1987年・1988年・1992年・1993年および1996年の各年度に, ワクチン接種を受けた成人から採血を行い, 得られた血清のワクチン株および次年度ワクチン株に対するHI抗体応答を比較検討した. 結果: インフルエンザワクチンの接種によりA/H1N1型・A/H3N2型およびB型の全ての株につき, 次年度ワクチン株に対しても有意にHI抗体価が上昇することが認められた. 感染防御水準とされている64HI抗体価以上の割合 (抗体保有率) は, ワクチン株に対して90.0%-100%であったが, 次年度ワクチン株に対しては27.3%-79.1%であった. また, 前年にワクチンを接種した群のワクチン株に対するHI抗体価は接種しなかった群より低かった. 結論: 現行インフルエンザワクチンはワクチン株に対して極めて良好な抗体応答を惹起する反面, 同型の次年度ワクチン株に対するHI抗体価の上昇は年度により大きく異なることがわかった. また, 前年度にワクチン接種を受けた場合に, ワクチン接種によるHI抗体価の上昇がやや低いという問題点のあることも認められた.
  • 滝沢 弘之, 佐藤 富男, 田中 新樹, 谷口 裕, 福井 光峰, 富野 康日己
    1999 年 44 巻 4 号 p. 410-414
    発行日: 1999/03/10
    公開日: 2014/11/21
    ジャーナル フリー
    目的: 血液透析患者数は, 高齢化を伴って年々増加の一途を辿り合併症も多様化してきている. 一方, 透析膜の生体適合性の向上についても研究が重ねられ, 改善がはかられている. 今回, セルロース膜表面に抗酸化剤であるビタミンEをコーティングしたダイアライザー (クリランス®EE) の生体適合性向上効果について臨床評価を行った. 対象と方法: 安定した透析患者12名について表面改質セルロース膜ダイアライザー (クリランス®EE) を用い1年間連続使用し, 同時に生化学的ならびに, 血清学的に生体適合性の評価を行った. また, 臨床症状を比較検討した. 結果: 1年間の評価で, メチルグアニジンの低下傾向, 血清補体C3aの有意な改善ならびに透析後の残血量の有意な減少が認められた. 結論: ビタミンE固定化ダイアライザー (クリランス®EE) は, 生体適合性の改善に有効であることが示された.
  • 岩下 公江, 山高 篤行, 森岡 新, 小林 弘幸, 岡崎 任晴, 宮野 武
    1999 年 44 巻 4 号 p. 415-422
    発行日: 1999/03/10
    公開日: 2014/11/21
    ジャーナル フリー
    緒言: 近年, 膀胱拡大術後の中期・長期経過観察例に於いて, 形成膀胱からの悪性腫瘍発生の報告が増加してきている. 対象・方法: 今回著者らは自験膀胱拡大術後症例 (n=100: 手術時年齢平均10.6歳) に対し, 術後定期的に施行した膀胱粘膜生検検体をもとに, 異形成や悪性化の有無に注目し, 形成膀胱粘膜の組織学的検討を行ったので報告する. 結果: 膀胱粘膜の扁平上皮化生を5例に, 過形成を2例に認めた. しかしながら, 全例に異形成および悪性化の所見を認めなかった. 術後短期 (術後5年未満) 経過44例, 中期 (5-10年) 経過48例, 長期 (10年以上) 経過8例の3群間のH-E染色, PCNA染色には, 有意な差異を認めなかった. 術後膀胱洗浄非施行例, 膀胱結石を有する症例におけるPCNAの発現は, 膀胱洗浄施行例, 膀胱結石を有しない症例に比し有意に強かった. 結論: 自験例に於いて膀胱洗浄の継続を指導し, 特に膀胱結石発生症例では, 少なくとも1年に1回の膀胱鏡検査 (生検による組織学的検査を含む) が必要であると考える.
  • -結婚・出産・育児・介護および就業に関する意識調査から-
    彭 潤希, 佐藤 龍三郎, 武藤 孝司
    1999 年 44 巻 4 号 p. 423-433
    発行日: 1999/03/10
    公開日: 2014/11/21
    ジャーナル フリー
    目的: 本研究では, 意識調査をもとに未婚女性の結婚に関する阻害要因を探り, その背景要因との関連を明らかにすることを目的とした. 対象: 調査に協力の得られた東京都内にある大学・専修学校5校と事業所5ヵ所に在籍する18歳以上35歳までの未婚女性859人を対象者とし, 回答の得られた666人 (77.5%) について解析した. 方法: 学校・事業所の担当者を通して調査票を配布し, 調査対象者が自ら記入した後, 自ら封入して, 郵送にて回収する形式で調査を行った. 本研究では結婚の障害になると思われる条件として, (1) 「家事の大半を自分がする」 (2) 「結婚したら仕事をやめる」 (3) 「出産・育児のために仕事をやめる」 (4) 「夫の親と同居する」 (5) 「夫の親を介護する」という5つを設け, クロス集計およびχ2検定を行った. 解析には統計パッケージSASを用いた. 結果: 1) 5つの条件のうち (4) と (5) が, 大いに結婚の障害になると意識する者の割合が最も高かった. また勤労者と学生の間で, 大いに結婚の障害になると意識する者の割合に差がみられた条件は, (2) (3) (5) であった. 特に条件 (5) は, 勤労者で結婚の障害になると意識する者の割合が高かった. 2) 年齢別の解析の結果, 年齢が高いほど上記5つの条件すべてにおいて, 大いに結婚の障害になると意識する者の割合が高かった. 特に比較的高年齢の勤労者において, 上記の5条件が結婚に対する障害になっていると意識する者の割合が顕著に高かった. 3) 上記の条件 (2), (3) については, 学生の母親のライフコースとの関連が, 条件 (4), (5) については, 勤労者の母親のライフコースとの関連が示唆された. 結論: 1) 夫の親の介護問題は, とりわけ比較的高年齢の勤労者において結婚の妨げとなる重大な要因の一つと考えられた. 2) 年齢の高い未婚者ほど, 家事の負担, 仕事の中断, 相手の親との同居, 相手の親の介護を結婚に対する障害として意識する者の割合が高かった. 3) 母親のライフコースは, 学生の場合, 結婚・出産による一時退職を結婚への障害と感じる意識の一因となっている可能性が, また勤労者の場合, 夫の親の介護を結婚への障害と感じる意識の一因となっている可能性が示唆された.
  • -アンケートと訪問調査から-
    若松 弘之
    1999 年 44 巻 4 号 p. 434-447
    発行日: 1999/03/10
    公開日: 2014/11/21
    ジャーナル フリー
    目的: 寝たきり予防におけるかかりつけ医機能と役割について検討し, 寝たきり予防への具体的な方向を求めることを目的とした. 対象: (1) 都内某区にて『かかりつけ医機能推進事業』に登録している医師133名全員をアンケート調査の対象とした. (2) 訪問調査ではカルテ調査で抽出した97名のうち, 寝たきりになった当時に区内診療所の医師を受診していた者が19名おり, 彼らのその当時の主治医15名を対象とした. 方法: (1) アンケート調査では郵送法にて実施した. (2) 訪問調査に際しては, まず寝たきり老人 (厚生省作成の障害老人の日常生活自立度判定基準ランクB・C) をカルテから抽出し, その症例が寝たきりになった時期の主治医を特定した. このうち, 協力が得られた区内診療所医師に対し, 訪問して対面聞き取り調査した. 結果: (1) アンケートは133名中80名から回答 (回収率60%) を得た. 調査期間中に在宅で寝たきり患者を受け持っているとの回答が53名 (68%) あった. そのうち2週に1回以上往診をしていると回答した者が46名あり, 46名のうち70歳以上が18名 (39%) であった. かかりつけ医が結びつけた社会資源のサービス内容別では, ヘルパー派遣・訪問看護・機能訓練事業が多く, 職種や機関では保健婦やケースワーカー・訪問看護ステーションが多かった. (2) 訪問看護ステーションと保健福祉センターから抽出した97名の寝たきり老人において, 現在, 在宅で診てもらっているのは約79%が診療所であるが, 寝たきりになる前ないし, 寝たきりになった当時に診てもらっていたのは約78%が病院であった. 結論: 寝たきり予防におけるかかりつけ医機能として, 普段からの健康管理機能に加え寝たきりの恐れが高いと予測したときに在宅福祉サービス, といった社会資源への紹介を通して地域医療と地域保健福祉を結びつけることが挙げられる. さらに, 寝たきり予防に向けた積極的な病診連携への取り組みが, 都市部でのかかりつけ医機能ないし役割として求められていくと思われる.
抄録
てがみ
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編集後記
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